第46話 王国の行末?
「うーん、どうしたものかのう。」
「もうユーリ殿が皇帝になっちゃえばいいんじゃない。」
「ちょっと投げやり過ぎませんか、エッダ義姉さん。」
「誰が義姉さんですか!ユーリ殿、あなたジーナとそんな仲に!?」
「いやいや、エッダさんはボルゲーゼ公様の養子になって、公爵家を継いだんですよね。僕はボルゲーゼ公様の隠し子っていう話だったはずだからですよ。」
ジーナとは残念ながらそういう仲に進展していない。ちょっといい雰囲気になったこともあると思うが、今回もジーナは帝都に留め置かれて離れ離れだ。それにエッダさんはジーナの叔母さんなので、義姉さんにはならない。
「そういえばそういう設定もあったのう。」
国王陛下が遠い目をして、そう呟いた。国王陛下なのに全然覇気が感じられない!エッダさんも疲れた様子を隠さないし、大事な話ができる雰囲気ではない!しかし僕の平穏のためには話をしなければいけない。
そう、皇妃様から皇帝に云々という話をされ、国王陛下に相談せずにそんな大事は決められません、と逃げるように遠路はるばる王都までやってきたというのに頼りの国王陛下は全然頼りにならなかった。
「それで、教国との交渉はうまくいってないということですね。」
「毎日、枢機卿様のありがたいご高説を拝聴させられているわよ。」
エッダさんが疲れているのは、主にこのせいらしい。
「教国は英雄王が実在したのか、勇者が実在するのか判断しかねているようじゃ。」
「勇者が交渉の場に出てくるまで、延々と嫌がらせのように過去の聖人の逸話を解説してくれるそうだ。」
もう数ケ月に渡って交渉しているはずなのに、どれだけ聖人がいたんだろう。
「もう、国王も勇者殿にお譲りするので、勇者殿が国王も皇帝も兼任するというのはどうじゃ?教国との交渉も肩書があったほうが便利じゃろう。」
国王陛下まで変なことを言いだした!
「僕が国王になる理由がないじゃないですか!」
「クラウディアの婿じゃから問題ないじゃろう。」
「そもそもクラウディア姫様の婿になれるわけがないじゃないですか!」
「勇者だから、じゃダメじゃろうか。」
「ダメに決まっているでしょう!」
この世界では召喚の儀は限られた血筋にのみ伝わる秘儀なので、一般の人に英雄王とか勇者と言っても通じない。この国では宰相でさえ僕が勇者であることを知らない、勇者という存在を信じてない可能性が高いのだ。何か超人的な力を示すことができれば信じてもらえるかもしれないが、残念ながら僕にそんな力はない。
「実は宰相たちからは、クラウディアと勇者殿との結婚を認めて、クラウディアをエウスターキオ大公としてはどうか、と言われておるのじゃ。いや、勇者殿との結婚ではなく、クラウディアに想い人が居るなら本人の意思を尊重して、という言い方じゃがな。」
「???」
「宰相たちは教国の庇護下に入るべきだと考えているわね。それにはルクレツィア様が女王となるのが早道だわ。ルクレツィア様のライバルとなるクラウディア姫様と魔国戦の現場であるエウスターキオ一帯を王国から切り離すことができれば、教国が王国の申し出を断る理由はなくなるわ。」
「魔国との戦いを帝国とエウスターキオ大公国に任せることができれば、自分たちは平和を謳歌することができるということじゃな。もちろん宰相に与する貴族は全体の半分にも満たないが、領地を持たない者や教国近辺に領地を持つ者は宰相と考えを同じくする者も多い。」
「いやいや、国王陛下冷静に情勢分析なんかしてないで、少なくとも国内はちゃんとまとめておかないとマズいじゃないですか。それにルクレツィア様って誰ですか?」
「ルクレツィア様は国王陛下のご息女で第4王女だった方よ。今は帝国の枢機卿の1人に嫁がれているわ。確か2人息子さんがいらっしゃったはずね。」
「いやいや、それじゃあ宰相たちは王国を身売りしようとしているってことじゃないですか!いや、教国は貴族いないんでしょ!王国の貴族は自分たちも貴族じゃなくなるって分かってるんですか!」
元貴族は、一時は優遇されるだろうが、子孫までその待遇が続くとは限らない。キンタニジャでその例を見てきたばかりだ。…そういえばキンタニジャの元貴族の処分は皇妃様に丸投げしてきたけど、大丈夫…だよね。
「まあ、領地無し貴族は弁えておるじゃろう。奴らは官僚としてどこにでてもやっていける自信があるのじゃろうて。」
平民だけでなく貴族にも愛国心を求めるのは難しそうだった。
「…国王陛下、失礼を承知でお聞きしますが、王国は何故帝国と争っていたのでしょうか?」
「うむ、それは帝国が攻めてきたからじゃな。」
…まさかのジーナと同じ答えだった。
「帝国と休戦交渉はしてこなかったのでしょうか?」
「それはデル・マストロ伯がやっておった。」
「帝国の要求は何だったのでしょうか?」
「うーむ、それがよく分からなくてな。極稀に食料の要求があったり、細々とした嗜好品の要求があるだけで、しかもその要求を受け入れても攻められない訳でもなく、といった状況だったのじゃ。」
僕は思わず頭を抱えた。それはきっと現場指揮官とかに、何か御用ないですか~、とか聞いたレベルで、きっと現場の司令官クラスとは絶対話できてない。
「国王陛下、これは皇妃様よりお聞きした話です。帝国は今までに3回召喚の儀を成功させたとのことです。」
「なんじゃと!!」
思わず立ち上がった国王陛下が、落ち着きを取り戻し、座りなおすのを待ってから続けた。
「1人目は帝国を作り、2人目は帝国版図を拡大し、3人目は人の統一実現を目指したが先日の争いで命を落とした。帝国の大義は一貫して人を統一し、魔族をする、というものです。」
「そうじゃったのか。」
「王国が併合されていないのは、強硬に帝国を拡大した2人目がいなくなったところで、政策が見直されたためだそうです。それ以来、帝国は王国進攻の意図はなく単に国境に兵を配置していただけだそうです。」
「そうじゃったのか。」
国王陛下は肩を落として小さく呟いた。自分の国が全力で対抗していた相手が単なる国境警備隊と言われれば気落ちもするだろう。しかし国王陛下は帝都で王都の10倍以上の騎士団を直に見ているから、納得できたのかもしれない。
「帝国が求めるものは魔族あるいは魔国との戦いを共にする、ということです。と言ってもその負担を平等にするためにこれまでは他の国を帝国に併合という手段をとってきました。王国が独立して存続するためには対魔国戦の負担は帝国よりも重いものを覚悟する必要があると思います。」
「うーん。そうなのか。」
「国王陛下、僕が皇妃様から託された情報はお伝えしました。残念ながらエウスターキオ大公国案は帝国には受け入れられないでしょう。
教国を説得し、帝国と協力して魔国と戦うか
教国を説得し、教国と協力して帝国と戦うか
教国の属国となるか
帝国の属国となるか
国王陛下のご決断を、お願い致します。」
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