ステルス系新感覚ゲーム:丑の刻参り

@butahako

チュートリアルステージ

 某オンラインゲームツールで面白いゲームを発見した。それは丑の刻参りを題材としたステルスアクションゲームで、人に見つからないように丑の刻参りを完遂するというものだ。


(やっぱり夏はホラーゲーム。まだ評価数は少ないけど高評価ばかりだし期待出来るかな?)


 まずはキャラクターと呪いたい相手を選択か、キャラクターがブラック企業勤めとか職場の同僚にいじめられてるとか…設定がリアル過ぎやしないか?とりあえずブラック企業のSE男、呪う相手は無能上司。次に決めるのは神社?難易度選択っぽいけど…まだ最初のステージしか選べないな、早期アクセスだったし仕方ない。


「んじゃゲームスタートっと」


 ゲームを開始すると、一台の車が真っ暗な道に路上駐車するところから始まった。車から降りてきたのは目の下にクマを作った疲れた顔の男、ご丁寧に白装束を着て頭にロウソクをくくりつけている。手には藁人形にハンマー…どっからどう見ても丑の刻参りをしに来たって感じだ。


「…結構雰囲気あるなぁ」


 プレイヤー視点に切り替わると、真っ暗な中で男のリアルな息遣いが聞こえてくる。一応LEDの懐中電灯を持っているけれどそんなに照らせるものではないし、まさに一寸先は闇という視界だ。これが肝試しに行くっていうゲームならこの時点でかなり怖い雰囲気なのだが、このゲームの場合はそういう怖さを体感するものでは無い。


「つーか真夜中の神社よりも、こいつの方が怖いだろコレ」


 実際に肝試しで遭遇した場合、幽霊よりもこいつの方が怖いって。確か丑の刻参りって見られたらヤバイらしいから…あっ、ステルスってそういう事ね。


「とりあえず境内まで行ってみるか?」


 キャラを操作して神社に向かう。最初という事で操作方法も画面に出てくれるし、動作も良好だ。基本操作は移動、ダッシュ、しゃがむ。石段を登って境内の鳥居をくぐったところで、さらにチュートリアルが始まった。


「えーと…あのマークが出てる木の所に行けば良いのか」


 丑の刻参りは神社の御神木に藁人形を五寸釘で打ち付けるという呪いの儀式だ。藁人形には呪いたい相手の体の一部を埋め込み、恨みを込めて五寸釘を藁人形に打ち込んでいく。そしてこのゲームのコンセプトにもなっているように、それらを人に見られないようにしなければならない。


「あー…神社の隣に神主の家があるのか。夜中とはいえ不気味な音が聞こえたら起きてくるよな」


 極力音を立てない為には走ったらダメに決まっている。ダッシュは最終手段として、歩いてご神木の所まで…。


「うぇ!?」


 画面にゆらゆらとしたエフェクトが掛かって男の息が荒くなる。チュートリアルが開いたので確認すると、エフェクトは人に見つかりそうになってキャラが興奮している状態のようだ。


「あっ、懐中電灯か。それに足元の砂利も結構音するんだな」


 どうやらちゃんとルート取り考えて行かないとダメみたいだ。さらにページを進めると、見つかった場合神主が警察に連絡するらしい。ゲームオーバーの条件は警察に連れていかれるという世知辛いものようで、それまでに丑の刻参りを追えて自動車まで戻ればクリアになるそうだ。


「最悪途中で見つかっても、ダッシュで目標達成すれば良かったりするのかな?RTAみたいな事も出来そうだ」


 まぁ、初回でそんな特殊な事する必要は無い、まっとうにステルスして目標を達成しよう。


「暗くて怖いのは確かなんだけどな、幽霊よりも人の方が怖いわ…いろんな意味で」


 なるべく音が鳴らなそうな地面を歩き、所々で確認の為に一瞬だけライトをつけたりして目標のご神木に近づいていく。最初のステージだという事、そしてちゃんとステルスしたおかげかとりあえずは問題なくご神木までは行けそうだ。


「お?新しいチュートリアルだ」


 当然ここで藁人形に五寸釘を打ち込むんだろうけど…まさかここもプレイヤーに操作させるの?


「…うわぁ」


 チュートリアルに従って操作をすると、主人公の男がボソボソを恨み言を言いながらハンマーで五寸釘を打ち込んでいく。その内容も最初の設定に沿ったリアルなもので、このゲーム作った人って同じような経験でもしたんだろうか?


「あっ、神主に見つかったか?」


 そりゃそうだ。というかここで見つかるのは決定された事のようだ。最初に出来る限り見つからないようにすれば、逃げるまでの時間を稼げるって訳か。今回は最初の時点で見つかって無かったので余裕を持って逃げられるだろう。


「よし!打ち込み終わった!」


 この五寸釘打ち込みもミニゲームになっていて、ここでモタモタするとさらに時間がかかる仕様だ。こういうタイミングゲーが得意で良かった、昔は某ゲームで201tを出すのも余裕だったぜ。


「急げ急げ!」


 スタミナゲージに注意しながらダッシュをして車まで戻る。男の呼吸音がめっちゃリアルだ。というか遠くからパトカーの音が聞こえてきた。このゲームSEの出来いいなぁ、かなり緊張感を高めてくれる。


「よし!逃げ切った!」


 車に乗り込んだところでステージクリア。今回は初期ステージだったけど、これ難易度が上がったらどうなるか気になるな。この時点で出来もかなり良いし、久々に良いゲームを見つけられたかもしれない。


「ん?エンディングか」


 画面が切り替わり、主人公がオフィスで仕事をしている様子が映し出される。そして恐らく呪いの対象である無能上司が、後ろからなんかを主人公に向けて話しているようだ。


「あぁ…パワハラ受けてるのね。呪いの効果は出てないのかな?」


 主人公の手が止まる。何を言われたか分からないけど、パワハラなんか受けたら仕事やる気無くすよなぁ。そんな事も分からないで嫌味を言って、仕事が遅れたら部下のせいにしたりするのかね?


『………』


 画面が主人公の口元に寄る。周囲にオフィスの音が鳴っている中、主人公の口元がニヤリと歪み…。


『…あと、六日』


 およそ人間の声とは思えないような…暗く低い声でその言葉を呟いた。


「…丑の刻参りって、7日間続けるものだったっけ?」


 どうやらまだゲームは続くらしい。調べてみると、途中で中断しても自分に呪いが返ってくるんだとか。どうしよう…ちょっと違う意味でゲームがやめられないぞ。

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