第40話 魔族と接触?しました

「あれが、魔族?」

「そうみたいね、あたしも実物を見るのは初めてだから。」

 僕たちの視線の先には大人しめのゴスロリに身を包んだロリが椅子に座って居眠りをしていた。銀色の髪のツインテールに小麦色の肌、顔は良く見えない。最前線というのに防具も着けていなければ武器も見当たらない。

 魔法の撃ちあいの跡か、建物の屋根や壁が崩れていて、家の中が丸見えなのだが、ロリ魔族の周りだけ別世界のようだった。

 王国では王国軍が砦に立て籠もる攻城戦だが、帝国の戦場は市街戦のようだ。

『こんなに障害物があるなかで遠距離攻撃可能な魔族に近接戦闘しかできない、しかも騎乗突撃も封じられた騎士が戦いを挑むなんて無謀にも程があるんじゃないのか?』

「1人だけだよな?」

「他には見当たらないわね。ただ近くの建物の陰とかに居ないとは言えないわ。」

「なんとか生きたまま捕まえられないかな?」

 魔族のことはほとんど分かっていないらしい。強力な攻撃魔法を使い、攻撃魔法がほとんど通じず、剣で切れば死に、死ねば死体は煙のように無くなってしまう、幼女の姿をした何か。

「今までそんなこと考えた人居なかったんじゃないの?」

「相手のことを知らないと対策を立てようがないじゃないか。敵を知り己を知れば百戦危うからず、敵を知らずして己を知れば、一勝一負す、だよ。」

「何を言っているのかわからないわ。ただ相手の情報を知ることが大切なのは分かるわ。」

「じゃあ、ちょっと捕まえに行ってくる。ジーナはルーチェとルフィーナのことをお願いね。」

「ちょ、ちょっと、ユーリ1人で行くつもり?無茶よ。一度戻って体制を整えてからにすべきよ。」

 ここには4人しかいない。騎士達は1kmほど離れた地点で陣地構築を行っている。最初は僕がこっそり偵察をしようと思ったのだが、最近側から離れないルーチェ、ルフィーナを撒くことができず、3人でこそこそ移動していたらジーナにも見つかったという訳だ。

「大人数だと、向こうもそれなりの対応をするだろうから、今がチャンスなんだよ。3人は見つからないように、何かあったら逃げて騎士への報告をお願い。」

「ちょ、ちょっと、待ちなさい!」

 僕はジーナが何か言い終わる前に、隠れていた場所からでて、物陰を選びながらロリ魔族の方に近づいていく。振り返るとジーナが口をパクパクさせているが、ここで大声を出すのは不味いと分かっているのだろう。声は聞こえてこない。

 今日はダンジョンに潜る時の装備なので、鎧がガチャガチャ音を立てたりはしない。しかし隠密の訓練なんかしていないため、建物の瓦礫等を踏みしめる音を消すことはできない…。自分の心臓の音や呼吸音がやけに大きく聞こえる。

 ロリ魔族は座ったまま微動だにしない。居眠りというより熟睡?いや生きているのか?僕はロリ魔族に後ろからそっと近づくと羽交い絞めに……すごい力で反撃されぎゅっと抱き着かれた…?マグダレナ皇女様より、まだ小さい魔族が蝉のように僕の体にしがみ付いている。

 …なんか違う。

 魔族の幼女の体温は人よりちょっと高いように感じる。いや、人間でも赤ん坊の方が体温が高いからその程度の違いかも。

 僕が気を抜いた時だった。部屋の隅が光った。避けられたのは奇跡だったかもしれない。気が付けば僕の遥か後方の建物が粉々に吹き飛んでおり、僕の目の前では僕に切られたロリ魔族が煙のように消え去るところだった。

 僕にしがみ付いている魔族はそのままであり、部屋の中にはもう1人の魔族が潜んでいたようだ。

『反射的に、魔族を殺してしまった…。罪悪感はない…。死体も血も残らないからか?』

 ジーナ達に見えるように建物の裂け目によって剣を振って、無事を合図した。きっと見てくれているだろう。流石に魔族に抱き着かれたまま、ジーナ達のところに戻る訳にはいかない。魔族を拘束して戻るつもりだったが、抱き着いている者を拘束する気分にはなれない。


 それから数時間、僕はロリ魔族の頭を撫ぜながら、この街から出て行って欲しいこと、争いたくないと思っていること、何故かジーナの機嫌が悪いこと、帝国のご飯があまり美味しくないとルーチェが文句を言っていること、等を語って聞かせたのだった。反応を期待してのことでは無かったが、やっぱり何の反応も返されなかったのは悲しい…。暇だったのでツインテールを解いてポニーテールにしてみた。ちょっと不格好だが許してもらおう。

 暗くなってきた頃、ロリ魔族は可愛く欠伸をし周りをキョロキョロと見回したあと、背中の小さな蝙蝠のような翼を広げると、ふらふらとどこかに飛んで行ってしまった。

「あんな小さい翼で羽ばたきもせず、飛べるなんて…」

 とりあえず意味もない感想を呟いて、やることが無くなった僕はジーナ達のところに戻ることにしたのだった。


「ユーリは一体何をしてきたのかしら?」

 僕を待っていてくれたのは、貼り付けたような笑顔で、しかも目は全然笑っていないジーナと、2人で抱き合って眠るルーチェとルフィーナだった。

「いや、ちょっと偵察に…」

「それで何か分かったのかしら??」

 笑顔なのに、声音からは怒りが感じられる!

「うーん、何となくダンジョンの魔物と近いものを感じたんだよね。」

「ダンジョン?」

 ジーナは虚を突かれたのか、間の抜けた声を上げた。

「うまく言えないんだけど、ダンジョン特有の空気というか、それを感じたんだ。魔族が死んで煙のように消えたときに、特に強く感じたんだ。」

「確かにダンジョンの魔物は倒されると煙のように消えるわね。でも魔物はダンジョン内であれば魔石を残すし、ダンジョン外であれば死体が残るわ。」

 この世界ではダンジョンから溢れた魔物は集団で街を襲ったりせず、近くの山や森に住み着くらしいが、死ねば魔石は取れない替わりに死体は残るらしい。

「まあ、なんとなく感じただけなんだけどね。」

 ルーチェが寝ぼけたまま、僕の背中によじ登ってきた。1人になったルフィーナは寒いのか寝ぼけたままジーナの背中に登ろうとしているが、上手く行かないようだ。

「まあ、すぐにその偵察は終わったはずなのに、あたしたちをこんな所に取り残して暗くなるまで何をしていたかは後でゆっくり教えてもらうことにするわ。」

 ルフィーナを抱えたまま移動を始めたジーナの後を僕はルーチェを背負ったまま追いかけた。

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