第41話 ルシエンテスの街攻略戦~前哨戦?
「昨日の報告より少ないですわね。」
デイフィリア様と帝国大将軍2人とジーナがルシエンテスの街から戻った斥候から報告を受けていた。
僕、ルーチェ、ルフィーナは天幕の隅に居ることを許されているが、ルーチェとルフィーナが僕にもたれ掛かって居眠りしているため、デイフィリア様以外の帝国関係者からは白い目で見られている。
この2人はちょっと寝すぎではないかと思う。昼寝し過ぎて夜眠れなくてまた昼に眠いお子様パターンだろうか。
「不思議なことに街の東半分に居た魔族がどこかに移動したようだな。」
如何にも歴戦の勇士というような大将軍の1人が続ける。長年兜を被っているためか頭髪は寂しいが、見上げるような身長に鍛え上げられた筋肉、大声を上げ過ぎたせいなのかしゃがれた声も迫力がある。前線指揮官タイプなのだろう。黙っているもう一人は、かなり年なようで前線指揮官大将軍に比べれば全体的にこじんまりした印象だが、その眼光は鋭い。
ジーナは名乗ったのだが、大将軍たちは名乗りもしていない。ジーナのことをじっと値踏みしているように見える。
英雄王を討ったのはジーナの部下ということにしてあるが、騎士特に親衛隊隊員は皆大柄で、戦場で見られた姿形に合致しそうな小柄な者はジーナしかおらず、帝国側は皆ジーナが英雄王の討伐者だと思い込んでいるようだ。
「今までこのような動きをしたことはあったのですか?」
「儂の知る限りはないな。」
デイフィリア様の問いに前線指揮官大将軍が答える。帝国では皇帝以外は皇族であっても。それ程敬われていないとは聞いたが……この大将軍は特別なのか?
「将軍たちはどのように考えますか?」
「儂たちが口を出すことじゃねえ。今回はデイフィリア殿下の護衛が仕事だ。王国のお手並み拝見だな。」
「だそうですわよ、ジーナ様。」
「えっ、はい。我が方でも情報収集を行っていますが、何分王国での戦場と勝手が違うため、行動開始までには今しばらく時間がかかるかと…」
最後の方は小声で動揺も隠しきれていない。ジーナはポーカーフェイスも苦手だし言葉での駆け引きには向いていないようだ。
「街の東半分で魔族の大きな動きがあったようですが、王国の陣が一番東側にあります。王国側も偵察を出されていたと思いますが何か気付いたことはありませんか?」
「えっ、はい、いえ、その、昨日はそこまで踏み込んではいませんでしたので…」
先程より明らかに挙動不審だ。王国関係者で昨日街の中まで進んだのは僕たちだけだ。当然帝国側は僕たちが街に向かったことは既に知っているだろう。街の中の出来事まで知っているかどうかは分からない。
「全く、この大切な時にいつになれば帝都に戻れるのやら。」
「…まだ戦場に着いたばかりだ。我らは皇妃様とデイフィリア殿下を信じてこの場に居るのだ。軽々に物を申すではない。王国の英雄が帝国の信頼に答えてくれるのを待つだけだ。」
前線指揮官大将軍に嫌味を言われてしゅんとなってしまったジーナを、とりなしてくれるかと思いきや更にプレッシャーを与える爺さん大将軍の言葉でさらにジーナは小さくなってしまった。
『ごめんよ、でも僕には助けることもできないんだ。』
「大変です!マクシミリアノ将軍が!」
「ええい、うるさい、マクシミリアノはここには居らん!報告ならあとで聞くわ!」
前線指揮官大将軍が大声をあげるものだから、ルーチェとルフィーナが目を覚ましてしまった。寝ぼけ眼をこする2人は可愛い。胸は立派に育っているが、それ以外の”可愛い”要素が最近は際立ってきている…気がする。
「よい!急ぎであるのであろう。」
「はい、ご報告致します。部隊壊滅!マクシミリアノ将軍は討ち死にされた模様です!」
「「何!?」」
大将軍2名の声が揃った。
「詳しく報告なさい。」
流石にデイフィリア様は、少なくとも取り乱した様子はない。一方ジーナは口をぽかんと空けている。贔屓目に見れば愛嬌があって可愛いとも言えるが、ハッキリ言えばかなり間抜け顔である。
