3人目 ロマンス王子 雅紀・・・悲劇の王子?もう勝手に言ってて

「最近芽衣に愛されてるって気がしないんだ・・・。」

はい?

急にどうした?

久々に会ったと思ったらなんだこいつは。


会う時はだいたい雅紀の家かその周辺で会う事がデフォルトとなっているが、そこまで遠くないが電車で行くとなると交通費もバカにならない。

専門学校での課題の教材費や定期代も結構かかるため、毎月奨学金をもらっているがほとんどその費用に充てていた。

毎朝7時前には電車に乗って学校へ行く。

学校が終わった後は17時から21時まで都内の洋服屋でバイト。

土日のどちらかに雅紀と会って、どちらかはバイト。

これが芽衣の今の1週間のルーティーンだ。


高校時代と比べて自由な時間が少ないのだ。


そしてようやくプライベートな時間を楽しもうと思った矢先に雅紀のこの一言。


「まぁは芽衣の話たくさん聴くのに芽衣はまぁの話全然聞いてくれないし。」

うん・・・・?

聴いてるつもりだったけど雅紀の話ってだいたい自慢話か過去の武勇伝(?)とか元カノトークでこっちは正直だるいんだよね・・・。

「芽衣は元カノの話なんか聞きたくないって言うけど、まぁは今まで良い人生を送って来たと思っていて、それを芽衣にも知ってほしいのに!ただの元カノとの思い出って一括りにしてほしくないんだ。今まぁが芽衣を愛してるようにその時愛し合ってたのは事実なんだから。」


こういう所がめんどくさい。


何で今の彼女は自分なのに他の女との過去の出来事とか聞く必要がある?


雅紀の自分語りの時間は苦行でしかない。


「まぁの“愛してる”がハタチの愛してるだとしたら、芽衣の“愛してる”は高校生の愛してるにしか聞こえないんだよ!」

ん?どゆこと?

「でも千沙は違った。」

ん?誰?

「千沙はまぁの話をうんうんていつも楽しそうに聞いてくれるし、まぁの事を一番に好きでいてくれる。でもまぁには芽衣が居て・・・。」

「ごめん、ちょっと途中からよく分からないんだけど、ちさって誰?」

退屈に感じていた雅紀劇場の言いたい事をなんとなく察した芽衣は、話の腰を折るように率直な疑問をぶつけた。

「まぁが悲しみに暮れていた冬のある日、茶髪の女の子と黒髪の女の子に会ったんだ。」

「なに?浮気してたって事?」

「待って芽衣・・悪いところ出てる、ちょっとまぁの話聞いて。」

イライラするのをぐっと堪えてとりあえず聞いて見る事にするが、もうすでに拳を握る力が止まらない。

「黒髪の女の子は千沙で、茶髪の女の子は芽衣だよ。千沙は学校の後輩で、まぁがメンバーとギターの練習してる時に顔出してるのがきっかけで仲良くなったんだ。」

その後も雅紀劇場は続き、要約すると、芽衣と付き合う頃に千沙とも仲良くなって告白され「芽衣が居るから」と断るも、学校で顔は合わせるから無下にも出来ず、芽衣が最近冷たいからそっちに惹かれていてどうしていいか分からないとの事だ。


「で、要するにそっちにいきたいって事ね。」

雅紀の自分への評価に対して納得がいかない苛立ちを隠しながら、芽衣は結論を急いだ。

「・・・分からないんだ。芽衣の事は変わらず好きだけど芽衣の気持ちは・・・。千沙の事もほっとけない。」

もうその時点でこちらは無理なんですけど!!

「で?」

「芽衣が決めてほしい。まぁには2人のどちらかを選ぶなんて出来ないよ・・・。芽衣の事も愛してるし、千沙もまぁの事好きでいてくれてるし。」


千沙って子の事は正直どうでもよかった。


それよりもそこまでもう一人に気持ちがあるのに、まだ私とも付き合いを続けようっていうのが分からない。


いいよ。こっちから別れてあげる。

自分は悪者になりたくないし、嫌われたくないのよね。

誰でも好かれたいんだよね。


でも・・・・私はそういう所嫌い。


「雅紀の気持ちはわかったわ。私も雅紀にはいつも笑っててほしいし・・・。」

「芽衣・・・。」

やっぱりね。

私から別れを切り出したから安心したんだね。


「私、雅紀の言う通り、そこまであなたの事愛してないんだと思う。」

「え!?」

「だってさ、雅紀自分の自慢話ばっかでめんどくさいし、こっちは毎朝早いのに電話でもダラダラ時間取るし、人の都合考えなさすぎ!私の事確かに好きでいてくれてたんだろうけど、雅紀が一番好きなのは自分じゃん!なんかそういうの見ててだんだん冷めてたのかも!ごめんね!別れよ!」

「芽衣!!ちょっと・・・!」

踵を返そうとする芽衣を引き留めようとする雅紀だが、芽衣の言葉で止まった。

「あ・・ずっと思ってたんだけど、自分の事“まぁ”って言うのやめた方がいいよ?女の子ならまだしも、男でそれはね(笑)。まぁは~って聞く度小学生と話してるみたいでしんどかったわ~・・。たぶん私だけじゃなくて、周りの友達も思ってるんじゃない?言わないだけで。一緒にいると疲れると思う。」

呆然とする雅紀に、芽衣は続けた。

「それと、交通費ちょうだい。」

「・・え!?」

「聞こえなかった?交通費!!ここまでくるの結構かかるし、手切れ金として交通費くらいちょうだいよ、いつも私がこっちに来てたんだからさ。」

「え・・あぁ・・・」

雅紀は自分の尻ポケットからゆっくりと財布を取り出して札入れの中を開き、しわくちゃの一万円札を眺めていた。

「はい、ありがとね。」

芽衣は取り上げるようにしわくちゃの紙を掴んだ。

「え・・それ全部・・?」

「今までの分と、こっちからしたら二股かけられてたんだから足りない位だけど!」

「二股って・・まだキスしか・・・!」

「キスはしてるんじゃん。たった一万で許してあげるんだから逆に感謝して!いい人生でいたいんでしょ?私と愛し合ってたのは事実なんでしょ?だったら分かって?」

今までの雅紀劇場を皮肉るような言い方だし、我ながらものすごく嫌な奴だなって思った。


一万円が欲しかったわけじゃない。


ほんとは雅紀の事好きだった。


初めてちゃんと好きになった人。


だからすごい悔しいし許せなかった・・・。








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私が愛したダメ男たち まろん @9mayukko9

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