3人目 ロマンス王子 雅紀・・・行きつけはジョリーパスタ

雅紀の話は会っている時も電話でも元カノの話だったり自分の事ばかりでオチがなく、うんざりする事も多い。

他の女の話なんか聞いてもこっちはつまらないし「何を言ってほしいの?」って感じだ。

そんなに前の女の話をされても自分にとっては知らない人だしほんとにどう反応すればいいか分からない。

「付き合った人数でマウントを取ってるの?」とさえ思ってしまう事があった。

電話で延々と過去の恋愛の苦痛や自作の歌詞を聴かされた時は寝落ちしそうだったとはさすがに言えないが、雅紀の話は本当にオチがないのだ。


本人は自分の事を「話し上手」と思っているようだが、はっきり言ってつまらない。


おまけに1つ生理的に無理なところがあるのだ。

これは付き合ってから判明したところなんだが、一人称が自分の名前なのだ。

正確に言うと「まぁ」なのだ。

「まさき」の頭文字を取って「まぁ」と言ってるのだろうけど、芽衣はこういうタイプが苦手なのだ。

女子だったらまだしも、男が自分の事を名前で言うのも無理だが、そのさらに上をいく愛称で言うのがもうダメなのだ。


気付いたのはメッセージのやり取りだ。

『今日はまぁは休みだからいつでも返事返せるからね!』


始めは「まぁそうだよね~」とかそういう使い方かと思ったのだが何度かやり取りしたり、会った時の会話で「ん??」となる事が多くて気付いた。

「まぁと芽衣は~」と出て来た事で確信した。

付き合う前のあの王子っぷりはどこ行ったのよ!と言いたくなったよね。

ぶりっ子男子が周りに居なかったからがなさ過ぎてキツイもんがある!


その他にも雅紀は自分の価値観の主張が強かった。

芽衣の話を否定する訳ではないが、途中で被せるように「自分はもっとすごい」と言わんばかりに自分の話を持ち出してくるのだ。

例えば

「この前典子と行ってきたイタリアンのお店おいしかった!今度一緒に行こう!」

と言えば

「美味しいお店ならたくさん知ってるしまぁも行きつけのお店がある」

だからなんだよと言いたくなるが、結局雅紀の言う行きつけというのはジョリーパスタの事だった。

「何が言いたいんだこいつは!」となる事が多く、話しててイライラする事も多かった。



だが、雅紀と付き合うようになって実感した事がある。


自分が男からちゃんと愛されたのは、これが初めてかもしれない。


それは初めて雅紀と寝た時に実感した。


祐介や樹のように自分の欲のためだけじゃないのは伝わってくる。

「カイちゃんに感謝しなきゃ!芽衣に会わせてくれたから・・・。」


自分の身体を大切に撫でられたり、「好きだ」とか「愛してる」と自分にまっすぐ愛情を向けられながら優しくキスされたのはこれが初めてだったからだ。


雅紀との付き合いはなんだかんだ長く続いた方かもしれない。


気が付けば私は高校を卒業して、専門学校に進学していた。


進学してから新しい環境にウキウキしながら課題に追われる毎日で、芽衣は雅紀の心変わりに気付かないでいた。


自分が毎日せわしなく生活している間に、定時制でまだ高校生の雅紀の身の回りにも色々変化があった事はまだ知らない。




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