第37話 皇妃様とお会いしました
ここはダミアーニ帝国帝都グアルディオラ。流石は帝都、王都とは比べ物にならない繁栄を見せている。王都では珍しい4階層以上の建物が立ち並び、石畳の道も綺麗に整備され、街には人が溢れている。皇帝の葬儀は盛大に行われたらしい。人々は長く喪に服するわけではなく、葬儀が済めば、というより葬儀で人が各地から集まってきたため、まだ人が残る今の時期は通常3割増しの賑わいらしい。
「むーーー。」
僕の前には、何故かむくれたジーナ。僕の膝の上にはまだ名前も知らない女の子。僕の右腕にはルーチェ、左腕にはルフィーナ。流石に3人とも小柄とは言え、男として小柄な僕に3人が張り付いているのは、見た目おかしい…。
「いやー、皇太子の遺骸を届けて頂き感謝致しますぞ、ピッコローミニ卿。」
「もう少し早ければ皇帝の葬儀に間に合いましたものを、残念です。」
隣のソファセットではルフィーナパパとカブリーニ伯が、話をしていた。
僕は、数日牢屋で過ごしたあと、ルフィーナパパに救出された。ルフィーナパパが街に残っている可能性を失念していた……。戦闘後、怪我はルフィーナの回復魔法で完治したもののしばらく療養が必要である、本格的に政務に復帰したところ、”そういえばカブリーニ伯爵に会わせろと言っている不審者がいる”と聞いて、わざわざ確認に来てくれた。幸いにも僕のことは忘れていなかったらしく、すぐに牢から出してもらえだが、側に皇太子の遺骸があると分かると、有無を言わさず馬車に乗せられ、ここまで連れて来られたという次第である。
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「ユーリ!!」
帝都宮殿の王国一行の控室のようになった部屋の扉を開けると、ジーナの声が聞こえた。立ち上がってこちらを見ている。目には涙まで浮かべて…ここは感動の再会…僕は両手を広げ、ジーナが飛び込んでくるのを……
ジーナはびっくりした目で僕のお腹にしがみついている幼女を見ていた……
ルーチェが僕の背中によじ登り、しがみついてきた。ダンジョンの中を移動するのに何度も背負ったり降ろしたりを繰り返してきたので、違和感のない自然な動きだった。豪華なドレスはごわごわしていてルーチェの感触を感じることはできない…ミスリルの胸当てをしていてもその弾力は感じられたのに!少し遅れてルフィーナも僕の背中によじ登ってきて、僕は両手を広げたまま、女の子3人にぶら下がられるという意味不明な、状況となっていた。
「で、その子は誰?」
しばらくぶりに会ったというのに、ひとしきり唸ったあとジーナが最初に発した言葉だった。感動的な再会をちょっと期待していたのに、何か詰問されている感じになってしまった。ルーチェとルフィーナは僕の腕に抱き付いたまま眠っている。寝る子は育つ?いや、胸以外は育ってないよね?
と現実逃避してみてもジーナの追及は躱せそうにない。
「えーと、森で出会った知らない子です。」
「ユーリは見ず知らずの子供を誘拐してきたのかしら?」
「いや、勝手に付いてきたというか…」
「言い訳しない!」
「…はい。」
女の子はお行儀良く、座っているのは僕の膝の上だが、お茶を頂いている。食事は口の前まで食べ物を持って行かないと食べないのに、お茶の作法はバッチリだ、その姿には優雅ささえ感じられる。
「で、あなたは誰なのか、し、ら?」
ジーナの矛先が女の子に向いた。しかし女の子は全く気にする様子もない。
いかん、ジーナの何かが切れそうだ。
周りを見回すが、ルーチェとルフィーナはお休み中だし、ルフィーナパパとカブリーニ伯は相変わらず談笑中だ。
その時、ドアがノックされた。
「お入りなさい。」
女の子が喋った!年相応の可愛い声だが、不思議と良く通る声だ。今も小さい声だったにも関わらず、ルフィーナパパとカブリーニ伯もびっくりしたようにこちらを見ている。なおルーチェとルフィーナは起きない。
一際豪華なドレスを纏った女性が、護衛とメイドさんに囲まれて入室してきた。
「マグダレナ。その方がそうなのですね。」
「はい、お母さま。」
「そう、ではそちらの方、改めてご挨拶する機会もあるでしょう。」
ドレスの女性は女の子を抱き上げ、部屋を後にした。
今まで、誰かに引き離されようとすると僕にしがみついていた女の子は大人しく連れて行かれた。連れて行かれてしまった?
