第33話 決着?

 あたしは、ルーチェとルフィーナに支えられ、城門の前に立つユーリの雄姿を見守ることしかできない……。

 立派な馬に跨った大柄の騎士に比べ、ガチャガチャと鎧の音を立てて歩いていったユーリは正直かなり見劣りがする。帝国陣地からは時折歓声が上がるもののこちらの街はひっそりとしたままだ。

 それでもあたしにはユーリの”雄姿”がハッキリと見える。


 あのときあたしは、

「あたしが行く。親衛隊隊旗を掲げた以上不戦敗は許されない。帝国には皇女しかいなかったはずだ。シンヤータダと言う名は聞いたことがない。」

 と言った後、膝から崩れ落ちた。行かねばという使命感はあるが、行けば死ぬという本能的な恐怖がそれを上回り、

『怖い、怖い、怖い、怖い、怖い……』

 それ以外何も考えられなかった。

「僕が行ってくるから。」

 ユーリが騎士の方を見たままそう言った。いや言ってくれた。…言ってくれたと思ってしまった。あたしは一瞬これで、一騎打ちで無様に死ななくて済む、と考えてしまった。

 ユーリは普段被らない兜をつけており、表情も分からないし声もくぐもっていて感情は読み取れない。

「「いってらっしゃいです(わ)~。」」

 呑気にルフィーナ、ルーチェがユーリを送り出した。あたしは座り込んだまま、その背中を見つめることしかできなかった…。


 相手が騎乗突撃に必要な距離をとり、両者が向き合った。

 ユーリが勝てるとは思えない。確かにユーリには不思議な強さがある。ダンジョンで敵わないと思えるような強い魔物も危なげなく討伐するのだが、魔法を使えるわけでもなく、特別な技があるわけでもなく、刀を振り回しているだけだ。なにより模擬戦で向き合っても強者から感じるプレッシャーをユーリからはほとんど感じない。…そうあの騎士からはこの距離でも痛いほどに感じるこのプレッシャーだ。

 そんなところにユーリを送り出してしまった。あたしはどちらにしろ護衛騎士隊代表として敗戦の責を取って討死しなければならないだろう。あたしの命を数時間長らえさせるためだけに、ユーリを死地に送り出してしまった…。

 でも、もうあたしにできることは何もない…せめて目を逸らさずにいることしか…。


 ユーリが走り出すと同時に、相手は見たことの無い炎の魔法を放ってきた!

『魔法まで使えるの!?ユーリーーーーー!!!』


 爆炎が晴れると……何事も無かったかの様にユーリの走る姿があった。

「ユーリ?ユーリ?ユーリーーー!!」

 訳が分からなかった。ユーリは親衛隊隊旗を掲げるように旗竿を持ち、隊旗は綺麗に広がり、まるで優勝旗を掲げて行進しているような姿に見えた。あれだけの魔法攻撃を受けたはずなのに、ユーリにダメージが無さそうに見えるどころか隊旗にも汚れ一つついていないように見える。

 実際にはガチャガチャ、ドタドタと走るユーリの姿は帝国側から笑い声が起きていたのだが、魔法攻撃をものともしないように見えたその姿には戦場が一瞬静まり返った。

 そこから、帝国騎士の怒涛のような魔法攻撃が始まった。炎だけでなく、風、氷、雷とありとあらゆる魔法攻撃が放たれたように思う。爆炎に包まれてユーリの姿は全然見えなかったが、爆炎が段々と帝国騎士のほうに近づいていき……

 爆炎が晴れたときに皆が目にしたのは、隊旗の旗竿の先に帝国騎士の骸を串刺しにしたまま、走り続けるユーリの姿だった。


 何が起きたのか分からなかった……。

 ユーリの姿がどんどん遠くなって行く。帝国軍が蜘蛛の子を散らすようにいなくなっていく。

「「ユーリーさーまー。もういいです(わ)ー。」」

 隣でルーチェとルフィーナの声がするが、どこか遠いところで誰かが叫んでいるように感じた……。

 ユーリの姿はどんどんどんどん遠くなっていき………見えなくなった。


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「やべえ…ここはどこだ?」

 200m走なら息を止めて走るのが正解だ!…のはずだが息が苦しくならない。無意識に呼吸してしまっていたのか!

 流石に200mは通り過ぎただろうというところで、足元が急に悪くなったので、立ち止まり、兜を外してみた。

「???」

 見知らぬ森の中だった。

「まさか!異世界転移!?ステータスオープン!」

 何も起きない。

「召喚とか転生とか転移って、そうそう起きるものじゃないよね。」

 ここは領都ランディーニ近郊の森のはずだ。と言ってもどこなのか見当がつかない。僕はこの辺りの地理は全然わからない。

「どっっちに行けばいいんだろう?迷子だな、これは。一騎打ちはどうなったんだろう?僕は逃げてきてしまった…ということになるのかな。」

 逃げてきたということになればかなりマズい。謝っただけで許してもらえるだろうか?一瞬このまま逃げちゃえ、という考えが頭の隅を過る。

「どわっ、なんだこれ!」

 兜を取る時に脇に置いた、旗が目に入ると旗竿に串刺しになった死体ががそこに…あった。

「おぇ、申し訳ないけど人の死体は間近で見るもんじゃないな。

 あれ、この人は一騎打ちの相手だった騎士だよね。じゃあ、とりあえず一騎打ちから逃げたことにならないんじゃない?」

 それだったらきっと戻っても怒られないよね!ねっ!

 僕は死体を旗竿から取り外し、旗で包むことにした。

「自隊の旗で遺体を包むことは名誉あることだった…ように思う。敵の遺体を包むのは間違ってる気もするけど…うん、気にしないことにしよう!流石に遺体を捨てていくわけにもいかないし、剥き出しの死体を運ぶなんて気持ち悪すぎる。」

 旗に包んだ遺体を肩に担いて、ユーリは歩き出した。

「ダンジョンのなかはオートマッピング機能があるかのように道が覚えられるんだけど、フィールドは…ダメだな。」

 ユーリは自分では認識ないが方向音痴だった……。

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