「はい、今朝方街に突入したマクシミリアノ将軍揮下の騎士隊は魔族と交戦、大損害を出し個々に脱出を試みる状況に至ったとのことです。」
「どの部隊が出たのだ!?」
「第2~6部隊です。」
「何だと!本部以外皆ではないか!?」
「今すぐ、第2~6部隊の宿営地を確認させなさい!」
夕方になって、状況が判明してきた。
マクシミリアノ将軍は元々この方面の指揮官であり、今回の部隊もマクシミリアノ将軍が指揮していた部隊を編成し直したものだった。街に居る魔族は元々500体くらいと厳しい戦いを予想していたが、一晩で200体程に減ったとの報告を受け機を逃してはいけないと、動きの鈍い王国軍と別行動することを決心し、デイフィリア様の護衛以外の全軍を率いて攻勢にでたとのことだ。帝国では現場指揮官に大幅な裁量が認められており、今回デイフィリア様は観戦に来ただけで指揮官はマクシミリアノ将軍だったので、越権行為ではない。
約240の騎士が密集体形で街の中ほどまで進んだところ、四方八方から魔法を撃ち込まれ大打撃を受け、その場で数体の魔族は倒したものの、魔法攻撃は止まらず潰走に至ったということだ。将軍は密集陣の中央に居たため最初の魔法攻撃で帰らぬ人となったのではないかと思われる。魔族は追撃は行わないようで、街の外まで出てきたという報告はない。
数人が負傷しながらも帰陣し、これらの情報を齎してくれた。怪我はルフィーナに治療してもらったが、しばらくは使い物にならないだろう。
デイフィリア様が頭を抱え、大将軍2人は借りてきた猫のように大人しく座っている。
「マクシミリアノ将軍は対魔族のプロでは無かったの?」
デイフィリア様の冷たい発言に誰も言葉を発さない。市街戦で高火力の敵が待ち受ける中に密集体形で突っ込むなんて、どう考えてもプロの仕事とは思えない。
「……先のルシエンテス奪還戦が悪い意味での成功体験となってしまったようです。」
爺さん大将軍も神妙な面持ちだ。今まで魔族との戦いは泥沼の市街戦となり、短くても数ケ月に及び、長いと数年に渡って攻防戦が続いているところも珍しくはない。英雄王が率いた先のルシエンテス奪還戦は数日で街の奪還に成功した稀有な成功例だったのだ。その戦いで英雄王は魔法使いを集団運用し大魔法を撃ち、マクシミリアノ将軍率いる3000の騎士でローラー作戦を行った。この戦では損失300に対し魔族1000を討ったと判定され、戦闘期間が突出して短かっただけでなく、キルレシオが1を超えた数少ない戦いとしても記憶されているとのことだ。
「あの時は魔法部隊との連携があったからでしょうに…」
「「……」」
「はあ…これからのことを相談しましょう。」
騎士240の損失はデル・マストロ軍の損失にも匹敵する。王国なら逃げの一手だろう。
「ジーナ様、どうなされますか?」
「えっ、はい、いえ、その、えーーーと…」
『こら、ジーナ、僕を見ない、それはどう考えても悪手だ。』
「王国はどうなされますか?」
『ほら、デイフィリア様に話しかけられちゃったじゃないか!大将軍が不審な目で僕を見ているよ!』
とりあえず手ぶらで帝都に帰るのはマズい…はずだ。しかも大将軍一人死なせて何もしてきませんでしたでは、帝国と再び戦争になる未来しか見えない。もっと悪いのは僕の背中にルーチェとルフィーナが抱き着いたままなので、僕から緊張感の欠片も感じられないことだ。
「王国軍は予定通り、街の奪還を模索します。ただ騎士だけではどんな作戦も成り立たないので引き続き帝国の支援が得られれば、ということになります。」
王国側から逃げようとは言わないが、帝国が逃げるなら一緒に逃げるよ、という意思表示だ。
「分かりました。ルシエンテス奪還作戦は全面的に王国の指揮の下にて行うことにします。従士隊の隊長連にもそのように通達するように。」
『あれ?』
思ってたのと違う……
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