もぞもぞとルーチェが僕の膝の上に乗ってくる。寝ぼけているようだ。とりあえずルーチェの頭を撫でる。
「あれは誰?」
ルーチェ、カブリーニ伯も知らないみたいで無言で首を振っている。
「お母さまって言っていた?」
「ええ、そう聞こえたわね。」
夕食後、帝国の偉いっぽい人がやってきた。宰相さんではない。
「皇妃様が、ユーリ様とお会いになられます。お仕度を。」
「え?」
そんな約束はしていない。皇妃様とは、まだカブリーニ伯も面会できていないらしい。
「僕だけですか?」
「ユーリ様だけです。お早くお願い致します。」
「……えっと、着替えた方がよいですか?」
「お召し物はこちらで用意致しますので、そのままで結構でございます。」
カブリーニ伯が”行ってこい”と目で訴えた。伯爵が王国の代表者のはずなのに働いてない気がする。最も帝都に来て数時間しか経ってない僕が伯爵の働きを分かるわけもないが。
僕は別室で、手早く湯あみを済ませ、ヒラヒラした服を着せられ、聖堂のような場所に連れてこられた。
そこには、先程のドレスの女性、20代後半くらいの美人、さっきマグダレナと呼ばれた女の子が居た。傍らには大きな棺が2つ存在感を主張している。護衛やメイドと云った人たちは見当たらない。僕を案内してきた人もいなくなってしまった。
女の子が、淑女の礼をする。
「お初お目にかかります、勇者様。よくぞダミアーニ帝国にいらっしゃいました。わたくしマグダレナ=ダミアーニ。英雄王様を召喚した者に御座います。以後お見知りおきを。」
いやいや、ランディーニ近くの森から牢屋の中でも、ここまでの道中もずっと一緒だったよね?
「勇者様、我が娘の命をお救いいただいたこと、英雄王様のご遺骸を送り届けて頂きましたこと、改めてお礼申し上げます。」
きっと、この人が皇妃なんだろうけど、皇妃が他国の平民に頭を下げてもいいのだろうか?僕の内心の焦りに気付かず、いや構わずドレスの女性は言葉を続ける。
「英雄王様は安らかなお顔でした。不思議なことに、胸の傷さえなければ生きているようです。これも英雄王様あるいは勇者様のお力かと。帝国では英雄王様として皇帝と同じに、この聖廟の中に埋葬させていただきます。」
もうあの一騎打ちから既に3週間程経っているのに、遺体は綺麗なままだそうだ。そういえばずっと傍らにあったのに腐臭とかしなかったな。牢とか馬車旅で自分の体臭もきっと酷いことに…。
「今なら、英雄王様と皇帝陛下の棺を開けることもできますが、如何なさいますか。」
皇妃様は傍らの大きな棺を見た。その様子は寂しそうだ。皇帝には愛情があったのだろう。
「いえ、悪戯に死者の眠りを妨げることは、ありません。このまま冥福を祈らせて頂いてよろしいでしょうか?」
皇妃様が黙って頷くのを見て、僕は棺に向かって合掌し、黙とうした。
僕が目を開けると、皇妃の横の美人がはらはらと涙を流していた。
「すみません、シンヤーダタ様もその仕草をよくしておられました。」
「勇者様、これは我が娘のデイフィリア、英雄王様に嫁ぐはずでした。」
そういう人も居たのね。皇妃様は言葉を続けた。
「勇者様、ダミアーニ帝室も直系はここに居る3人を残すのみとなってしまいました。…ダミアーニ帝室は勇者様にこの帝国をお任せ致します。」
3人が揃って頭を下げた。淑女の礼とかではなく、最敬礼である。
「いやいやいやいや、俺には荷が重すぎます!」
皇妃様は、僕の叫びを聞き流し、更にこう続けた。
「勇者様に1つだけお願いが御座います。
勇者様の子種をダミアーニ帝室にお恵みください。」
「???」
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