第29話 大変です!?
「むー」
ジーナは不機嫌だ。
「なんなの!これだけ時間をかけて”不思議な力が感じられる杖”って!」
僕たちの前には、45階層で見つけた杖が置かれている。物品の鑑定ができるという商人に預けていたのだが、その結果はなんとも言えないものだった。
「まあ、単なる木の杖じゃなさそうということが分かっただけでも…」
「そうそう、きっと王都なら誰か分かる人がいるはずですな。」
「はあー、折角みんなに良い置き土産ができると思ったのに!」
「そんなもの無くても、みんなジーナさんには感謝しておりますな。なんとか冒険者ギルドが運営できているのもそうだし、特に荷運び人の育成については今後も引き続けさせてもらおうと思っているのですな。」
ジーナは1週間後に王都に向け出発することになっている。サブマスの仕事も今日で終わりの予定だ。先ほどまで、冒険者がギルド内の酒場で騒いでいてジーナも大分飲まされたようだ。みんなジーナのことを慕っていたように見えた。
「ふー、あたしは大したことはしてないから。現場はスパーノとナタリアに任せればなんとかなるだろうし、ユーリも当面は残るって言ってるからあたしはお役御免ってことで。…ムニャ」
かなり酔いが回っているようだ。
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同時刻
「出発は決まったのかい?」
「ああ、1ケ月後に出発することにしたよ。1週間後にはジーナと先遣隊を出発させる。2週間後には、後任がやってくるから、引継ぎをしてからオサラバさね。」
「エッダがいなくなると寂しくなるね。」
「そういうことは奥様かお嬢様に言ってあげるんだね。」
「二人はどこにも行かないもの。」
「お嬢様が嫁に行くときに泣かなきゃいいだけどね。」
「せっかくエッダのお陰て、この街も持ち直したんだ。その日まで家族水入らずで幸せに暮らす……なんだ、騒がしいな。」
「代官様、デルミーニオ卿、お取込み中失礼します!」
「なんだ、誰も入るなと言っておいただろう。」
「申し訳ありません。只今早馬が着きました!」
「なんだ?どこからだ?」
「帝国がデル・マストロ伯領を占領したそうです!カブリーニ伯爵がランディーニ子爵領に防衛のために向かわれるとのことです!」
「何!?真か!もっと詳しい情報が要る、こちらからも早馬と…偵察をだせ、今すぐだ!」
「はっ。」
「わたしも、すぐに騎士団宿舎に向う。明日朝には出発することになると思う。ランディーニ子爵領にはジーナを送る。わたしは一度王都に行ってから前線に行くことになるだろう。では先輩、達者でな。」
エッダも言いたいことだけいうと返事を待たずに部屋を後にした。
「どうして……」
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次の日の朝
「陛下、教国の大聖堂建設の要求ですが、いよいよ抑えきれなくなりました。」
「帝国との戦が正念場というときに教国は何を考えておるのだ!」
「帝国の進攻は何故かここ数ケ月は大人しいものでありますし、魔国との戦いは優勢なのだから、大聖堂建設の余力はあるだろう。いや余力など無くとも大聖堂建設は最優先で行うべきだ、と教国の使節殿の言い様で御座います。」
「なんとかならんのか、外務卿!それから宰相も何か無いのか!」
「恐れながら陛下、此度はクラウディア姫殿下の下の兵力膨張が目立ち過ぎております。最近の帝国の動向から我が王国と帝国の密約を疑っている節も見られます。」
「大聖堂を作れば、大司教が任命され、王と言えど大司教には逆らえなくなる。卿らは我が王国に教国の属国になれと申しておるのか!」
「いえ、そんなことは考えてもおりません。しかしここは教国の疑念を晴らすためにもクラウディア姫殿下の立場について何か考えて頂くべきかと。」
「エウスターキオの騎士は1/3を引き上げることにしたではないか。親衛隊長の指揮権も取り上げた。クラウディアの存在は対魔国の要だ。今どうこうすることは出来ん。」
「しかし、教国は大聖堂建設が進まないのであれば、友好関係の見直しも止む無しとまで。」
「経済援助を打ち切るということか…」
「陛下、帝国と睨み合いながら国力を回復する策は破綻しました。ここはやはり、教国の全面的助力を願い帝国に決戦を挑むべきかと。我が国の兵力は今が一番充実しております。」
「軍務卿の意見は?」
「はっ、王命とあれば、我が軍の騎士達は身命を賭して目的を達成する所存であります!」
「意気込みは良い。本当のところの見込みはどうなのだ?」
「いやー、無理ですね。教国は実戦を知りません。直接戦力としては役に立たないでしょう。緒戦はなんとか勝てるかもしれませんが、帝都まで勝ち続けられるとは思えません。まあ、間違って皇帝一家が揃って前線にでてきて、みんな流れ弾で死ぬとかすれば、帝国が勝手に崩壊するかもしれませんがね。」
「軍務卿は教国の実力を過少評価しておるのではないか!」
「宰相こそ、そもそも教国の全面的助力なんてどの程度の期待が持てるのですか!」
「ルクレツィア様からは色よい返事を頂いておる!」
「ルクレツィア様の旦那様は司教じゃないですか!ルクレツィア様が王位に着けば、我が王国は王配となった司教、いやその時には大司教になっているでしょう、に統治を委ねることになりますぞ!」
「一時的に教国に膝を屈そうとも、今は帝国からの侵略を防ぐことが肝要だとなぜわからんのか!」
「「陛下、ご決断を!」」
「…」
『決断と言われても、選択肢が何もないではないか!』
居並ぶ大臣たちが儂の顔をじっと見ている、いや睨んでおる…
バンッと大きな音を立てドアが開かれた。
「軍務卿!大変です!」
「何事だ!衛兵!何をしておるこいつをつまみ出せ!」
「デル・マストロ伯様、討ち死に!現在、前線とは連絡取れません!」
「…もう一度、言ってみろ…」
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