第30話 開戦前です

 ここはランディーニ子爵領の領都ランディーニ近隣の村、僕たちはここで隊列を整え明日ランディーニに入場することとなっている。

「それで、詳しい状況を教えてもらおうか?」

 騎士団の代表者はジーナ、本来はここにルーチェが居るべきだが、ここまでの強行軍で疲れてまだお休み中だ。

 冒険者ギルドでジーナの歓送会をした翌朝、僕はたたき起こされ訳が分からないまま、馬に乗せられ多くの騎士と共に街を出た。

 ここまで、碌な説明をしてもらえていないが、対帝国で王国がぼろ負けして、ルーチェの義父の守る街に帝国軍が迫っており、ジーナを指揮官として騎士が向かっているのだということだけは分かった。

「ランディーニの街が、現在カブリーニ伯爵が指揮を執っておられます。戦力としては騎士50、伯爵軍、子爵軍合わせて従士相当以上が3000となります。これには本日到着予定のピッコローミニ子爵軍も含まれた数字になります。ジーナ殿の親衛隊38を加えれば、騎士88となります。帝国軍との接触は3日後と予測されます。」

「帝国の戦力は?」

「国境を越えたときには、騎士500、従士相当4000、その他10000です。」

「この街に向かっているのは?」

「偵察がほぼ戻ってこないので、確かではありませんが、ほぼ同数と思われます。」

「どういうことだ!デル・マストロ伯の元には騎士300がいたはずではないか!」

「ええ普通に考えて守備側が簡単に負ける戦力比ではありませんし、だからこそデル・マストロ伯も単独で迎え撃ったものと思われます。」

「デル・マストロ伯の戦いの様子は分かっているのか?」

「いえ、残念ながら騎士以上の者は全て全員消息不明なため、詳しいことは何も…、ですが街より脱出した商人、冒険者の証言によると、凄い音がして街が揺れたそうです。…あと気になるのは商人によるとその日のうちにクレメンテ=デル・マストロの名で帝国に降伏した旨の宣言がなされたそうです。」

「凄い音?それは1回だけだったのか?」

「はい、すぐ近くに大きな壺が落ちてきて割れたような音と言うものや雷が落ちた音だという者もおりましたが、1回だったと言っております。」

「クレメンテ殿の名で宣言が出されたと言うのは確かなのか?」

「これは商人1人の証言だけなので、なんとも…、彼らはその降伏宣言を聞くと仲間何人かと、冒険者を護衛に街を脱出したらしいのですが、彼らより後に街を出た者は確認されておりません。コルネリオ卿が街にいらっしゃったのは確かなので、なぜご子息のクレメンテ殿の名が使われたのかは不明です。」

「カブリーニ伯爵様はどうお考えなのか?」

「残念ながら何とも……、我が主のランディーニ子爵はコルネリオ卿はご子息のクレメンテ殿に討たれたのでは、と疑っておいでのようです。」

「……それは最悪だな。」

「ええ、その時にはデル・マストロ軍の騎士300も敵かもしれません。」

「他には?」

「マシな推測としては、帝国の新兵器または聞いたことのないような大魔法、魔法使いの大部隊により、デル・マストロ軍は短時間で無力化されコルネリオ卿は討ち死になされ、後方に待機されていたクレメンテ殿が降伏なされたのではないかと。」

「全然マシじゃないよね。」

「王国騎士同士で戦うことにならないだけマシです。」

「ここは退いて、王都で決戦ということは?」

「それは明日、直接カブリーニ伯爵様にご進言頂ければと。」


「はぁ~、彼らはここで死ぬ気だよ。あたしたちも逃げれそうにないよ。変なことに巻き込んで済まなかったね、ユーリは貴族でも騎士でもないから、ここでお別れだよ。」

「……」

 僕はジーナを立ち上がらせ、そっと抱きしめた。僕の方が背が低いので何ともしまらない……。

「……」

 ジーナは声を押し殺して泣いていた。

 まだ20才前の女の子には辛い世界だよね。僕も大して違わないけど……。


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 次の日、ジーナ達は馬首を並べ堂々と領都ランディーニに入場した。遅れていた者も何人か到着し、46人となった。親衛隊の隊旗が掲げられ、ミスリルの鎧がキラキラと輝き、街からは大歓声で迎えられた。ルーチェとルフィーナはドレス姿で子爵家の旗に飾られた馬に乗り観衆に手を振っていた。

