第28話 お宝?かも

「ガルルーー」

「キャイン、キャイン」

 フレイムファングの死体は消え、赤い魔石が残った。

「おっ、火の魔石ですね。」

「流石にミスリルクリスタルの宝玉は簡単にはでないかぁ。」


 45階層までは、僕とナタリアさんが先頭で、魔物の排除と罠の解除を行ってきたが、45階層最初の小部屋で小休止を取ったあとは、ルーチエローエのメンバーが先頭に立ち、僕が後ろから道を支持する形になった。

 万一、僕らが倒した魔物がミスリルクリスタルの宝玉をドロップしてしまうとややこしいことになってしまうためだ。ちなみに45階層は昨日マッピングのために回っておいたので、道案内は僕が行っている。被召喚者特典か、僕の頭の中にはオートマッピング機能が備わっているらしい、便利だが残念ながら罠の位置はわからない。飽く迄も道順だけだ。

 ルーチエローエも王国屈指のパーティと言われるだけあって、魔物を危なげなく倒していく。

 この階層は、ブラッドファングのコピーのようなオオカミ型の魔物だが、ウィンドファングは風の魔法、フレイムファングは火の魔法、バレットファングは土の魔法を使ってくる。群れで来られると手強い相手だ。ブラッドファングとは腹の毛の色が違うだけなので、かなり近くまで寄らないと見分けがつかないのもいやらしい敵だ。


「あっ、ディーノさん、そこを左に行くと、そこを左に行くと広間になってます。」

 僕は先頭を行くディーノさんに注意を促した。ミスリルクリスタルの宝玉はその広間に繋がる通路で見つかったということだから、この通路か広間の向こう側の通路かどちらかだと思われる。

「っつ。」

 隣でナタリアが息を飲む。きっと広間でルナエソーレが壊滅したことが頭をよぎっているに違いない。

「群れがいますね。どうしますか?」

 ……違った。ナタリア気配察知というか、魔物がいるかどうかが分かるようだ。

「リーダー、かなり多いですよ。」

 ルーチエローエで先頭を行く一人が続いた。流石一流パーティの斥候役には必須の技能だったようだ。

「このまま進む。この階層を中心に探索するなら、数は減らしておかなければいけないしな。全力で行くぞ。」

 ルナエソーレのメンバーの移動速度が上がった。


「アタック!」

 ディーノさんの掛け声と共に、ルナエソーレのメンバー7人が魔物の群れに突っ込んだ。

 相手は100匹程のオオカミ型の魔物だ。何ファングなのかは分からない。

 僕らは戦闘に参加していない。緊急時以外は手出し無用と言われている。

「キャイン、キャイン。」

 ディーノさんたちが、一番近い魔物に切りつけた。致命的なダメージを与えたようだが、広間内の魔物の注目が一斉にディーノさんたちに集まった。

「「「ファイヤーショット!」」」

 飛び出さずに控えていた残りメンバー3人の持つ短剣から発せられた魔法がディーノさんたちに飛び掛かろうとした魔物に当たり、魔物が火に包まれる。

「マジックショットナイフ!」

 ジーナの持つマジックショットナイフに比べればかなり頼りないファイヤーボールで、魔法が直撃した魔物も一撃では倒すことができていないが、3人の魔法攻撃は壮観だ。

 魔物側からも火・風・土と魔法が乱れ飛び、魔法の打ち合いで前線は陣形・連携が取れず乱戦となった。

 1対1ならルーチエローエのメンバーはこの階層の魔物には後れを取ることはなく、次々と切り伏せていき、……1時間程で100匹程の魔物は全滅した。

『1時間も全力で動き回れるってすごいな……マラソンというか競歩6時間は息も絶え絶えだったのに。』

 今はメンバーは散らばって魔石を回収している。

「流石は王国屈指の冒険者パーティだね。彼らの武器はジーナのマジックショットナイフより良いものじゃない?」

「むー。」

 隣でジーナは不機嫌そうだ。最近はエッダさんの代理とかサブマスとか感情を押し殺した表情をしていることが多いが、ダンジョンの中では時折年齢相応の様子を見せてくれることもある。

