1人目 バンドマン祐介・・・バラードは涙に変わる

初体験を終えた後の余韻に浸りながら芽衣は家に帰宅し、お風呂に入っていた。


もう処女ではなくなった事から生まれ変わったような、今なら何でもできちゃいそうな高揚感に包まれていた時、芽衣の携帯が電話の着信を通知した。


「祐介さん!?」

初体験の相手からだと思い込んでまだバスタオル1枚の状態で携帯電話に飛びついた。

「あれ?知らない番号だ。」

出なければ芽衣はまだ幸せな気分に浸れたかもしれない。


「もしもしー?」

『芽衣~?』

う~ん聞き覚えがあるようなないような女の声に困惑しながらも、芽衣はもしかしてこの子かな?と思う中学時代の友人の名前を呼んだ。

「もしかして美貴ちゃん?」

でも美貴は芽衣の名前を呼ぶ時、呼び捨てだっただろうか?

『うん~芽衣何してた~?』

「え・・お風呂入ってたけど・・・。」

『誰かと会ってた?』

「なんで?てかいきなり何~?番号変えた?」

『あ~ごめんね、メールするね!』

そう言って相手の女は電話を切った。


まだ確かじゃないけど芽衣は何となく嫌な予感がして美貴にメールを自分から送った。

「番号変えた?っと・・・。」

すぐに返信が来たが、内容は期待していたようなものではなかった。


【え~あたし番号変えてないぞ?今インフルで死んでてそれどころじゃないし】


え?じゃぁ美貴ちゃんじゃないって事?

誰なんだろう・・・?


見えない相手からの恐怖に駆られながら、芽衣はふと祐介の事を思い浮かべた。


もしかして・・・・


でもまだ確信が・・。


芽衣は自分の勘違いであってほしいとわずかな希望にかけて、かかってきた番号にかけてしまった。

『もしもし~?』

「あの・・・もしもし?美貴ちゃんじゃないですよね?誰なんですか?」

電話の向こうにはどんな顔をした女が居るのだろう?


『・・・まさか女子高生だなんて思わなくてさ!からかっちゃった!ごめんね。驚かないで聞いてほしいんだけど・・・・』


女の名前は奈々子。

祐介の妻で赤ちゃんが生まれたばかりだそう。

元々女癖が悪い祐介は、定職には就かず音楽活動をしたいという理由でアルバイトを転々としていた。

奈々子が妊娠してからも、バイト先の女の子やライブに来ていた女の子を引っかけては交際に持ち込んだり、体の関係に持ち込んでいたのだそう。

子供が生まれたら変わるかと思ったらそうでもなくて、その時の浮気相手がたまたま芽衣だったというだけなのだとか。


信じたくないけれど、色々と合点がいく。

家に呼んでもくれないし仕事の事を聞いてもはっきり教えてくれなかったし。

「あの・・・!!私・・祐介さんがまさか結婚してるなんて思わなくて・・・」

今私はどんな感情なんだろう。

なんかもう・・・消えてしまいたい。


『落ち着いて・・。あいつからでしょ?分かってるから。とりあえずどこまでしたのか教えてくれる?』


私は・・・この人に初体験を奪われた・・・。



『そっか・・・ごめんね。とりあえずこの後またあいつから連絡あると思うけどもうだまされないでね。』


それからこの奈々子という女から連絡が来る事はなかった。

この「ごめんね」を言うのにこの人はどんな気持ちだったのだろう。


代わりに祐介から鬼のような電話がかかってきて「家の前に居る」だって。


嘘つき


私の色んな初めて返して


どれから投げつければいいか分からない。


芽衣は自分が騙された事よりも、こんな奴に初めてを奪われてしまった事が悔しくてたまらなかった。


「芽衣!!」

祐介の顔を見て出てきたのは言葉じゃなかった。

「って・・・・」

芽衣は生まれて初めて拳で人の顔を殴った。

空手家の父親に教わった護身術は見事祐介の鼻に当たり、地面に身体ごと倒れこむ形になった。

「二度と近づかないで!!嘘つき!!」


祐介との恋はわずか1カ月も持たずに終わりを告げた。


その後彼がどうなったのかは分からない。

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