第48話 ジーナから召喚状が来ました

 僕は”古のダンジョン”の30階層に居た。目の前には冒険者のスパーノ、今ではダンジョンの探索を行いながらこの30階層の顔役のような立ち位置らしい。

「ルフィーナ様、今日もありがとうございます。」

「どういたしましてですわー。」

 そう、彼が待ち望んでいたのは僕ではなくルフィーナである。ダンジョン探索において怪我を避けることはできない。

「おう、ユーリ、今日もルフィーナ様の護衛ご苦労様。お前たちは下に行くのか?」

「どうする?ちょっとここで休んでいく?」

 僕はまだ背中にしがみ付いたままの女の子に問いかけた。

 後ろでふるふると首をふるのがわかる。

「そうだね、今回は50階層を目指そうと思っているから、その間ルフィーナのことをお願い。」

「おう、ルフィーナ様に不自由はさせねえぜ、任せとけ。お前らなら心配要らないと思うが40階層から下は、誰もいねえ、気を付けるんだぞ。」

「心配ありがとう、じゃあ行ってきます。」

 ルフィーナが見送ってくれるなか、僕はルーチェを背負って下層に向かった。


 ”古のダンジョン”30階層以降はひっそりとしていた。しばらくここを探索していたルーチエローエは、ミスリルクリスタルの宝玉を見つけること無く一旦王都に帰還したらしい。彼らのパトロンの伯爵様の命で戻ってくる確率は低くないが、現在”古のダンジョン”下層を継続的に探索できる実力のあるパーティはこの街にいない。前にミスリルクリスタルの宝玉を見つけたパーティは王都でエッダさんに召集され騎士隊に召し抱えられたらしい。ルーチエローエが戻ってくるまでの間、下層の探索を行い冒険者が”稼げる”ことを示し続けて欲しいとリザンドロさんに頼まれ、ミスリルのダンジョンは後回しにして古のダンジョンに潜ることが多くなっている。

 ルーチエローエが拠点を設けていた40階層にも人影は無かった。40階層はボス階層だがルーチェの魔法の前に瞬殺された。

 50階層のボスは大きな翼のあるオオカミの魔物だが、ルーチェとの壮絶な魔法の撃ちあいの末に斃れた。飛んでいる魔物には僕の剣は無力だ。50階層ボスからはミスリルクリスタルの宝玉がドロップした。

「やっぱり、この魔物からはミスリルクリスタルの宝玉がドロップするみたいだね。」

「そう…です。」

 これまで3回この魔物を倒したが、ミスリルクリスタルの宝玉がドロップしたのは2回目だ。1回では僕かルーチェが物凄く幸運だという可能性もあったのだが、2回目がでたということは、かなりの高確率でドロップするということになる。

「ちょっとここで休んでいく?」

 後ろでふるふると首をふるのがわかる。フラれてしまった…わけではない…はずだ。ルーチェは抱き着いてきたりスキンシップはやや過剰なのだが、会話はあまり弾まない。恥ずかしがり屋さん?


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「ユーリ殿、やはり50階層でミスリルクリスタルの宝玉がドロップするということですな。」

 ルフィーナを回収して、街に戻ってきた僕はリザンドロさんと話をしていた。ルーチェとルフィーナはお休み中だ。流石に4日程ダンジョンに潜っていたので疲れたのだろう。何故か僕はあまり疲れていない…。

 僕とリザンドロさんの前には50階層で回収してきたミスリルクリスタルの宝玉が2つ置かれている。

「まあ、毎回ドロップするわけではないみたいですが、それなりの頻度でドロップすると思っていいのではないかと思います。」

「うーむ、高価値のドロップ品が出るのは望ましいことなのだが、ルーチエローエに教えるべきだろうかですな。」

「まあ知れば、さっさと50階層ボスに挑んで、この街からいなくなってしまうでしょうね。」

「うーむ、やはりそうなるですな。」

「そろそろ彼ら以外の冒険者を探したほうがいいのでは?高価値のドロップ品がでやすいと知れれば、誰かやって来ないもんなんですか?」

「うーむ、難しいだろうな。ミスリルクリスタルの宝玉は珍しいことに価値があるのだから、あっという間に値崩れしてしまうですな。」

「そうですかー。ではルーチエローエには秘密にしておくということですね。」

「まあ、彼らには申し訳ないが、そういうことになるかな。」

「上手く行かないですねー。街もあまり元気がないように見えますし。」

「エッダ殿が若い者を王都に連れて行ってしまったし、教国からの援助が無くなって物資が不足するのではないかという噂もあるですな。」

「帝国との戦争が収まったのに、それが逆に悪い方に転がってしまっているということですね。」

「そうだな。せっかくユーリ殿とジーナが頑張ってくれたというのに。」

 帝国から戻ってきてからリザンドロさんとの距離はちょっと遠くなった気がする。…婿殿呼ばわりもされない。一般的には僕は唯の人だが流石に貴族の間では僕は良く分からないけど重要人物と認定されたらしい。単に姫様に気に入られた若造ということではなく、何か対帝国で重要な役割を果たしたと認識されているらしい。

「ジーナは元気ににしてますかねぇ。」

 名前が出たので何となくそういうと、リザンドロさんは白々しく、

「そうそう、そういえばジーナから手紙が届いているな。」

 と、サイドテーブルに置かれていた紙束のなかから1通の手紙を差し出した。私信の封筒ではなく、帝国の紋章が入った仰々しいものだ。いやな予感がビンビンするが、読まないわけにはいかないだろう。リザンドロさんが逃がさないぞという意思を込めた目でじっとこちらを見ている。

「……」

「ジーナは何と?」

「元気でやっているそうです。会いたいからすぐ来るようにと。迎えを寄こしたと書いてあります。」

「そうか、色男は辛いな、はっはっ。」

 リザンドロさんの乾いた笑いが耳に痛い。

『召喚状だよね、これ。』

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