リアライズ
一ノ瀬 夜月
第1話
「やったー、50PV達成した!」
つまりは、五十人の人が私の書いた小説を読んでくれたって事だよね?すごい、こんなの初めてだよ。
今までは、多くても十数人とかだったのに、まさかのその三倍以上。これは、次の話もすぐに書かなくちゃ。
私は、柚月麻理。趣味で短編小説を書いている、まぁ言ってしまえば小説家もどき。
最近、小説を投稿するサイトを変えて、
そこで短編を数作出してみたのだけど、その内の一作品がかなり伸びたんだよね。ちなみに、伸びたって言うのは作品を読んでくれる読者が増えたって意味。
「といっても、ランキング上位の方々の作
品や、書籍化が決まっている作品にはとても届かないけど。」
それでも、嬉しい物は嬉しい。私の書いた小説を評価してくれる人がいる。私を応援してくれる人がいる。
その事実を実感するたびに、心の底からわくわくしてくる。気持ちが昂ぶる。
「さて、次の作品に取りかかろう。」
今度は、どんな物がいいかな?今の気分的に、書くなら明るい系の話で...
数日後...
ついにできた。今回のは、かなりの自信作
かもしれない。
これまで、主要なキャラクターは、主人公しかいなかったけど、今回は、主人公以外にも
三人のキャラクターを描いてみた。
そして、私自身、書くのが苦手な男性キャラクターにも挑戦してみた。
「投稿完了っと。さて、何PV付くかな?
読者の反応がとっても楽しみ。」
と思っていた矢先、時計の針は、八時を指していた。
おっと、いけない。スマホに気を取られすぎた。もう、学校に行く時間だ。荷物を持ってこないと。
その後、学校の休み時間にて...
「なかなかPV数伸びてないなー。何がいけなかったんだろう?」
などと独り言を言っていると、後ろから誰かが現れた。
「どうしたの?浮かない顔してるね。何か悩みでもあるの?」
話しかけてきたのは、クラスメイトの梨花。クラス内では、仲が良い部類には入るが、正直あまり好きになれないし、どこか馬が合わない。
合う合わないはさておき、相談相手には、適していそうなので、私は梨花に事情を話してみた。
「つまり、小説を書いているけど、あまり
読者の反応が良くなくて、悩んでいるって事だね。」
私が相槌を打つと、梨花はまた話し出した。
「麻理は、気にしすぎなんじゃないの?
読者の反応とかを。それより、今日の模試を気にすべきだと思うよ。今の調子だと、多分結果がかなり悲惨な事になりそうだし。」
というように、軽く流されてしまった。この子に相談した私が馬鹿だったか。ちっとも分かってない。
私はもっと、読者の方々に作品を見て、喜んで欲しいだけなのに。
「分かった。今から勉強するよ、それで良いんでしょう?」
などと、素っ気ない返事を返し、勉強を始めた。そして、迎えた模試だが、受けた感触は最悪だった。帰宅後におこなった自己採点の結果も、過去最低点を叩き出した。
この結果は、さすがにまずいと思いつつも、模試が悪かったストレスを何かにぶつけたい。そう思ってまた、小説を書いた。
しかし、何を書こうと一向に伸びない。それどころか、読者がどんどん減っていってしまう。
「どうして?もっと私の作品を見てよ。褒めたり、応援してよ。」
私は、段々、おかしくなっていった。毎日、勉強時間や睡眠時間を削ってまで、小説を書き続けた。そして、ひたすらに読者の反応を求め続ける。注目を、脚光を欲している。
そんな生活を続けていたある日、私は単純な事に気づいた。自分が小説を書いていて、楽しくなくなっていることに。私自身が、自分の作品を面白くないと思ってしまっている事に。
「これじゃあ、私は、何のために小説を書いているかわからないじゃない!」
考えろ、思い出せ。そもそもは、初めて読んだライトノベルが面白くて、小説家に憧れて、自分で作品を描いてみたくなったんだ。
それがいつしか、読者の反応を追い求めて、ただ、注目される事を欲するようになっていた?
「そんなの、意味ないじゃない。全然違う。私がなりたかった小説家は、そんなエゴに塗れた人たちじゃない。」
その事に気づいてからは、私は小説を書くのを一旦休業した。あのまま書いていても、絶対に面白い作品なんて書けなかったし、多分正解だと思う。
でも、いつか。いつか、また書こう。小説を、自分の書ける最高の小説を。
リアライズ 一ノ瀬 夜月 @itinose-yozuki
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