13
『――ごめんなさい』
華やかなイルミネーションが眩しい季節。光坂市に数年ぶりの雪が降り、行き交う人々がみな色めき立っていたあの日の夜。
初めて、彼女の涙を見た。
『ごめんなさい、久城くん。……私……が……』
寒さで赤くなった頬を、つ、と滴がつたって、グレーのチェスターコートに染みこむ。白い吐息が、血色を失った唇から不規則に零れていた。
『――あ……』
突然、大きな瞳が浬よりも遙か上、天を見上げた。そこに何かを見つけたように。あるいは、縋るように。
そしてそのまま、彼女はふらりと――
――――……
「…………――――!!」
自分が何かを叫んだことだけは分かった。
(……あれ、いま俺、何て言った?)
うとうとしながら自問自答するが、突如大ボリュームで鳴り響いた音によって思考は途切れた。枕元に置いたスマホからだ。
朝の七時四十分。浬の一日は、某有名RPGのファンファーレから始まる。
冷水で顔を洗い、黄色い鳥のキャラクターがデザインされたタオルの中で盛大な溜息を吐いた。内容はよく覚えていないが、嫌な夢を見た気がする。
(……昨晩の、死刑宣告のせいだな)
タオルから顔を上げると、鏡の中の自分と目が合った。
疲れた顔に、寝癖が付いた黒髪、目の下に浮かぶクマ。浬が目に見えて弱っているところを見せると、噂好きの社員達はすぐ囁き合うだろう。
『やっぱりアスクロ、サ終が近いんじゃない?』
半分濡れたタオルを、洗濯機の中へ乱暴に放り込む。身支度を整える間もずっと、頭の中では長谷田課長の言葉が繰り返し再生されていた。
◆
ICカードにもなっている社員証をかざしてオフィスに入り、
「おー久城、アスクロ、いよいよサ終なんだって?」
しかも、最悪の話題。今すぐ魔法で家に帰りたくなった。しかしここは屋内だ。てんじょうにあたまをぶつけてしまう。
「……戸部」
「あ、他のやつらに聞こえたらまずいか。悪い悪い!」
全く悪びれずに笑うその男は、戸部淳也。浬や東とは同期の男で、今は
当初、井坂が
しかし、浬はアスクロに残ることを選んだ。代わりに選ばれたのがこの戸部だ。そんな経緯のせいか、戸部は事あるごとに浬を目の敵にしている。
ワックスを塗りたくった、雑なポリゴンで作られたかのような戸部の髪を見やりながら、浬は嫌々応じた。
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