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「人を増やすということがどういうことか、俺にも分かっているつもりです。利益を出すためには、当然ながら今以上の売上げが必要です。一度下がったソシャゲの売上げを回復させるのは相当難しいことだというのも、理解しています」
「……ははは、珍しく必死だな」
長谷田は少し面食らったようだったが、それを誤魔化すように笑って見せた。浬は反論しなかったが、心の中ではこう吐き捨てていた。
俺は、いつも必死だ。と。
「なんだい、さっきの天宮さんがそんなに気に入ったのか? アスクロが好きだって言ってくれたからか? だとしたら単純だなぁ。それとも、見た目が好みだった?」
「外見で選んだのかと勘ぐることは、女性に対しても、俺に対しても失礼です」
氷系魔法にかかったように、その場の空気が凍り付いた。
長谷田は口の端を引きつらせ、井坂はあわあわと目に見えて焦りだす。しかしその背後にいる草壁部長は、髭の下で笑みを浮かべていた。
井坂が、長谷田と浬を交互に見やりながら慌ててフォローを入れる。
「ま、まぁまぁ! 確かにプロデューサーとプランナーの兼任は厳しいでしょうし、久城くんがそこまで言うなら……」
「ふんっ、どっちにしろダメだ。あんな非常識な格好で面接に来るやつなんか、社会人としてだな……」
「服装を理由に落とすことは出来ませんよ」
浬はノートパソコンの画面に目を通しながら、長谷田の言葉を遮った。太い眉が不機嫌そうにぴくりと歪む。
「なんだと?」
「今、募集要項見てたんですけど。面接時の服装は自由だと書いています」
「は?! そんなはずは……」
「あっ」
久しぶりに声を出した草壁が、何故か可愛く両手で口を押さえていた。全員の視線を受け、この部屋で一番偉いその人は「ありゃ、ごめんねー、それ僕のミスだわ」と、謝罪した。
「へ? ミスって……」
「ほら、うち、勤務のときは服装自由でしょ? いつもそのことを募集要項に書くんだけどさ、間違えて面接の案内ところに『服装自由』って書いちゃってる」
「……………あー………な、なるほど。なら、えっと……」
「ごめんねー、服装に対しては文句言えないね」
服装自由だからといって勇者の格好で面接に来るやつなど他にはひとりもいなかったし、一般的には『さすがにちょっと』と思われても仕方がないだろう。しかし、上司のミスから生まれたと思われる珍事に対して、これ以上異を唱えようとする者は現れず――そのどさくさに紛れるようにして、浬の要望は通ったのだった。
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