第8話 一体
昨日は、楽しかった。
人を探して知らない街に足を延ばすのも楽しかったし、その後の映画鑑賞も退屈しなかった。
ああ、でも、皆勤賞は無くなったか。
かなり残念だが、まあ、昔の癖が抜けなかったからそのついでに狙ってただけだし良いか。
「今日は、余裕で来てるな」
携帯を開きつつも、その実、何も見ていなくてボンヤリとしていると前の席の奴が話しかけてきた。
言い方が変だなと思いつつ、スルーした。
「おはよ」
「……っす」
席が隣になってから初めてかもしれない挨拶をされ、戸惑いながらも俺は彼女に挨拶を返した。
時々教科書を見せてほしいと頼まれる以外は会話をしたことの無い相手が、表情からして親し気な感じを出してくる。
良く分からないけど、嫌われてるよりはいいので好意的に受け取ることにした。
「おい、昨日の約束、覚えてるよな」
今度は卓球野郎に話しかけられた。今日はよく話し掛けられるな。
「約束? なんのこと?」
「いやだからぁ、俺に負けたら卓球部に入るって約束」
「してないよそんな約束」
なんだそれ、殆ど強制送還じゃないか。俺がなんで全国レベルの選手に勝負売られてんだよ。
「石森君卓球部はいるの?」
「そうなんよ」
隣の彼女まで話に入ってくる。あんた関係ないだろ。
そして卓球野郎、嘘を吹き込むな、嘘を。
「良いじゃん、俺が勝てば本当になるんだし」
「だからそんな約束した覚えはないって」
「いや、俺は聞いたぜ。廊下でこいつが叫んでるのを。あれを忘れたっていう方が無理があるぜ」
遂には前の席の奴まで証言してきた。
いやいやありえないだろ、だって俺、
「昨日休んだんだよ?」
「は?」「え?」「はあ?」
あれ、なんだこのマジな反応。
え、俺、昨日学校サボったよな。
「いやいや、何言ってんだよ。確かに珍しく遅刻ギリギリだったけど。休んじゃいなかったろ」
「そうだぜ、体育の状業で一緒に卓球やったろ」
「それに、放課後一緒に遊びに行ったじゃん!」
全部知らない。
覚えてないとかそういう次元じゃない。
あと、今誰かさらっと爆弾発言しなかったか。
前の席の奴が女子の女子の話に反応する。
「え、
「うん、マジだよ
「え、石森と戸成って付き合ってんの?」
話題が俺としたことより、俺と彼女の話に変わる。
遊んだ? 俺と戸成さんが? そんな訳が無い。
「そんなんじゃないよー。ショッピングモールでふらふらしてただけだけだしね」
ショッピングモール。
……そういえば、入れた記憶の無い連絡が携帯に残されてたような。
時間を確認すると、放課後が終わるあたりで連絡をしている。
記憶をたどってみると、確かこの時間俺は映画を見ている最中だったはずだ。
上映中はかならずマナーモードにしているので、その間に連絡するなんてことは絶対にない。
どういうことだ。
俺の記憶がおかしいのか? いや、チケットだってまだ財布にあるだろうしお姉さんの連絡先だってある。
けど、この3人が嘘をついているようにも見えない。
というか
「ほらほら、ちゃんと一緒にクレープ食べてるでしょ」
「うーわ、マジか。石森裏切りやがったな。お前あとで覚えとけよ」
「……これは、いいなぁ。俺も彼女欲しい」
彼女の携帯の画面には、確かに全力で笑顔の彼女と、ぎこちない笑みを浮かべた俺が写っていた。
嘘だろ。
つまり、この写真と彼らの話が本当だとするならば、そして俺の記憶と記録も本当だとするならば。
俺は同時に別の場所に二人いたことになる。
いや、もしかして、俺になり替わった誰かが?
でも、なんの得があってそんなことするんだ?
しかも、話を聞いた感じ、昨日此処にいた誰かは何か変なことをやらかしたわけではないらしい。
いたって、普通に過ごしていたのだ。
なおさら訳が分からない。
SHRになり、それぞれが席に戻っていく。
俺の頭は混乱したままで、先生の連絡事項も聴こえなかった。
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