第23話 新冒険者ギルドマスター

「坊や、よくきたねぇ。いやギルドの恩人に坊やは失礼だね。改めてお礼を言うよ、助かったよユーリ殿。」

 僕は今後のことを話し合う(姫様にはギルドへの処罰を言い渡せと言われている)ために冒険者ギルドにやってきている。

 いつも頼りになるジーナは騎士団の人間ということでこの場にはいない。この場に居るのは僕の他には、ギルマスの?ジャンナさん、リザンドロさん、そして知らない老婦人が1人。

「えーと、ジャンナさんは冒険者ギルドの代表ということでよろしいのでしょうか?あとそちらの…」

「失礼致しましたわ。名乗りが遅れましたわ。わたしはイレーニア、この街の商業ギルトを取り仕切らせて頂いておりますわ。」

「えーと、そのイレーニアさんが何故こちらに??」

「この期に及んでもダンマリを決め込んでいるジェラルド=デルミーニオに成り代わり、この街の行く末をお聞きするためですわ。」

「ちょっと待ちな。ユーリ殿は冒険者ギルドとカルバン商会の処分を言い渡しに来たんだろう。イレーニアを呼ばなかったところからすると、商業ギルドはお咎めなしか罰金ってところかねぇ。

 処分を宣告される前に冒険者ギルドから提案があるんだが聞いてもらえないかね?」

「???」

「今回、冒険者ギルドはやらかしちまったが、代官にも騎士隊にも迷惑はかけちゃいねえ。ユーリ殿とルフィーナ殿のお陰でダンジョンの運営も当初の計画通りに進める目途がついた。カルバン商会には迷惑をかけちまったから、その責任は取らなきゃいけない。ガイオとニコロはギルドから追放する。姫様に無礼を働いた落とし前はこの首一つで勘弁してもらえないだろうか。ユーリ殿には新しいギルマスをお願いしたい。」

「…えーと、沢山言われて考えが追い付かないのですが、まず、ガイオさんとニコロさんって誰?」

「そこからかい!」

「婿殿、ガイオ殿は冒険者ギルドのギルドマスターで、ニコロ殿はサブギルドマスターですな。」

「婿殿?」

「そこは気にしないで下さい。」

「気になるじゃないか。」

「黙秘します。」

「まあ、大体のことは聞いているからいいとして、」

『知ってるんかい!なら聞くな!』

「ガイオはちょっとばかし腕は立つが、おつむのほうはちょっと残念でねぇ。周りから煽てられて、今回の計画を推し進めたのはいいが、引き際を間違っちまった。ニコロは、まあサブマスを引き受けちまったのが運が悪かったと思うしかないかねぇ。」

「ギルドにはマスターとサブマスターに何かあったときの権限についての決まりは無かったのですか?」

「もちろんあったさ。冒険者は力が物を言う世界さね。上級職員は冒険者を引退したものか現役と職員を掛け持ちしている者がなるのさ。今回、ガイオが根こそぎ上級職員を現場に連れて行って、軒並み使い物にならなくしちまったってことさ。」

「それで、ジャンナさんは上級職員が誰も居なくなったギルドの運営を僕に押し付けようとしている、ということですか。」

「おや、これは一本取られたね。ユーリ殿達のお陰て傷が治った奴らが何人かは復帰するさね。あと、ユーリ殿には冒険者連中が納得できるような実力を見せてもらったからね。」

「僕には荷が重すぎますね。イレーニアさんは如何です?」

「え、わたし。」

「そう、イレーニアさんが冒険者ギルド長も兼任するというのは如何ですか?」

 急に話を振ったというのに、イレーニアさんは落ち着いたものだ。僕が何を言いたいのかもう既にお見通しなのだろう。

「わたしには務まりませんわ。冒険者たちが納得しないでしょう。」

「やはりユーリ殿しかいないんじゃないかい。」

「僕はやりませんよ。」

「おや、断言するねぇ。理由を聞いても?」

「能力がないとか理由は色々ありますが、言葉を飾らずに言えば、引き受ける理由がない、冒険者ギルドがどうなろうが興味がない、からですね。」

「!」

 リザンドロさんがびっくりしたようにこちらを見た。気の毒だが、ここで要らない責任を背負いこむ程僕はお人好しではない。ほとんど街も出歩いていないので街に愛着がないのも事実だ。

