第31話 開戦そして・・・

「おー、いっぱいいるねぇー。」

 ジーナが務めて明るい声を上げた。城壁の上には騎士が勢揃いしている、正門近くはキラキラ輝くミスリル鎧の親衛隊が配置されている。これで少しでも相手を威圧できればいいのだが。

 僕はサイズの合わないミスリル鎧をつけて、親衛隊旗を持ってジーナの隣に立っている。側にはカブリーニ伯爵、ルフィーナ、ルーチェ。ルフィーナパパは別の門を守っている。

 帝国軍は正門正面、500m以上離れたところに布陣している。騎士の数はおよそ500、デル・マストロ軍が丸ごと寝返ったという事態は避けられたようだ。

「クロスボウの有効射程外だな。」

 クロスボウの矢は500m以上飛ぶが、従士クラスに有効打を与えるには300m、騎士の全身鎧に対しては100m以内が有効射程となる。

「こちらにはクロスボウ部隊はいませんけどね。」

 前線に集中的に配置されていたため、この街にクロスボウは配備されていなかった。

 守備側が打って出ないと見れば、従士クラスに護られた魔法使いが200mくらいまで前進し、守備側の魔法使いやクロスボウを減らし、騎士が突撃する。アイアンゴーレムも一撃で葬る騎士の騎乗突撃の前には、堅固に作られた城門もそう長くは耐えることはできない。

 どちらかの騎士が全滅すれば戦闘終了である。この世界では略奪はほぼ起きない。戦うのがほぼ騎士と魔法使いだけで城壁付近で決着がつき、それら身分の保証された人は略奪などせずとも、正当な褒賞が期待できる。その他大勢は直接戦闘に参加しないため、略奪する権利は認められない。騎士とその他の戦闘力が隔絶している世界ならではである。なので教会にいれば少なくとも命の危険はかなり少ないのだが、ルフィーナもルーチェもこの場に連れてきてしまった。

 ジーナが笑顔を見せてくれたので良しとしよう。

「なかな動かないな。」

 もう1時間ほど、動きがない。…と思った瞬間、帝国陣地が光り、…空を埋め尽くすような数えきれないほどの火の玉が、降ってきた。

「「イージスです(わ)!!」」

 僕の後ろで、ルーチェとルフィーナの声が重なり、多数の小さな火の玉が上空に向かって飛んでいく。

『迎撃ミサイルかよ!』

 上空を見上げると、帝国陣地より飛来した火の玉は城壁の手前でほぼ全て迎撃され盛大な爆発音と煙が収まったあとには、こちらの被害はほぼないように見えた。騎士は流石に微動だにせず元の配置についているが、従士たちは腰が抜けたのか座りこんでしまっている。

「すごいじゃないかー。」

 僕はルーチェを抱き上げてクルクル回る。ひとしきり回った後で物欲しそうにこちらを見ていたルフィーナも抱き上げてクルクル回った。

「2人で練習しておきましたですわ!」

「この杖のお陰…です。」

 ルーチェはダンジョンの宝箱で見つかった杖を大事そうに手に持っていた。鑑定結果が”不思議な力が感じられる杖”だが、僕が魔女っ子に似合うと思ってルーチェに持たせていたものだが、魔法を増加させるような効果があるのかもしれない。

 カブリーニ伯爵はすぐ側で微動だにしない、流石だ!と思っていたら…気を喪っているようだ。どうするの、これ?

 ジーナがその辺の騎士を叩き起こして、ランディーニ子爵とピッコローミニ子爵に伝令として走らせた。流石のジーナもカブリーニ伯爵を叩き起こすのは躊躇われたようだ。

「ルーチェ、ルフィーナ、さっきのがもう一度来たら。」

「10回くらいまでは大丈夫ですわー。」

「そう、それは心強いわね。」

 と、帝国陣地から1騎の騎士が近づいてきた。凄く豪華な装備をして帝国の旗を持っている。白旗では無いので軍使ではない…この世界にも白旗ってあるのかな?

「魔法、撃ちます…です。」

 ルーチェが杖を構える。

「ちょっと待って。…あれは多分一騎打ちの申し込みね。…マズいわ。」

 この世界では戦場での一騎打ちがあるらしい。騎士は圧倒的に強いので、騎士で囲めばボコることは可能だが、クロスボウや魔法の一斉射程度では一流の騎士を打ち取ることは困難であり、名を売りたい腕に覚えのある騎士が一騎打ちを申し込むことはよくあるらしい。

 一騎打ちは死ぬまでやることは稀らしいが、こちらには受ける気概と実力のある人はルフィーナパパくらいではないか?ちなみに不戦敗もありだが、士気が著しく落ちるので、特に守備側は受けて立つ必要があるらしい。

 そうこうしている内に、帝国側の騎士が声が届く程度までやってきた。金色の長髪でかなり大柄である。

「俺は、ダミアーニ帝国皇太子、シンヤータダ。クレスターニ王国の騎士が臆病者でなければ、俺と戦え!万一俺に勝てれば軍を引くと約束しよう!」

 あの男は強い!…かどうか分からない。けど前にでてくるということは自信があるのだろう。皇太子とか言ってるし、弱ければ周りが止めるはずだ。

「申しあげます。ピッコローミニ子爵負傷とのことです。」

 先程出した伝令が戻ってきたようだ。頼りのルフィーナパパは頼りにならないようだ。運悪くルーチェたちが迎撃し損ねた魔法が何発かあったようだ。

「あたしが行く。親衛隊隊旗を掲げた以上不戦敗は許されない。帝国には皇女しかいなかったはずだ。シンヤータダと言う名は聞いたことがない。」

 真っ青な顔をしてジーナが告げ、……るが、そこで倒れこんでしまった…。

 極度の緊張によるものだろう。カブリーニ伯爵は未だに微動だにしない…この人大丈夫かな?


 ということで、…どういうわけか分からないが僕は城門からでて、帝国騎士と対峙していた。

「どうした、名乗りを上げないのか!」

 騎士が叫ぶが、鎧のサイズが合ってないので、兜の口のところから前が辛うじて見えるだけで、大声で喋ると鎧の中に籠ってしまうので、ボソボソと喋ることしかできない。

 僕は、手に持った親衛隊隊旗を振って、誤魔化すことにした。

「まあよい、隊旗を持ってくるからには、その隊を代表し、王国を代表して俺と戦う意思があると認めよう。

 が、しかーし、お前!馬はどうしたのだ!なぜ騎士が馬に乗ってこない!なめてんのか!」

 そう言われても、僕は馬に乗れないのだ!誤魔化すために手に持った親衛隊隊旗をブンブン振る。

 騎士は無言で頭を振り、200mほど後退して、街に聞こえるような大声で宣言した。

「俺は、ダミアーニ帝国皇太子、シンヤータダ。クレスターニ王国民よ俺の圧倒的な力を見よ、そして俺に跪き、ひれ伏すが良い!…いくぞ!」


 僕は騎士の掛け声と共に、騎士に向かって旗を掲げたまま走りだした。鎧がガチャガチャと煩い。周りの音が聞こえない。兜がずれた…前が見えない、でも止まったら負けな気がする…

 僕は走り続けた、何か旗が重くなった気がしなくはない。疲れてるのか?でも息は上がらない?いつまで走る?…どうしよう?どうなった?

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