第32話 英雄王シンヤータダ

 俺の名は多田信也。17才地元では名の知れた進学校で優等生と呼ばれている。しかし高2の夏に初めて受けた全国模試の結果を目の前に俺は自分が井の中の蛙であったことを知った。

 今まで皆勤賞だった学校を初めてズル休みし、近所の河原でボーーとしていたところで記憶が飛んでいる。

 気が付くと、目の前には絶世の美女と呼んでも良い女性とやややつれた感じだが、イケオジで豪華な衣装を纏った男が居た。

「おとぎ話の王様とお姫様?」

「よくぞ、我らが召喚にお応え頂きました!英雄王様!この世界をお救い下され!」

「え!え!えーー!」

 話を聞けば、この世界の人類は魔族に侵略され日々その生存圏が削られているとのこと。魔族と戦うこの国はダミアーニ帝国、俺を召喚したのは王女いや皇女のデイフィリア、一緒に居た男は皇帝ダミアーニ12世。

 初代ダミアーニ皇帝は小国の王であったが、魔族の進攻を受け周辺諸国および大国であったフォルトゥナータ教国に助けを求めたが助けてくれる国は無く、魔族に対抗するに人類を纏める必要を痛感した初代皇帝は魔族でなく周辺諸国に兵を向けた。元々の国土は魔族に占拠されたものの、周辺諸国を制圧しダミアーニ王国はダミアーニ帝国と名を変え、幾つかの国からの援軍を得ることに成功し魔族の進攻を食い止めることに成功した。それからダミアーニ帝国は魔族と戦いつつ、対魔族で人類が一致団結するため一向に我関せぬを決め込む大国フォルトゥナータ教国と教国の金魚のフンのように振る舞う小国と戦い続けているということだ。

「英雄王様には、この世界を救う知恵と力があります!この帝国の全てを差し出しますので、自由にお使い下され。」

 王様、いや皇帝がとんでもないことを言っている。

「いやいやいやいや、俺にそんな大それたことできませんよ!」


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 俺の名は、シンヤーダタ=ダミアーニ、ダミアーニ帝国皇太子だ。この世界に召喚されて、5ケ月が経った。単なる高校生に世界を救う力などないと思った…のだが、英雄王と呼ばれるこの俺には特別な知恵と力があった。治水計画を立てたり、物流を改善し、攻略に手間取っていた小国との戦で戦功をあげた。特に俺が戦場に立つとその時は無名であったにも係わらず味方の士気が爆上がりした。それらの功績で俺は皇太子となった。皇帝からは皇帝になって欲しいと懇願されたが、全てにおいて正しい判断ができるわけではないと思ったため、いずれ皇帝になるということで皇太子で妥協して貰った。

 この世界は銃や戦車といった武器は存在しない。主戦力は騎士だ。騎士になると普通の人とは隔絶した身体能力を得ることができる。不思議だ。騎士になるには特別な才能が必要であり、帝国もその才能発掘には力を入れていた。だが俺は違う才能の発掘に夢中になった。それは魔法だ、如何にもファンタジーなものがこの世界にはあったのだ!騎士であっても魔法の才能があるものは、新設した俺の魔法師団に組み込み、魔法の訓練をさせた。俺も魔法が使えたし、教えることもできた。何より俺が中心となれば多数の魔法使いが協力して、強力な範囲攻撃魔法が使えるようになり、騎士を越える攻撃力を発揮することができた。

 俺のダミアーニ帝国皇太子としての第二の人生は順風満帆だったが苦い思い出が無いわけではない。1ケ月前の対魔族進攻作戦である。総大将として自慢の魔法師団を率いて2年前に失った砦に進攻したが、自信を持って放った集団範囲攻撃魔法が魔族には効かなかったのだ。俺の魔法は魔族に対しても十分な効果があったが単体攻撃魔法では相手の数に対抗できなかった。戦意高揚した騎士の突撃により砦奪還作戦は成功したものの完勝とはほど遠い結果であった。

 俺は、魔族に対抗するためにはより多くの騎士を集める、つまり人類の力を結集する大切さを再認識し、フォルトゥナータ教国の制圧に本腰を入れることにした。先ずはフォルトゥナータ教国の属国であるクレスターニ王国の制圧を目標に軍を起こした。地理的にクレスターニ王国を制圧しなければフォルトゥナータ教国に進軍できない。