「それとも彼らは魔法使いなのかな~?あれだけ撃って弾切れにならないって凄いよね。」

「ユーリは何も知らないのね。あれは多分魔石を魔力源とするタイプなのよ。」

「魔石を?そんなものもあるんだ?」

「まあ、どちらかというと魔石タイプの方が人気なのは確かよ。」

 ジーナはちょっとご機嫌斜めだ。

「???」

「まあ、魔石タイプなら魔石を沢山持っていればいいけど、あたしのはルーチェが居るから今はいいけど、ね。」

「そうかぁ、ルーチェには感謝だね、魔石タイプは1発の威力だと大したことないみたいだし。」

「そ、そうよね!ルーチェのレベルのお陰だとは思うけど、あたしのファイヤーボールは凄いのよ!」

 ジーナの機嫌は直ったようだ。まだ手に入れてそれほど経っていない気もするがよっぽどマジックショットナイフがお気に入りのようだ。


「ワオオオ~ン」

 オオカミの遠吠えのような鳴き声が聞こえたかと思うと、一番遠くで魔石を回収していた冒険者の近くで爆発が起こり…冒険者が吹っ飛んだ!

「上だ!」

 誰かが叫び、上を見上げると岩棚のようになったところに、これまで倒した物より一回り大きいフレイムファングがいた……と思うと、爆発して……後には何も残っていなかった……いや、探せば魔石があるはずだ、それと今までは無かった穴がフレイムファングがいた後ろに…あった。


「いやー、ジーナ嬢のマジックショットナイフは逸品ですね。我らのものとは威力も射程も段違いだ。」

 ジーナは自分のお気に入り武器を褒められ、表情を取り繕おうとしているが、喜んでいるのがまるわかりだ。結構チョロい。

 咄嗟にジーナが手を出してしまったので、最悪契約違反を問われるかと覚悟したのだが、ディーノさんからは、「仲間を助けてくれてありがとう」と言われた。言動もイケメン。

「不躾だが、その炎の魔石を譲って貰えないだろうか?当然相場の対価は支払わせてもらう。」

 あの大きいフレイムファングは綺麗な火の魔石をドロップしたのだが、炎の魔石という火の魔石の上位版らしい。彼らのマジックショットナイフは火の魔石を使っているらしいが、炎の魔石を使えば、威力・射程をパワーアップできるらしい。

『さっきの戦闘で火の魔石10個以上使っているから、火の魔石が風の魔石と同じくらいの価値だとしたら、500万ベル以上を惜しげもなく使ったってことだよなぁ。イケメンで金持ち…』

「炎の魔石はルーチエローエ、この杖はあたしたち、ってことでどう?」

 ジーナの手には杖が握られている。魔女のお婆さんがもつような杖だ。野草のゼンマイの形を全長1mくらいにしたもので、指揮棒みたいな小さいものではない。ジーナが開けた穴の奥に宝箱があり、その中に入っていたものだ。宝箱自体は開けると同時に消えてしまった。50cmくらいしかない宝箱の中に1mの杖が入っていたのもダンジョン摩訶不思議なことだ。

「我らは、もちろん問題ないが…」

「はい、じゃあ決まりね。案内も済んだし、あたしたちは怪我人を連れて引き上げるわね。」

「あ、ああ、よろしくお願いする。」

 まだ、何か言いたそうなディーノさんを置いて、大きいフレイムファングの魔法で負傷した1人を連れて、僕たちは上層に戻ることにした。

 負傷した人も自力で歩ける程度で大男を背負う羽目にならなくて良かった。

「あたしの勘だけど、これはきっといいもの…よ。」

 ジーナが僕の耳元で囁いた。

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