彼女の話②

 ほら、窓の外を見下ろしてみて。アイツらがたくさん徘徊しているのが見えるでしょ? この町はどこもこんな状態。多分他のところも、似たような状況だと思う。

 アイツらについてわかっていることは、あまり多くはない。ゾンビ、と呼ぶのが正しいのかもわからない。ただゾンビのような何か、なのは確かかな。アイツらは足も早くないし、動きも鈍い。でも、死ぬほど厄介でもある。だってアイツらは感染して、増殖するから。

 アイツらに噛みつかれて殺された人間は、やがてアイツらの仲間になる。アーアーと呻いて次の獲物を探して徘徊する、おぞましい怪物の仲間に。どうしてそうなるのかはわからない。病気の一種なのか、何処かから流出した新種の細菌兵器って説もあるし、寄生虫の一種って話もある。結局、何が正しいのかはわからない。わかるのは、アイツらに捕まったらダメってことだけ。


 どこからともなく現れたアイツらの増殖のせいで、街中はもう壊滅状態。電気や水道は生きているけど、報道が機能してなくて街の外の様子はよくわからない。

 私はこの家に立て篭ってたけど、ここも時々、こっちの気配を感じたアイツらがドアを破ろうとしてくる。だからその度に出ていってをすることにしてる。アイツらも頭を潰すと動かなくなるから……ね。

 カメラで見てたから知ってるけど、君の家も似たような状況だったね。上手く家に立て篭って、アイツらの侵入を防いでた。私もそれを見て、君が無事で良かった、って思ってた。


 でも、あの夜。君が寝ている間に……状況は変わった。多分、きっかけは火事だったんだと思う。家のどこかが燃えて、それにアイツらが引き寄せられた。アイツらは暗い間はあまり動かないけど、光には反応するから。そして燃えた崩れた壁から家の中に入って……君の家族を襲った。

 映像で異常に気がついた私は、すぐに君の家に向かった。アイツらが溢れかえっている夜の街の中を、必死で、全力で走った。だけど……だけどもう、手遅れだった。私が着いた時にはもう、君以外の家族はアイツらに襲われていて、家は至る所に火が回っていた。

 邪魔なアイツらの頭を潰しながら、私は何とか君の部屋に向かった。部屋の中で君が倒れているのを見つけた時は、頭が真っ白になった。世界が終わったような気がした。多分あの時、君は一時的に気絶していたんだと思う。でもその場では、生きているのかどうかもわからなかった。それでも君を背負って、まとわりつくアイツらの手を振り払って。たくさんの頭を潰した。たくさんのアイツらを殺した。……それからどうやって帰ったのかは、よく覚えてない。無我夢中で、気がついたらこの部屋に帰り着いてた。茫然と立ち尽くして、でも背中で君が息をしてることに気がついて……私は、これ以上なく嬉しかった。二度と君を失うわけにはいかないと思った。


 ……ごめんなさい。私がもっと早く気がついていれば。もっと早く着いていれば。そしたら君だけじゃなく、みんな……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。

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