 初戦は完勝だった。集団範囲攻撃魔法で城壁は崩れ、一騎打ちを申し込んできた騎士を一刀のもと切り倒すと、残った者達は降伏を申しでてきた。こちらの被害は皆無だった。

 そこからは抵抗する街もなく、ここまで軍を進めてきたが、目の前の幾分小さな街は抵抗するようだ。軍旗が幾つか掲げられている。この街を落とせば王都までは抵抗する街はもうないだろうとのことだ。

 俺は降伏を促す使者を送るように言うとともに野戦陣地の構築も指示した。油断大敵だ、気を引き締めていこう。


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 降伏勧告の使者は追い返されてきた。街の城壁には綺麗な鎧の騎士が整然と並んでいる。数は前の砦より少ないようだ。しかし練度は高いのかもしれない。

「殿下、あれは王族親衛隊騎士団の旗です。王国一の精鋭部隊と言われています。まあ実戦経験があるのかどうかは怪しいものですが。」

 殿下呼びにも慣れた。隣に立つ男は歴戦の大将軍である。

「今回は皇帝陛下の御出座も頂いている。親征であるから我々は完勝しなければならない。油断は禁物だ。慎重にいくぞ。」

「流石は殿下です。我らが意見するまでもありませぬ。ご下知をお願い致します。」

「うむ、予定通り集団範囲攻撃魔法で先制する。」

「ははは、一撃で終わりですな。今回も我らの出番はなさそうですな。」


 俺は呆気に取られていた。端から見ればさぞバカみたいな顔をしていただろう。50人からなる魔法師団が30分以上かけて詠唱した範囲攻撃魔法が、敵の城壁に到達しようかというその時に敵からの魔法での迎撃により完全に無効化されてしまったのだ!

「殿下!今のは何ですか!?あんなの、あんなの!」

 大将軍はパニックだ。かえってこういう奴がいると冷静になれる。

「落ち着け!相手にも、それなりの魔法使いがいるようだ。だがそれだけだ。」

 とは言ってみたもののかなりマズい。こちらの範囲攻撃魔法は連発できないし、撃てるまで待てば連発できませんと白状しているようなものだ。かといって、騎士を突撃させてもあの魔法の餌食になってしまうかもしれない。

「俺が一騎打ちをしてくる。魔法の詠唱を再開しておけ。」

 俺は馬を進めた。一騎打ちで敵の戦意を喪失させられればそれで良し。でなくても範囲攻撃魔法準備の時間は稼ぐことができるし、相手の魔法使いを特定できれば、俺が突撃すれば打ち漏らすことはないだろう。


「俺は、ダミアーニ帝国皇太子、シンヤータダ。クレスターニ王国の騎士が臆病者でなければ、俺と戦え!万一俺に勝てれば軍を引くと約束しよう!」


 豪華な鎧の男が親衛隊の隊旗を持って門よりでてきた。一騎打ちに応じるようだ。しかし出てきただけで一歩も動かないし、一言も喋らない。

「どうした、名乗りを上げないのか!」

 相手の男は旗を振るだけである。喋れないのか?

「まあよい、隊旗を持ってくるからには、その隊を代表し、王国を代表して俺と戦う意思があると認めよう。

 が、しかーし、お前!馬はどうしたのだ!なぜ騎士が馬に乗ってこない!なめてんのか!」

 騎士は騎乗突撃で最大の攻撃力を発揮できる。なめてんのか!…いやいやこれも作戦かもしれない。安い挑発に乗ってはいけない。相手の思惑がどうあれ圧倒的な力を見せつければいいだけだ。俺は騎乗突撃に適した距離まで後退し、一騎打ちの開始を一方的に宣言することにした。

「俺は、ダミアーニ帝国皇太子、シンヤータダ。クレスターニ王国民よ俺の圧倒的な力を見よ、そして俺に跪き、ひれ伏すが良い!…いくぞ!」

 男は、よたよたとこちらに走って来た。鎧の重さに振り回されているようだ。

「なんだ?こいつ騎士なのか?」

「まあいい。俺の前に立ったことをあの世で公開するがよい、ファイヤーランス!」

 俺の魔法が男に炸裂した!

「何!?」

 爆炎が晴れたあと、何事も無かったように男がこちらに向かって走ってきている!

「エクスプロージョン!」

「アイスランス!」

「サンダースピア!」

「ウィンドカッター!」

 思いつく魔法を次々と放つが男の走りを止めることはできない!

「く、く、来るなー、ファイヤーボール、ファイヤーボール、ファイヤー、いやー、いやー!」

 男の突き出した旗竿の先端の槍の穂先が目の前に迫り、俺の意識はそこで無くなった……。

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