「はっきり言うねぇ。言っていることは分かってるんだろうね。」

「分かっているつもりですが、分かってなくても、後で苦労するのは僕ではありません。」

 ジャンナさんは一瞬呆気に取られた表情をしたが、その後は豪快に笑いだした。

「ははははは、はっ、はっ、はっ、ああ可笑しい。こんなに笑ったのは何時以来かね。」

 イレーニアさんは薄い笑みを浮かべているが、リザンドロさんは呆気に取られている。開いた口が間抜けに見える。

「おいリザンドロ、大した婿殿じゃないか、お主はちゃんと全部聞いているのかい?、ユーリの坊やこれは全部お主が考えたことかい?」

「いえ、ジーナが考えました。」

 そう、姫様に丸投げされた僕は更にジーナに丸投げしたのだ。ジーナが考えたのは、デルミーニオ卿とエッダさんに擦りつけようというアイデァだ。可哀そうだがリザンドロさんは必要な生贄だ。

「はは、そうかいあのお嬢ちゃんは何か騎士団長に恨みでもあるのかねぇ。」

「???」

 一人リザンドロさんだけが話が分からず、頭の上に?マークを浮かべている。

「リザンドロ、お主が冒険者ギルドのギルマスになるのであろう。」

「えっ、ええ。クラウディア姫様のお言葉とあれば是非もなく。」

「カルバン商会の会頭ともあろう者が迂闊なことであったな。自分がギルマスになる意味はどう考えておる?」

「カルバン商会は畳まざるを得ないかと。職を失うわたしへ新しい職を世話して頂けたのかと。」

 イレーニアさんが頭を振りながら、呆れたように会話に割り込んできた。

「あなたがそう丸め込まれているなんて、今度のことが余程堪えたか、その年で既に耄碌したのかしら。」

「何をいう!」

 リザンドロさんは真っ赤になって怒る。が、ジャンナさんがそれを無視して話を続ける。

「ジーナ嬢の狙いは、冒険者ギルドを有名無実化して騎士団の下に置くことじゃな。騎士団の下に置いて自分の武力として使いたいのか、多忙な騎士団長の仕事を増やして嫌がらせをしたいのかは、分からんがな。」

 この世界の冒険者ギルドは国を越えた一大勢力とかではなくて、同じダンジョンを狩場とする冒険者の互助会という感じの組織だ。騎士と冒険者の戦闘力も明確に優劣が付く。冒険者ギルドが独立した組織として運営されるのは、街に駐留する騎士の数が冒険者の数に比して圧倒的に少ないからだ。冒険者が団結して対抗すれば騎士団としても無視できないし、騎士団としてまとまりのない冒険者を支配下に置くメリットもない。

「きっと後者じゃないかしらねぇ。あの子は団長の使いとして時々商業ギルドにも来るけど、いつも不機嫌そうだもの。」

 ジーナ曰くエッダさんの使い走りのようなことが多く、姫様にレベル上げで負けそうだとのこと。冒険者ギルドのようなお荷物を背負いこめば流石に文官か副団長あたりの使える人間を呼び寄せることになり、ジーナはお役目御免となるはず。

「では、冒険者ギルドおよび商業ギルドとして新冒険者ギルドマスターにリザンドロさんが就任するということでよろしいですね。デルミーニオ卿にはクラウディア姫様より話を通して頂くことになっております。」

「……異議は通らないだろう?」

「合意頂きありがとうございます。」

 ジーナの言う通りの結論に導けた。ついでに商業ギルドも巻き込むことができた。これでジーナに文句を言われることはないだろう。後はどうなろうと…。

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