第22話 何か揉めているようです

 怪我人と共に外にでてくると、入口には人だかりができていた。

 ダンジョンの入口側には冒険者っぽい恰好の20人程度、その向こうには白銀に輝くミスリル鎧をつけた倍以上の騎士団。

「あー?何言ってるか分からないねぇ!」

「…」

「あー?この歳になると耳が遠くてねぇ!」

「…」

「あー?そんな昔のことは忘れたねぇ!」

「…」

「あー?晩御飯はまだかいねぇ!」

 近寄っていくと、白髪のおばあさんが、何やら大声で叫んでいる。騎士の誰かと話をしている?というか騎士の話し掛けを無視して、関係ないことを叫んでいるようだ。

『???』

「何しているですかい?ジャンナばあさん!」

 護衛としてついてきた、スパーノが声を上げた。知り合いだったらしい。

「おや、スパーノの洟垂れ坊やじゃないかい、誰がばあさんだい?!」

「いやジャンナさん、申し訳ない俺たちは怪我人を運ばないといけないんだが、通してくれねえか?」

 ジャンナさん?はちらりとこちらを見回すと、

「おい、お前たち、人手が要るようだ。手伝いな。」

 ジャンナさん?の号令で、そこに居た冒険者風の者が全員で、怪我人を乗せた担架を奪うようにして、どこかに行ってしまった。ダンジョンから出てきた連中は、呆気に取られて、ここに取り残された。

「じゃあ、あたしたちは怪我人の面倒を見ないといけないから失礼するよ。」

 ジャンナさん?もしれっと、その場を立ち去ろうとした。

「ちょ、ちょっと待たれよ。先ほどからクラウディア姫様がお待ちだ。ダンジョン内部の状況をご説明願おう。満足いく説明の無い場合には、我らで調査を行わせて頂く。」

 騎士団の中ほどを見ると、簡易テーブルでお茶している姫様と隣で真っ青な顔をしているラウレッタ様、その後ろで疲れた顔をして立っているジーナが見えた。

『戦えないラウレッタ様を連れてきちゃダメでしょ!』

「ダンジョン内部は何も変わったことはないね。丁度出てきた奴が居るから詳しい話はそいつに聞きな。」

 取り残された騎士がスパーノと僕の方を見る。僕は姫様のほうを伺うと…、良かった、ジーナが気づいてくれたようだ。姫様に何か耳打ちしている。

「じゃあ、スパーノさん、ここはよろしくお願いします。」

「えっ、えっ。」

 状況が分かっていないであろうスパーノを置き去りにして、姫様達の方に近づいていく。スパーノのほうには追っ付け商会から人が来て良い様に説明してくれるだろう。怪我人を運ぶときに何人かは皆と違う方向に走っていったから、大丈夫なはずだ。姫様達はお茶を片付けて移動する用意をしていた。

「クラウディア姫様、ラウレッタ様、ご機嫌麗しゅう。」

「白々しい挨拶は良くってですわよ。」

 姫様はちょっとお冠のようだ。

「場所を移しましょうですわよ。ルフィーナ嬢もお疲れのようですわよ。」

 ルフィーナはダンジョンを出る前から、僕の背中で熟睡している。信頼されているのか…。


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「それで、どういうことなのですかわよ?」

 姫様のお屋敷に戻って来て、姫様たちのお召替えにたっぷり2時間程待たされた後、話し合いという名の姫様の尋問が始まった。

 僕の向かいに姫様、姫様の隣2人ぐらい離れてソファの端にラウレッタ様、僕の後ろにジーナとリザンドロさん。こんなに広いソファなのに2人は座ってくれない。ルフィーナは別室でお休み中だ。

「えーと、クラウディア姫様はどこまでご存じなのでしょうか?」

「わたくしがお友達のラウレッタのお願いを聞こうとしたら、ユーリ様に邪魔されたということですわよ。」

 姫様はお怒りのようだが、美人は怒った顔も絵になる。

「えーと、僕はお世話になっているリザンドロさんから話を聞いてですね。」

 姫様が無言で先を促す。美人がやるとちょっと怖い。

「ごめんなさい!クラウディア姫様というより、騎士隊がダンジョンに入るのは不味いと思いました!」

『ウソです、本当はウィンドレイピアが壊れるのが怖かっただけです!後からリナルドさんにそう教えてもらいました。』

「どういうことですの??」

 姫様としたら、予想していなかった答のようだ。

「今、”古のダンジョン”の管理はギルドの責任です。問題がないのに騎士隊が踏み込めば騎士隊が悪者ですし、もし問題があり騎士がその問題を解決してしまえばギルドの無能さを曝け出してしまうことになります。」

「よく分からないですわよ。」

「騎士隊がダンジョンに入るには、ギルドから要請されたという形でないと不味かったということです。」

「ギルドの面子よりラウレッタちゃんのお願いの方が大切ですわよ。」

「面子だけでなく、落ち度があったほうには罰を与えねばならなくなると思います。今は騎士隊も冒険者も人手不足なのに、どちらかの戦力を削るような真似は不味いと思うのです。」

「……」

「人手不足なのは本当です。」

 後ろからジーナが補足してくれた。

「多分、ラウレッタ様はダンジョンに取り残された方々の安全を第一に思われ、安否を確認する一番早い方法をクラウディア姫様に頼られたのではないかと。」

「わたくしがダンジョンに向かうのが一番早いのではないですか?」

「そうです。だからラウレッタ様はクラウディア姫様に頼られたのです。しかしそれはクラウディア姫様がお一人で行かれた場合であって、騎士隊と共に行かれた場合には、ギルドは妨害せざるを得ないため一番では無くなります。」

「……はぁ~。分かりましたですわよ。今回の問題を引き起こした冒険者ギルドには罰を与えねばなりませんですわよ。その裁きをユーリ様にお任せ致しますですわよ。わたくしの未来の旦那様に相応しい名裁きを期待しておりますですわよ。」

「……」

『何故、そうなりますか!?』  

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