1人目 バンドマン祐介・・・恋に恋した初体験
それから二日に1回位のペースで祐介とのデートを繰り返していた。
相手のことなんてよく知らないけど自分の青春が始まった今身体中が生きていると叫んでいる気がする。
早く手帳のページを祐介の名前で埋めたい。
手帳なんて邪魔なだけだし持ってなかった。
予定なんて携帯に入れればいいし。
でも彼氏が居る子は皆持ってる。
そこにプリクラを貼ったり予定を書き込んだりするのが楽しいんだ。
キャラクターだって好きじゃなかったけど、お揃いのものをいつか持ちたいとか思ったり。
芽衣はまさに恋に恋をしている瞬間を生きていた。
親に嘘をついて家を出て来たのはこれが初めて。
ママもパパも私に過保護すぎるのよ。
高校生で門限19時とか早すぎるでしょ。
これじゃバイトなんかできないし。
初めてバイトした時なんて最初に17~21時までってシフトを伝えているのに、21時になった瞬間に鬼電してきてほんとに恥ずかしかったんだから。
芽衣にはとにかく家を出るのに不自然じゃない理由が必要だった。
だからやりたくないけど部活も入ったし、生徒会も入ってた。
彼氏との青春を楽しむためにはありとあらゆるアリバイが必要なのだ。
3月も後半に差し掛かり、少し早く桃色の花びらが遊歩道を飾り付け始めていた。
祐介が家の前まで自転車で迎えにきていて、そのまま家から少し離れたところにある広めの公園に行った。
時刻は20時を回る。
今日はいつもと違う。
だって祐介から来たメールが「ゴム持って行くね(笑)」だった。
だから家に行くのかな~なんてちょっと期待していたけど、公園・・・。
「桜がきれいだな・・・。」
祐介がベンチに座って自販機で買ったコーヒーに口を付けた。
ぽつぽつと光る街頭が、花を開き始めている桜の木を照らしていた。
祐介の横顔は心無しか寂しそうに見えた。
「バイトお疲れ様!」
「あ、うん。祐介さんは今日は学校?」
「俺学生じゃないよ!」
「じゃぁ働いてるのか!何の仕事?」
「今日はスタジオで書き物をしてた。」
思えば私は祐介さんの事を何も知らないな。
今思えば、もっと相手の事をよく知っておいた方が良かったのだろう。
「じゃぁいい・・?」
芽衣の初体験は彼氏の家ではなく、夜桜が散りばめられた公園のベンチで奪われた。
脳が酸欠みたいに真っ白になるくらいなんとも言えない痛みだった。
この時になぜあなたの家じゃないのかもっと訊いておくべきだったのよ。
それよりも「明日めぐやさゆりに話す話題は初体験に決まり!」しか頭になかったのだ。
これで初体験終えたグループに仲間入り!
女子ってなんで何でもグループにしたがるのか分からないけど、そういう生き物なのよね。
私には、なぜトイレに1人で行けないのかも、何でもお揃いにしたがるのかもわからないけど、とりあえずどこかに入ってないと女子高生は生きていけないみたい。
祐介が私の初めてを突き破って気持ちよさそうに腰を振っている間、私は痛いような気持ちいような感覚に襲われながらこんな事を考えていた。
「芽衣可愛い・・。」
こういう時もどんな反応をすればいいか明日聞かないと。
まさか・・・それどころじゃなくなるなんて、この時は知る訳なかった。
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