第21話 古のダンジョンにトンボ返りです
「おー、婿殿ご無事でしたか。話の途中でいきなり居なくなってしまわれてどうしたものかと思案しておりましたぞ。」
リザンドロさんは帰らずに、一睡もせず待っていてくれたようだ。いや待っていたのは僕ではなく、姫様のところに行ったラウレッタ様かジーナだろうな。
ダンジョンの外に出たところで商人2人とは別れた。
もう空が白んできており人々の活動が始まる頃合いだった。もっと早く行って帰ってこれるつもりだったのだが、帰り道で皆の足が遅く思ったより時間がかかってしまった。
「”古のダンジョン”に行ってきました。」
「おー、ダンジョンにお一人で?ご無事でなによりです。やはり魔物が多かったのですかな?何階層まで行けましたかな?」
「魔物は普通でしたね。30階層までとりあえず行ってみたのですが、怪我人が多そうでしたね。サブマスはかなり重傷っぽかったです、話もできませんでした。」
「えっ、いや、そんな、婿殿が出かけられてまだ半日も経ってない…、ご冗談ですかな?申し訳ないが、儂も今は余裕がないのですな。」
「ユーリさまー、早すぎですわー、眠いですわー、お肌に悪いですわー。」
寝不足なのか、リザンドロさんがイラッとして何故か切れかかったところにルフィーナがダンジョンに潜るときのフル装備で現れた。
屋敷に戻ってきたときに、メイドさんにルフィーナを起こすようにお願いしておいたのだ。流石に寝ている女の子(18才)を起こしに行くのは躊躇われた。メイドさんが起きていなければ仕方なく自分で行こうと思っていたのだが、メイドさんは早起きだった。
「ルフィーナ、悪いな。思ったより危険じゃないし、怪我人が沢山居るんだ。ルフィーナの力が必要なんだ。」
「…わかりましたわー。ルフィーナのこともっと頼っていいんですわー。」
ルフィーナはちょっとうれしそうにしながら、僕の背中に飛びついて負ぶさった形になる。
「準備できましたですわ、ゴーですわ!」
「じゃあ、行ってきますね。そうそう、リザンドロさん、商会の方も1人連れて帰ってきたので、あなたを探してると思いますよ。それじゃあ。」
「行ってしまった……、はっ、今の話が本当とは信じられんが店に戻るとするかな。」
----------------------
「ヒールですわ~」
淡い光が足の怪我を包み、幻想的なエフェクトが回りに映しだされる。
「きれい……」
「あ、足が治ってる!」
「凄い!こんな魔法初めて!綺麗だし!一瞬で傷が治るなんて聞いたこともない!」
10階層に到着すると、ルフィーナに女の子の足の怪我を治療してもらったのだが、無事に回復できたようだ。
「凄い!ありがとう!凄い!ありがとう!凄い!凄い!凄い!」
「そうだよ。ルフィーナは凄いんだよ。」
「えっへん、ルフィーナは凄いのですわ~。ユーリさまの愛人として恥ずかしくないように修行したのですわ。」
「……」
「あの、ルフィーナさまはユーリさまの愛人なのですか?」
「そうですわー。ルフィーナとルーチェは愛人ですわー。ユーリさまのお気に入りですわー。」
「…あんな小っちゃい子を、自分のことを様付けで呼ばせてるし、しかももう1人いるみたいだし、…鬼畜?」
ご機嫌なルフィーナの陰で女の子3人が何やらちらちらとこちらを見てくるが、先程までの雰囲気と一変して……、いやここは先を急ぐべきだ。
「じゃあ、僕らは下に行くから、行こうルフィーナ。」
「はいですわ。」
ルフィーナは上機嫌のまま、僕の背中にしがみつく。そこだけ立派に成長している胸の感触が心地よい。
「ゴーですわ。」
………
「行っちゃったね。」
「すごい人たちだったね。」
「顔がにやけてたね。」
「だらしなかったよね。」
「ちょっといいかな、って思ってたのにね。」
「「「はぁ~~」」」
----------------------
「ハイヒールですわ。」
淡い光が怪我人を包み、幻想的なエフェクトが回りに映しだされる。
「おー。」
周りから歓声があがる。
「いやー、凄いもんだなぁ、こんな一瞬で傷口が塞がっちまうとは。回復魔法は見たことがないわけじゃないが、これ程見事なもんだとは。」
スパーノ程のベテランからしてもルフィーナの魔法は”見事”と評して良いようだ。まあ、この辺りには魔法使いが少ないだけで、帝国戦線のほうに行けばそうでもないのかもしれないけど。
「この短時間で、外まで行ってきたと言われたときには何かの冗談かと思いましたが、これ程の腕前の回復魔法使いを連れて来て下さるとは、あなた方をちょっとでも疑ってしまったことをお許しください。一度外まで出られたことは疑いありません、会頭とはお話は?」
『やべぇ、またリザンドロさんには何も説明せずに来ちゃった…』
「時間がなかったので、簡単な状況だけ…あとは商会に向かわれた、と思います。」
「そうですか、いや、ありがとうございます。ユーリ殿はこれから?」
「ルフィーナも疲れてますし、上に戻ろうと思います。」
「ルフィーナ殿の回復魔法は素晴らしかったです!」
『やべぇ、魔法は軽々に人前で使わせるべきじゃなかったか!』
僕の表情にでていたのだろう。リナルドさんは笑う。
「はは、安心して下さい。ここに居る者たちはみな、ユーリ殿、ルフィーナ殿、会頭に恩義を感じています。恩を仇で返すような者はいません。ルフィーナ殿が今まで知られていなかったのは理由があるのでしょう。ルフィーナ殿を変に勧誘したり、能力を言いふらすようなことはありません。」
「…ありがとうございます。」
やはりこちらの世界の人は基本いい人らしい。
「ユーリ殿に更にお願いで心苦しいのですが、ルフィーナ殿のお陰て動ける者が増えました。一命を取り留めた者も居ますが、早急に医者に診せねばマズい状態の者もいます。それらの者を運び出したいのですが、ユーリ殿にも護衛をお願いできないでしょうか。」
ルフィーナの魔法は傷口はほぼ完璧にふさぐことができたが、失った血や部位を復元させることはできなかった。また、既に死亡していた者、手遅れで手の出しようが無かった者もいる。ここに連れてくることができず、ダンジョンのどこかに骸が放置されたままの者もいるらしい。
ダンジョンで亡くなった者の骸は装備含めて、10日程度でダンジョンに吸収されるのか、無くなってしまうらしいので、ダンジョンで死亡すると遺体無しになってしまうことが多いらしい。
「何人くらいになるのでしょうか?」
「重傷者3名、運び人9名、護衛5名の計17名です。」
重傷者が居るので、移動速度はゆっくりとしたものになるだろう。
『まあ、乗りかかった船か。』
「わかりました。」
「ユーリさま~、ルフィーナはお腹ペコペコですわ~。」
「これは失礼しました。こんな所ですので簡単なものしかありませんが、朝食をご用意いたします。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます