第39話 魔族と戦うことになりそうです

「王国は魔国と言うのに帝国では魔国と言わないのは何か意味があるのでしょうか?」

「勇者様、魔族に国はありませんわ。そもそも言葉が通じないので魔族がどのような暮らしをしているかは想像の域をでませんの。最も魔族の勢力圏を魔国と呼ぶことは理解できますわ。」

「???魔王はいないんですよね?」

「さあ、わたくし共は見たという人は存じ上げませんわ。」

 魔国は共和制だって聞いた気が…誰から聞いた?陛下?いやエッダさん?

 王国が戦っている魔国と帝国が戦っている魔族は別物なのか?

「……先代国王が先代教皇様よりお聞きした話じゃ。王国でも知る者はほとんどいない。

 先代教皇様は本当の魔族に会ったことがあったそうじゃ。」

「本当の??」

「我らが直接目にしている魔族では無い者が、魔国に住んでおりそれらの者たちとは会話も出来たそうじゃ。」

「それでは、人と戦っている魔族は何者だというのですか?」

「…分からぬ。その本当の魔族は自分たちの生存圏を広げる活動はしているが我らを害しているとは思っていなかったらしい。」

「それはお話になりませんわね。」

 皇妃様は苛立ちを隠さずに切り捨てる。聞く限り今帝国が戦っている魔族以外の魔族が居るかもしれない、という情報で現場を混乱させることはあっても益になることがあるとは思えない。……?

「陛下、その本当の魔族に会って交渉できれば戦争を止めることが出来るとお考えなのでは?」

 僕の発言に皇妃様ははっとした顔で国王陛下のほうを見た。小さい皇女様と王女様は僕の膝の上で仲良く眠っている。出会ってから帝都までの間も皇女様は器用にも僕に抱き着いて眠り込むことが多かった。そんなに僕の膝の上は気持ちいいのだろうか?

「……流石にそこまで楽観的でない。王国では前線に居る魔族は本当の魔族の支配下にあるか少なくとも指示を受けて動いていると考えておる。どこか1点に戦力を集中し戦線を突破し敵の本拠地、本当の魔族に直接的な脅威を与えることができれば、戦局を変えることができるやも、と考えておっただけじゃ。」

 そういえば、エウスターキオに着いてすぐにエッダさんが魔国に進攻しようという話をしていた気がする。

「”本当の魔族”の話は信用できますの?教国とはどこまで話がついていますの?」

「先代教皇様は嘘を吐くような方では無かった。王国としては信用しておる。現教皇様が、”本当の魔族”の話をご存じかどうかは知らぬ。」

 教皇は世襲制ではなく、実力主義で有力枢機卿の中から選ばれるらしい。現教皇は先代教皇の政敵だったらしく、先代教皇と昵懇の中であった王国王室は現教皇とはやや疎遠になっているらしい。

「……」

「……」

「……」

 ダメだ!話が行き詰ってしまった。みんな黙り込んでしまって(約2人は寝ている)いやな沈黙が場を支配する。

「話をまとめましょう。」

 今まで黙って聞いていたデイフィリアと呼ばれた皇女様の声が静寂を打ち破った。

「帝国が内戦とならないためには勇者様のお力を示して頂く必要がありますわ。勇者であると名乗って頂かなくてもギリギリ大丈夫かと思われますわ。そこで勇者様一行には、わたくしと共にルシエンテスの魔族掃討に向かって頂きますわ。」

 デイフィリア様は国王陛下のほうに向き直り、続けた。

「教国に対しては対魔族戦に対して一層の協力を要求する必要がありますわ。少なくとも帝国民に王国経由で有益な交渉が行われていると思わせることが必要ですわ。勇者様の力により帝国がまとまる前に帝国民の教国と王国に対する不満が爆発してしまえば、帝国若いては人は終わりますわ。」

 デイフィリア様はちょっとキツイ感じの如何にもお姫様然とした絶世の美人だ。しかも今までほぼ喋って無かったのに、最後の最後で場を支配してしまった。

 国王陛下はデイフィリア様の言葉に飲まれてしまったのか、口を大きく開けて何度も頷いている。…大丈夫かな??

「では王国との合意として、宰相、大将軍その他に伝えて参りますので、詳細を場を変えてお話致しましょう。」

 デイフィリア様の言葉で散会となった。

 僕は膝の上の2人を起こしてよいのかどうか判断つかず…その場に取り残された。


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 次の日には僕は、デイフィリア様と共に馬車に揺られていた。両隣にはルーチェとルフィーナがすやすやと寝息を立てている。乗り心地は決して良くないのだが、見かけによらず図太いのか、あるいは僕の周りは寝易いオーラでもあるのだろうか?

 ジーナ始め王国騎士50、帝国騎士(デイフィリア様護衛)300という陣容である。しかも帝国大将軍3名が付いてきている。王国騎士の実力に納得できなければ、この大将軍揮下の騎士と戦うことになるかもしれない。従士その他3000が付き従いそれなりの大所帯だ。

「よくお休みですわね。」

 デイフィリア様はドレス姿ではなく、動きやすい服装だ。しかしお姫様オーラは隠しようがなく、僕は緊張しっぱなしだ。この中で寝れる2人が羨ましくもある。

「わたくしではなく、マグダレナをご希望でしたか?」

 答えずらい…

「マグダレナ様とは、お話することもありませんでしたので…」

「…許してくださいね。皇族として親族か侍従、侍女以外との会話は控えるように教育されているのですわ。不用意な発言をして、民との約束を破ったというようなことになってはいけないのですわ。」

「デイフィリア様は僕とお喋りをしていて大丈夫なのでしょうか?」

「ユーリ様は親族以上ですから。」

 デイフィリア様はにっこりと笑う。被召喚者は特別っていう意味だよね?

「シンヤーダタ様を召喚したのはわたくしということになっておりますわ。シンヤーダタ様には申し訳ないことを致しましたが、シンヤーダタ様にもそう申し上げておりましたわ。」

「どうしてそのようなことを?」

 ルーチェとルフィーナが眠り込んでいることを確認して僕は会話を続ける。

「召喚を行うことができるのは、過去に召喚された英雄様の直系の乙女に限られるのですわ。」

「……」

「召喚者と英雄様は繋がっており、万一英雄様が志半ばで倒れられた場合には召喚者も運命を共にすると伝えられておりますわ。」

「でも?」

「唯一の例外は、他の英雄様を見出すことが出来た時と伝えられておりますわ。

 わたくしもあの子も母の子ではありませんわ。あの子は帝国で唯一正統な召喚者の血筋であることが証明されていますわ。いえ最近まではこの世で唯一人と思っていましたわ。」

「なら、何故王国との戦場に?」

「シンヤーダタ様の側に居たいというあの子の我儘を父が許してしまったのですわ。父とシンヤーダタ様が亡くなりあの子が行方知れずと聞いて母とわたくしがどれほど心を痛めたことか。あの子を連れて帰ってきて下さって本当にありがとうございます。」

「シンヤーダタ様のことは、」

「シンヤーダタ様のことは、既に整理がついておりますわ。過去にも志半ばで倒れられた方がいなかったわけではありませんわ。今回は意志を継いでくださる方がいらっしゃって幸いですわ。」

「あまり期待してもらいたくはないのですが…」

「ユーリ様は思うようにして頂ければ良いですわ。このような話をさせて頂いているのは、今回わたくし共のことは捨て石にして下さって良いということを覚えておいて頂きたいということですわ。」

「そんな」

「いえ、帝国に必要なのはあの子ですわ。シンヤーダタ様亡き今、わたくしは遠からずお役御免になることになっておりますわ。」

「……」

「ルシエンテスはシンヤーダタ様が騎士3000を率いて奪還した街ですわ。そのときの損害が300程でしたわ。厳しい戦いでしたわ。先ごろから再び魔族の進攻に晒されていますわ。300程度の損害で再奪還できれば、皆もユーリ様を認めざるを得なくなりますわ。もちろんご自身が危ないときには、わたくしたちを囮として逃げて頂くことをお勧めしますわ。」

 …ルシエンテスは厳しい戦いになりそうです。

 あとデイフィリア様のお話が思ったより重くて鬱になりそうです。帝都の観光したかったなぁ。<-現実逃避

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