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心臓が妙な音を立てて跳ねる。まるで、下っ端の自分には話が振られないのを良いことに、くだらない妄想を楽しんでいたことを見透かされているような、そんな居心地の悪さ。
(……なんだ?)
自分でも上手く説明出来ない感覚に首を捻っていると、隣に座っていた井坂が嬉しそうに身を乗り出した。
「アスクロ? わぁ、嬉しいな。僕、元アスクロのプロデューサーなんだよ。今はこの久城くんが担当してくれてるんだけどね」
名前を呼ばれてハッとする。……そうだった。アスクロ――アストラ・クロニクル。自身が担当するゲームのタイトルが飛び出したから、ドット絵の世界から現実に帰って来たのだ。
「そうなんですか。お会いできて光栄です」
勇者はそう言って、ふわりと花のように微笑んだ。
そこで、浬はようやく気付いた。勇者は、なかなか美しい顔立ちをしている。
いわゆる派手顔ではないが、目や鼻、唇と全てのパーツが形良く、上品な印象だ。透き通るような藍色の髪は肩に触れるか触れないかの長さ。耳に掛けた前髪が彼女の頬に落ちる時には〝さらり〟というSEが聞こえてくるよう。まるで美麗な3Dグラフィックが自慢のMMORPGでキャラメイクしたかのような……まぁ、服装は
好みの美人を生み出すためキャラメイクに数時間を費やした黒歴史を思い出しながら、浬は軽く頭を下げて「どうも」と短く応じた。
「じゃあ、アスクロの新任プロデューサー久城くん、何か聞きたいことはあるかな?」
赤い帽子を被った元配管工にそっくりな草壁部長は、浬を見て口角を上げた。担当ゲームの話が出て来たらそうなるよなと思いつつ、浬は面接シートに目を通し、問いかける。
「プランナー志望とのことですが、先ほど話に出たアスクロの改善点……こういったところを直してほしい、という点はありますか? プランナーになりきって答えていただいても良いですし、ユーザー目線でも結構です」
「……お、おいおい久城くん、ちょっと難しくないかな。その質問は」
井坂は慌てたように浬と勇者を見比べたが、浬は「そうですか?」と返しただけで質問は変えなかった。だって勇者は――天宮星七はその目をキラキラと輝かせ、頬を紅潮させ、興奮を抑えきれない様子で身を乗り出していたからだ。
――あぁ、これは。
「改善点と言うにはおこがましいんですけど、こういうイベントや機能が欲しいなっていうのはあります! その、五十個ぐらい!」
――魅入られたやつの、目だ。
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