 僕は馬に乗れないため、一足先に荷馬車で街に入って皆の行進を見物することとなった。ルーチェとルフィーナはダンジョンに入らない日には貴族の嗜みとして乗馬その他の習い事を熟していたらしい。僕は休みなくダンジョンに潜っていたから知らなかった……僕は毎日毎日魔物を倒してレベルが上がらないのに、2人はレベルも上がり貴族としても成長して、世の中は理不尽だ!

 とはいえ、ここまでの道中ルーチェやルフィーナの後ろに乗せてきてもらったので、頭が上がらない。馬車もない強行軍で馬の負担を考えると、全身鎧もなく、小柄な2人に乗せてもらうしかなかったのだ!決していい匂いがするとか柔らかいとかいう理由ではない!


「君が、ユーリ殿だね。初めましてだな、儂がライモンド=ピッコローミニ、ピッコローミニ子爵だ。ルフィーナが世話になっておる。」

 ルフィーナパパだ!そういえばこの街にいるんだった!こういう時にはどういえば??「娘さんを僕に下さい」??

 よく考えれば、こんな危険な街にルフィーナを連れてきて良かったのだろうか?昨日の村に待機しておいてもらうこともできただろうし、僕はジーナから選択肢を与えられたのに、僕は2人と何の相談もせずにここまで連れてきてしまった。”世話になっている”とはそういうことか!ルフィーナパパの殺気が半端ない!

「御義父様、お久しぶりですわ。ユーリさまがお困りですわ。」

「なんじゃ、名を名乗っただけであろう。」

「御義父様のお顔は、ちょっと怖いのですわ。」

「わはは、ルフィーナは相変わらずだのう。」

 ルフィーナパパはルフィーナを持ちあげてクルクル回る。ルフィーナはキャッキャと声を上げて喜ぶ。

「どーれ、ちょっとは重くなったかのう。もう世継ぎは腹の中におるのか?」

「御義父様!親子の間でも体重の話はレディに失礼ですわよ!」

「おう、悪かった、悪かった。ルーチェも元気であったか?」

「はい、ピッコローミニ卿もお変わりなく…です。」

「ルーチェも御義父様と呼んでくれてよいのだぞ、ランディーニの奴らに酷いことはされていないか?」

「ん、ランディーニ家の人は一緒にいない。ジーナさまやユーリさま、ルフィーナ、それからクラウディアさまにラウレッタさまとの生活は楽しい…です。」

「そうか、そうか、よかったのう。」

 ルフィーナパパはまだ中年ぐらいなのに、会話はおじいちゃんと孫のようだ。ルーチェもルフィーナもルフィーナパパに見いだされて、しばらく面倒を見てもらっていたが、貴族の事情で養女となる際にルーチェはランディーニ家の籍に入ることになったらしい。

 ルフィーナパパが真面目な顔になって僕の方に向き直った。

「2人に会えて良かった。ユーリ殿、帝国軍が2、3日後にはこの街にやってくるであろう。教会が救護所になっておる、3人は教会のほうに」

「ルフィーナは御義父様やジーナさまと一緒に戦いますですわ!もちろんユーリさまも一緒ですわ!」

「わたしも、魔法…です。」

「ははははは、2人の気持ちは嬉しいぞ。しかし、今伯爵やランディーニとジーナ殿が話をしているだろうが、あまり良い話でできておらぬであろう。」

「失礼ですが、ピッコローミニは逃げないのですか?」

 ルフィーナパパはびっくりしたように僕の顔を見た。

「戦うのは貴族の責務だからな。2人を貴族にしたことは後悔しておる…。」

 逃げるという発想もなかったようだ…

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