第3話 本体

ドッペルゲンガー症

自分自身の姿を自分で見る幻覚の一種で、「自己像幻視」とも呼ばれる症状である。 自分とそっくりの姿をした分身。 第2の自我、生霊の類。 同じ人物が同時に別の場所(複数の場合もある)に姿を現す現象を指すこともある(第三者が目撃するのも含む)(wikipediaより)


△▼△


「やらかした……」


目の前で落としものをした人を追いかけてたら、授業にギリギリ間に合う電車を乗り過ごしてしまった。

俺は今、家の最寄り駅で次の電車が来るのをぽつねんと待っている。


ここはど田舎なので、次の電車は1時間先になる。


「いったん家に帰ろうかな……」


思えば朝起きた時からここまでなんとなく不幸続きだった。

朝は遅刻寸前の時間に目が覚めるし、ドアに小指をぶつけるし、自転車のチェーン外れるし。


極めつけがこれだ。

いままで無遅刻無欠席を貫いてきたって言うのに、落ちてる鍵を拾いに電車からホームに降り立った瞬間にドアが閉まり俺は強制的に置いてきぼりにされた。


「鍵、渡せなかったな」


鍵についているプレートに書いてある内容からして、おそらく会社の何かの鍵だろう。

落とし主、毎朝見かける疲れ切った顔をしたお姉さんは大丈夫だろうか。


会社について、鍵が無いことに気付いたら大慌てだろうな。


唐突に、目の前の景色が歪む。

それと同時に、自分の身体から何かが抜け出していくような気がした。


やばい、立っていられない。吐きそうだ。

下が硬いアスファルトなのにも関らず、俺はたまらず倒れ込んだ。


暫くの間、気持ち悪さが続き、俺は腕を枕にしてその場で横になっていた。

少しづつめまいが引いていき、さらに時間が経つとさっきと同じくらいにまで状態が回復した。


全力で走り回った後の気持ち悪さに似た感覚だった。

でもいくら自転車を全力で漕いだからといって、今更になって気持ち悪くなるもんだろうか。


何かの病気、かもしれない。

でももう、今は何ともない。


しいて言うならば、今から学校に行く気がしなくなった。

今更だし、どうせならサボってしまおう。

目標にしていた皆勤賞もこれで無くなった。いっその事遊び惚けてしまいたい。


ああでも、今自分は制服だ。

この格好で平日に出歩いていたらお巡りさんに職質されてしまう。


「よし、家に戻ろう」


帰宅すると、既に親の姿はなく、両方とも外に出たことが分かる。

私服に着替え、再び駅に向かう。


最寄りの駅までは長い坂があり、高校生になってから足の筋肉はパンパンになってしまった。


つい先月の、高校生になってから二度目となる体力測定。

50メートル走では惜しくも8秒台だった。


自転車で使う筋肉と走る時の筋肉は別物らしい。


時刻表と時計を見れば次の電車はあと10分ほどで来る。


俺の通っている高校は県の中心地にあり地元の中学から一番遠い。

なんとな違う世界に行ってみたくて精一杯背伸びをした結果、定期代がとんでもなくかかる高校に行くことになった。


とりあえず、定期でその高校の最寄り駅までは行ける。

それなりに賑わいのある場所だし、遊ぶ場所にも苦労はしない。

ただしお金のかかる遊びはできない。


ポケットからカチャリと金属の擦れる音が聞こえる。

そういえば、なんとなく鍵を持ってきたのだった。


プレートを見ると、何やら会社名らしき羅列が見える。

携帯にそれを打ち込み場所を検索。

定期と切符を併用すれば、そんなにかからずに行ける。


「行くかぁ」


どうせゲーセンで遊びたいとかもない。

これも何かの縁だ。

受付の綺麗なお姉さんとおしゃべりしてこよう。




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