1人目 バンドマン祐介・・・ファーストキス

高校生の時だった。


軽音部の友達のバンドのライブで知り合った高校のOBの先輩。


ぶっちゃけ背は低いし、顔も暗くてよく分からなかったけど、年上の彼氏ってだけでなんとなくテンション上がるよね。

付き合う事になったらすぐに友達に自慢した。

私も「彼氏持ち」の仲間入り!


これがあまり恋愛したことがない高校生の芽衣の価値観だった。


祐介は19歳のヴォーカリスト。

芽衣の高校の卒業生だ。

バンドではVocalをやっていて、地元の小さなライブハウスで月に2回位歌ってる。

それ以外はよく分からない。


でも歌がうまくてカラオケデートで好きな曲をリクエストすると歌ってくれる。

誕生日はオリジナルの歌でもプレゼントしてくれるのかな~なんてロマンティックな事を考えていた。


祐介がくれるメールには芽衣の欲しい言葉がたくさん詰まっていた。

「一生俺について来いよ!」

「こんなに好きになったのは芽衣が初めて!」

「休みの日にはどっか行こうな」

「芽衣の初めて俺にちょうだい。」


全部が特別で芽衣の全てだった。


その特別をいつでも見れるようにメールをお気に入りにしていた。


「彼氏」が居るだけで芽衣の毎日は変わった。

憂鬱だった学校も、苦手な友達との会話も全然苦じゃない。


恋をするってこんなに変わるんだと実感させてくれた。


星占いを見たり、下着を気にするようになった。


だって・・・もしかしたらそんな事もあるかもしれないでしょ?


芽衣の好きなファッション雑誌「ポップガール」の最後の方のページには星占いが載っている。

それはやたら当たると芽衣の周りで評判だった。

というのも、一か月のカレンダー形式になっていて、1日ごとの運勢が細かく書いてあるのだった。

例えば2日は「彼氏とHしちゃうかも」とかそんな感じだ。

ファッションの系統が違くとも占いだけポップガールを見る!という女子は多かった。


「16日は祐介と会うけど・・・あぁ♡マークついてるけどもしかして・・・」

♡マークはポップガールの占いにてHしちゃうかもという意味だ。


芽衣は自分のタンスの引き出しを見てため息をついた。


だってまともな下着がない!!

彼氏が出来るまで下着なんてお母さんに適当に買ってもらってたんだもの。

唯一「今どきの女子高生」が着そうなものは赤のドット柄のブラセット。

新品に近いからとりあえず16日はこれだ。


まだキスもえっちもした事がない16歳の芽衣の悩みはこんなにも可愛らしい。


現時点の芽衣のエース、赤のドット柄を手に取りながら初めての瞬間を想像しながら祐介とのメールを見返してにやにやしていた。


16日。

祐介から「スタバに居る!」ってメールが来ていた。

よく行くイオンの中のフードコート周りにあるスタバだ。

初めての待ち合わせメールもお気に入りに追加だ。


「祐介さーん!」

フードコートに沢山いる人混みの中からすぐに見つけられたのは、祐介の上着がフードにファーが付いているアイスブルーのPコートと少し派手めだったからだ。

椅子に座っていた祐介は、携帯をいじりながら芽衣の声の方に振り返る。

「芽衣!会いたかった!」

祐介は芽衣のセミロングの黒髪をすくって自分の口元にあてた。


きゃ!これ漫画で見たやつ!


祐介が自分にしてくれる事1つ1つに反応してしまう自分はまるで少女漫画の主人公だ。

今この1階のフードコートでヒロインに一番近いのは間違いなく自分だと芽衣は確信していた。


「腹減ってない?ラーメンでも食べない?」

「うん!」

元気よく返事はしたものの、実は芽衣は手持ちのお金をあまり持っていなかった。


あ!でもデートだしここは祐介さんが出してくれるよね?


何度も言うが、これは恋愛をした事がない16歳の女の子の話だ。


そしてこの日は芽衣にとってデートで麺類を食べるのも少し難易度が高いと勉強になった日でもある。


髪の毛がラーメンのスープにつきそうになったり、何度も鼻をかみたくなったりしてまともに食べれないし気を紛らわすためにコショーを沢山入れてしまった。

もちろん大量に残してしまった。

「全然食べてないじゃん。調子乗ってコショー入れすぎたんだろ。」

「うるさいな~。」


会計の時にさりげなく奢ってほしい事を伝えると「しょうがねぇなー」と言われた。


芽衣は祐介の事を正直よく分かっていなかったが、憧れていた「彼氏彼女のやり取り」をまた1つ達成した気でいた。


その後は自転車で2人でカラオケに行って、付き合う前にも歌ってくれていたGLAYの曲を披露してくれた。


2人とも何曲か歌い終えた時にデンモクを取ろうとしたら祐介に手を握られた。


16歳の女と19歳の男。

まだ少年少女と言われる2人の視線が絡み合う。


祐介はソファーに手をついて芽衣の頬に触れた。


もしかして・・・・


恥ずかしくて思わず目を反らしちゃうよね・・・だってこういう時どうすればいいの。

どこを見ればいいの。

私今どんな顔してる。


「こっち見ろよ」


その後の記憶がない。


きっと目はつぶっていた。


覚えてるのは頬に手を添えられてるのと同時に反対の手で顎を掴まれた事。

そして無遠慮に口の中に侵入してくる異物の感触。



これが私のファーストキスだった。





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