第26話 身の振り方を考えなければならなくなりました

 現在、各人のレベルは姫様48、ジーナ48、ルーチェ45、ルフィーナ9、僕30だ。

 休みなくダンジョンに潜っているし魔法の訓練も欠かしていないのに、僕はレベルが上がらないし、魔法を覚えることもできていない。被召喚者はレベルが上がらない呪いでもかかっている説が有力になってきた。


「エッダさん、なんかお久しぶりですね。」

「誰かさんのお陰で、寝る暇もダンジョンで鍛錬する暇もないからね。」

 冒険者ギルドの件ではエッダさんもかなり苦労したようだ。ただでさえ肥大したこの街の騎士団に加え、騎士見習い程度の力量のある冒険者200人以上を指揮下に置いたことになる。これに対魔国のガンディーニ要塞からの引き上げ戦力を合わせれば、即応戦力だけ考えればエッダ指揮下の戦力は王都駐在の戦力を上回り、王国内でも、対帝国戦総司令官のデル・マストロ伯爵に迫るものとなった。

「僕はダンジョンで一生懸命鍛錬しているのに、一向にレベルアップしません。」

「……まあそれは置いておいて、」

「エッダさん、僕の扱いがどんどん雑になってません?」

「……ユーリ殿は、一人でもできる子だと分かったからね。」

「まあ、いいです。それで本題は何ですか?」

「ああ、鈍感なユーリ殿でも感じていると思うが、わたしはそろそろ王都に戻ろうと思っている。ユーリ殿のお陰でガンディーニ要塞からかなりの戦力を引き抜くことができた。これを王都で再編し、対帝国戦線に送り込むのがわたしの仕事だ。」

 エッダさんは戦力を手放すことで、貴族連中からの妬みや疑いを払拭したいとお考えのようだ。

「いつ頃ですか?」

「1~2ケ月以内だね。そこでユーリ殿の身の振り方だが、ユーリ殿自身の考えを聞いておきたいと思ってね、

 まず、勇者として対魔国、対帝国戦線に赴くことが考えられる。レベルは上がっていないが話を聞く限りユーリ殿は勇者を名乗っても、直接的な暴力からは身を守ることが可能だろう。ただ、対魔国は守勢に徹する予定で勇者の出番はないだろうし、対帝国ではどういう立場になるかは不明だ。デル・マストロ伯にもまだ勇者のことをお伝えしていない。」

「勇者として名乗りを上げるメリットがなさそうですね。」

「次に、この街に残る選択肢がある。この場合勇者であることが公になると貴族たちから前線に立つなりの責任を果たすように要求が上がるので、勇者であることは伏せたままになる。」

「今のままってことですね。」

「最後に、王都に戻って、陛下の相談役になる、というかなって欲しいとの陛下からの要望が届いている。」

「窮屈そうですね。ちなみに、勇者であることは隠したまま世の中を見て回る旅に出る、とか、田舎に引っ込んでスローライフを送る、っていうのはダメですか?」

 エッダさんに胡散臭いものを見るような目で見られた。

「ダメに決まっているだろう。」

『そうですよね~』

「一番無難なのは、今のままこの街に居るってことですよね。」

「まあ、まだ時間はあるからゆっくり考えるといい。」

 エッダさんはそこで一度言葉を切って、こちらを一度じっと見て続けた。

「クラウディア姫様はこの街に残っていただく。幾ら城壁と装備が立派になったからといって兵数が減ったうえ、姫様も引き上げるとなれば、士気が維持できない。ジーナは王都に連れて帰る。わたしの身内が残っていればわたしがわざわざ引き上げる意味がなくなる。……問題なのはルフィーナ嬢だ。」

「ルフィーナですか??」

『思ってもみなかった名前がでた?』

「ルフィーナ嬢の回復魔法で命を救われたというこの街の冒険者が多く居る。一部の者たちはルフィーナ嬢のことを聖女様と崇めているとも聞くね。」

「それは大げさでは?」

『ルフィーナの回復魔法は部位欠損も直せないし、体力も戻らないし、痛みもすぐに引くわけではない。出血を止め、外傷が塞がる…あと毒とか麻痺は消せる、くらいでゲームやラノベのチート魔法に比べれば全然聖女という感じではない。』

「この辺りには回復魔法の使い手はいないから、初めて見た魔法の効果を過大に受け止めている者も多いだろうね。うわさが伝わるときに尾ひれもつくだろうし、そもそも出だしが冒険者の酒場や娼館での話となれば、最初から盛り盛りかもしれないね。」

「もう人前で使わせないほうがいいでしょうか?」

「もう手遅れだね。既にこの街の騎士団やガンディーニからは問い合わせがわたしのところに来ている。いづれ、王都の誰かかデル・マストロ伯あたりから招請が来るかもしれないね。」

「ルフィーナを守るためには王都に連れていけってことですか。」

「察しがよくて助かるよ。」

「確認ですが、ルフィーナだけが王都に行っても陛下に保護してもらえないってことですよね。」

「そりゃ、そうさ。子爵令嬢を特別扱いする理由がないだろう。勇者の奥方となれば別だがね。」

『ですよね~。』

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