お掃除、消毒、共同作業

 ……ん、んん〜。もう朝ぁ〜? ……待って、なんの音!?


(ドンドンドン、と激しく扉を叩く音がする。前に聞いた音よりさらに激しく、人数が多いように聞こえる)


 あー、ヤッバ。しくじったな。私、薬のせいで寝過ぎたんだ。本当は朝、アイツらが動き出す前に準備しておかなくちゃだった。ほら、聞こえるでしょ。アイツらもう、あんなに集まって来ちゃってる。まずいな、早くしないと。

 そういうわけだから、ちょっとしに行ってくるよ。危ないって……何、心配してくれてるの? 昨日私、あんな酷いこと言ったのに? ……そっか。うん、やっぱり君は優しいね。……わかった。ちゃんと無事に戻ってくるよ。ちゃんと戻ってくるから、そしたら……昨日の続き、ちゃんと話そうね。


(ドアの閉まる音に続いて、何かがぶつかる音などが何度も響く。しばらくして、再びドアが開く音がする)


 ハァ……ハァ……。ただいま。ごめん、少し手間取っちゃった。うん、平気……だよ。ただ少し、疲れただけ。身体だってほら、この通り何とも――ンンッ痛うっ! ち、違うの! こんなの大した傷じゃないっていうか、ちょっと転んで擦りむいただけっていうか、ほんのかすり傷で――いい痛ったぁ! そ、そんな目で見ないでよぉ。……はい、認めます。たしかにちょっと、ね。ちょっとだけ怪我はしました。でもほら、ちゃんと手当てするから全然大丈夫だよ。へ? しょ、消毒? た、たしかにね。怪我をしたら、ちゃんと消毒した方が良いよね、うん。も、もちろん私もはじめからそうするつもりだったよ? ほら、こうして傷口に消毒液を……消毒液を〜……。

 ……ね、ねえ、やっぱりどうしても消毒しないとダメかな? ほら、ツバでもつけとけばきっと治るって。 あーいやいや、消毒しないって言ってるわけでは無いんだよ? ただほら、消毒液のあの染みる感じがたまらなく苦手というか嫌いというか、出来ることなら付けたく無いというか何というかそのー……。え? どうしても自分で出来ないなら、代わりに消毒してあげる? で、でもほら、君の枷を外すわけには……消毒の間、一時的に外すだけ? う、うーん、たしかに。それなら特に問題は……っていやいや、本当にそこまでして消毒しなきゃダメ!?

 ……はいはい、わかった。わかりましたよ。そこまで言うなら、君の手を借りることにします。じゃあ今から手枷外すけど、本当に本当に変なことしないでね? 絶対だよ? ふー……はい、ガッチャン。外れまーした。どう、手はちゃんと動く? 変な感じとか無い? ……うん、そっか。良かった。じゃあ、そのー……消毒の方、お願いして良いかな?


 そーっと、そーっとね? ゆっくり、ゆっくりぃ、優しくしね? 最初はちょんと、ちょっとずつじゃないとダメだよ? そう、そう、そうやって、ゆーっくり……んっ、くぅ〜! ちょっ、痛っ、痛い痛い痛い! むっちゃ染みるってそれ〜!

 ……はぁ、はぁ、はぁ。ねえ、もういいでしょ? まだちょっと付けただけ? もっとちゃんと消毒しないとダメ? そ、そんな〜! だってこれ本当に染みるから……ちょっホント無理だって、ソレ近づけないで無理無理無理ぃ! ぁんーっ! うひぃーっ! あぁあああああー!


 ……ぜぇ……はぁ……はぁ……。し、死ぬかと思ったー……。もー、笑わないでよ〜! だって本当に苦手なんだもん、消毒液。うん、自分じゃこんな物つけるの絶対無理。君がいなかったら、ちゃんと手当て出来ないところだったよ。だから、ありがとう。……やっぱり私は、君に助けられてばかりだな。なんてごめん、私の話はどうでもいいか。


 へ? 私の事も、もっと教えて欲しい? ……ああ、そっか。そうだよね。私は君を知っているけど、君はそうじゃないもんね。

 ちゃんと話すって約束したし、じゃあ順を追って話そうかな。私のことと、君のこと。そして……どうして君が、ここにいるのかって話を。

 っとその前に、喉が渇いたね。何か淹れるけど、君もいる? コーヒーでいいかな?

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