夜、狂気、そして……

 すっかり日が沈んじゃったね。ここまで暗くなれば、もう今日はアイツらも来ないと思う。でもね、夜は嫌い。窓の外を見るたびに、気分が落ち込むから。ほら、見てみて。明かりのついてる部屋が、あれだけしかない。おかしいよね。こんな時間なら、眩しいくらいにみんな電気をつけていたはずなのに。……今、どれだけの人がこの街に残っているんだろう。もしかしたら、とっくに私たち二人きり、だったりしてね。

 ごめん、変な話して。君にこんな話……するつもりじゃ無かったんだけどなぁ。私、自分で思っている以上に疲れてるのかも。うん、今日はもう寝るね。君もゆっくり休んで。縛ったままで悪いけど……その枷も、きっと近いうちに取ってあげるから。


 え? もう家に帰りたい? せめて家族に連絡したい? ……どうしてそんなこと言うの。必要ないよ、そんなの。君はここで、私と一緒に暮らせば良いの。他の人なんていらないじゃん。外のことなんて、君は考えなくていいのに。水も飲ませてあげる。ご飯も食べさせてあげる。君の望むことなら、何でもしてあげる。なのに、何が不満なの? 私の何がいけないの? おかしいじゃん。おかしいよ。君はここに、ずっといるべきなのに。それが……君のためなのに。帰りたい? 何で? どうして? おかしいよ。おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいそんなのおかしぃいいっ! おかしぃいいいいっ!


 ハー、ハー…………ああ、そうか。君はまだ知らないんだっけ。そうだよね。だって、私が教えてないもんね。……じゃあ教えてあげるよ。君にはね、もう帰る場所なんてないの。君の家なんて、とっくの昔に燃え尽きてるんだよ。それだけじゃない。君の家族だって、もうこの世のどこにもいない。だって、君の家族はもう、一人残らず死んでいるんだから。あはは、嘘じゃないよ? 絶対絶対、間違いないって。なんでって……そりゃ、私が殺したからに決まってるじゃん。一人一人、私の手で、直接! 間違いなく殺したよ。首を切って、頭部を潰して、確実に息の根を止めた。君の家族だけじゃない。君に寄り付く害虫は、みんなみーんな、私が殺した! これからだってそう。殺して、殺して、皆殺しにして、ずっとずーっと君を守ってあげる。あははは。だから君は、ここで安心して暮らしていれば良いんだよ。変な害虫が寄り付かない、安全な部屋の中で。ね、素敵でしょ? あは。あはははは。あはははははははは!


 あれ、なんだか眠そうだね。瞼が重くなってきた? ふふっ、やっと薬が効いてきたんだ。大丈夫、安心して。ただの睡眠薬だから。そう、さっきのカレーに入れといたの。私が眠っている間に、君がこの部屋から抜け出さないようにね。枷をしてるくらいじゃ、安心できないから。なのに君ったら、私にも食べろなんて言うんだから……ふぁ〜あ。おかげ様で、私も眠たくなってきちゃった。でももう、君も限界でしょ? 一緒に寝ちゃおうよ。続きはまた明日の朝、ね。


 ……ごめんね。おやすみなさい。

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