第27話 新しい冒険者がやってきました

「いやあ、君たちすごいね~。」

 目の前にはイケメンが1人、ここは”古のダンジョン”45階層。小部屋で小休止をしているところだ。

 イケメンは冒険者パーティ、ルーチエローエのリーダーであるディーノ。ここにいるルーチエローエのメンバーは彼を含めて10人、全員長身イケメンだ。他のメンバーはジーナとナタリア。イケメンたちの目はなぜか虚ろに見える。


 なぜ、こんなメンバーでダンジョンに潜っているのかというと、話は昨日リザンドロさんに冒険者ギルドに呼び出されたところまで遡る。

「ユーリ殿、ルフィーナ殿、こちらはルーチエローエのディーノだ。しばらくこの街で活動するそうだ。」

「おお、あなたが聖女様ですね。なんと可愛らしい方でしょう。お会いできて光栄です。ルーチエローエのディーノと申します。以後お見知りおきを。」

 ルフィーナはダンジョン探索スタイルではなく、華美ではないが貴族令嬢の普段着に相応しいドレス姿をしている。お世辞抜きに可愛い。

「ルフィーナはルフィーナですわ~。」

 イケメンを目の前にしてもルフィーナは平常運転のようだ。なんとなくほっとする。

「ルーチエローエは王国でも屈指の冒険者パーティだ。”古のダンジョン”の45階層付近での探索をするそうだ。」

「えーと、45階層というと…」

「そうだ、我々ルーチエローエはミスリルクリスタルの宝玉を探しにやってきた。」

 ルナエソーレが壊滅したときに、下層を探索していた他2組のパーティはいずれも50階層に到達できなかった。1組は47階層で物資が尽き満身創痍で帰還した。魔物の群れが想定以上に多かったそうだ。もう1組の探索も遅々として進まなかったが、45階層でウィンドファングらしき魔物からミスリルクリスタルの宝玉がドロップし、それを持って帰還してきた。

 ミスリルクリスタルの宝玉は野球のボール大の水晶のような珠で光の当たり具合によってミスリルの金属のような輝きを放つ人気の宝石だ。相場は1億ベルくらいらしいが、王都でオークションにかけたところ10億ベルで売れたらしい。その冒険者たちは王都で豪遊しているのか戻って来ないが、この街はその話で持ち切りである。

「めったに見つからないから価値があるんですよね。」

「我々も正直見つかるとは思っていない。ただ我々のパトロン様が探してこいとおっしゃるのだよ。」

「パトロン?」

「そう我らの敬愛すべき伯爵様は、オークションで競り負けてしまったのだよ。しかしその輝きが忘れられない伯爵様は我らに探してこいとお命じになったのだよ。」

「大変ですね。」

「伯爵様からは、見つかるまで戻ってくるなと言われているので、半年ほどはお世話になろうと考えている。」

「…大変ですね。」

「ルーチエローエは”古のダンジョン”は初めてなので案内と補給を頼みたいと言っている。」

 エウスターキオの冒険者ギルドとしても、ルナエソーレは壊滅、王都に行ったパーティは戻ってこない、残る1パーティも先の探索のダメージが大きく現在は42階層で風の魔石探しが精一杯という状況で、40階層以降で活動するパーティが増えるのは大歓迎というところなのだろう。

「補給ですか。」

「我らは40階層にキャンプを設けて拠点とするつもりだ。30階層から40階層までの補給の協力をお願いしている。」

「案内はナタリアがするわ。ユーリに頼みたいのは、45階層までのナタリアの護衛。それとできるだけルフィーナには30階層で待機しておいて欲しいの。」

 横を見たがルフィーナは興味が無さそうに、おすまし顔で座っている。

「ジーナは?」

「あたしも、一緒にナタリアの護衛をするつもりよ。」

「噂のお嬢様サブマスとご一緒させて頂けるとは光栄の至りです。ジーナ嬢とナタリア嬢は我がルーチエローエが責任をもっておまもり致します。」

 噂のお嬢様サブマスはラウレッタ様のことだ。姫様、貴族との繋がりを示すためのサブマスでギルド建物にはほぼやってこない。ちなみにジーナは鬼のサブマスとか真のギルマスとか陰マスとか呼ばれている。

 ナタリアさんは縋るような目でこちらを見ている。あれから40階層までは何度か一緒に行ったが、流石にパーティが酷い目にあった42階層以降に行くのは不安が大きいのだろう。

「わかったよ。ルフィーナもそれでよい?」

「ルフィーナはユーリさまについていくのですわ。」

「よかったわ。じゃあ出発は明後日の朝ということでよろしくね。」

 予定通りに話を進められたジーナが笑顔で話し合いの終了を宣言する。

 リザンドロさんの立つ瀬がないのでは?


 で、2日後、”古のダンジョン”のルーチエローエの探索が開始されたのだが、…

「すまない、ここで大休止とさせてもらえないだろうか、我らの荷運び人が限界のようだ。」

 ここは30階層、今朝僕たちはルーチエローエ10人とルーチエローエ専属という荷運び人10人、ジーナ、ナタリア、ルフィーナ、それに加えジーナが連れてきた荷運び人10人で出発し、約3時間で30階層に到達した。ルーチエローエ専属荷運び人は30階層で物資購入予定ということで荷物は少なかった。それでも荷運び人には厳しかったようだ。

「仕方ないねぇ。

 おい、お前ら!40階層までそのまま行くぞ!行けるな!」

「「「イエス、マム!!」」」

 ジーナが連れてきた荷運び人は多少ふらふらしていたが、ジーナの言葉で直立不動になり、声を揃えて返事をした。地上から大荷物を背負ってきていたが、ここでルーチエローエに売りつける予定だったものらしい。

「ディーノ殿、荷はこちらの者達に運ばせます。出発しましょう。」

「あっ、…ああ。よろしくお願いする。」

「いってらっしゃいですわ~。」

 僕の背中から降りたルフィーナに見送られながら、僕たちは40階層に向かった。


 ここは40階層、ジーナの前にむさ苦しい大男10人が整列し、何故かみんな泣いている。

「お前たち、良く付いてきた。誰がなんと言おうとあたしがお前たちは一人前だと認めよう!」

「「「イエス、マム!!」」」 & 号泣

 ナタリアは苦笑いだ。なんでもこの人達は10階層までの荷運び人からジーナが見込みありそうな者を見つけて、レベリングして鍛えたジーナ学校の一期生らしい。

 荷運び人の人材不足が問題だとは思っていたが、ジーナはちゃんとサブマスとして対策を行っていたらしい。しかも一期生ということはきっと二期生もいるわけで…

「ジーナさん、あんな可愛い顔しているのに…まさか鬼のサブマスって…」

 ディーノは肩で息をしながら、何かぶつぶつ言っている。

「ディーノ殿、では出発しましょう。予定よりちょっと遅れてしまっていますので。」

 笑顔でジーナが話かけた。

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。朝から6時間以上走り通しですし、こちらの予定よりかなり早いので、ここはここでゆっくり仮眠を取って万全の状態で出発すべきかと。」

「あら、あたしは日帰りでよければご案内します、と申し上げたはずですが。」

「そ、そ、それは冗談だと思うでしょう、思いますよねぇ。40階層まで24時間以内に到達するなんて、考えたこともなかったです!」

 ジーナがゆっくりと辺りを見回すと、荷運び人たちが忙しくキャンプの設営を行っている横でルーチエローエのメンバーは皆座り込んでしまっていた。

「仕方ないわね。じゃあ2時間後に出発ね。」

 ディーノはがっくりと項垂れた。…いや頷いた?

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