第20話 古のダンジョン30階層からの脱出です
「じゃあ、行きましょう。」
30階層には、全部で70名程が取り残されていた。怪我をした冒険者を運び出すことができずにここに放置されていたらしい。70名の半分近くが動けない怪我人だった。
その中で上層に向かうのは、20階層キャンプ要員の男冒険者2名、10階層キャンプ要員の女の子冒険者3名、外への連絡要員の商人の男2名、引率は僕となった。
「えーと、君、武器は?」
女の子冒険者は怪我をした子が槍を杖のようにして持ち、1人が弓を持っていたが、もう1人は手ぶらに見える。
「すいません、昨日予備も折れちゃって、今は…」
と小さなナイフを見せる。もともとナイフ使いなら別だが、使い慣れていないナイフなんて役に立たないだろう。1人は怪我人だし、もう1人も弓はあっても矢がもうほとんど無いようだ。
『置いていくべきかな。』
「ごめんなさい、でも連れて行って欲しいの。我儘だっていうのも分かってる。あたしたち、10階層までの荷物運びだったのに、気がついたらこんなところまで連れて来られちゃって…こんなところに居ると思ったら眠ることもできないし、もう限界なの!」
「…わかったよ、でも自分のことは自分で守ること、そしてできれば商人の人を守ってね。じゃあ、無いよりましだと思うからこれを使って。」
今まで一度も使ったことが無い、腰にぶら下げていた予備のショートソードを渡す。
「そんな。こんな良い物、ダメ…です。」
「いいから使って。その方が全体としての戦闘力も上がるし。じゃあ改めて行きましょう。」
とショートソードを女の子に押し付けて、階段を上り始めた。
「ちっ、やっぱり居やがる。…でもかなり減ったか。走り抜ければ行けなくは…ないか。」
降りてくるときに目についた奴は倒してきたので、29階層の広間には数体のアイアンゴーレムがうろついているだけだった。28階層への階段に行くには1体か2体倒せば済むだろう。
「あのゴーレムがもう少し離れたら、…いやこっちから別のが向かってきていやがる…ちくしょうめ。」
「行きますよ~。」
並んで歩いていた男冒険者が、階段を登り切ったところで立ち止まって何かぶつぶつ言い始めたが、時間が勿体ないので進むことにする。怪我人がいるので、早歩き程度で通路に近づこうとしているゴーレムを目指す。
「お、おいおい、あんた、何を考えているだ!今出て行ったらマズいって!」
後ろで何か言っているが無視してゴーレムを切り伏せた。それなりの大きさの魔石がドロップする。ちょっと勿体ないが荷物になるので拾わない。
「早く行きますよ~、来ないと置いていっちゃいますよ~。」
後ろを見るとついて来ていないので、声を掛けてもう1体の邪魔になりそうなゴーレムの方に進み…ゴーレムを倒した。
後ろを見ると男冒険者と商人は急いでこちらにやってきているが、女の子たちは遅れている。あれではもう1体のゴーレムを躱せそうにない。
「もうちょっと急げるかなぁ~。」
女の子たちのところまで戻り、近づいて来ていたゴーレムを倒す。
「えっ、えっ。」
やはり怪我している子の動きが鈍い。
「ごめんね。階段まで急ぐよ。」
怪我している子をお姫様抱っこで抱きかかえると、あとの2人がついて来れるくらいの速さで、29階層を後にした。
「あんたは何者なんだ?」
階段を上がりながら、隣の冒険者が話かけてくる。怪我している女の子は僕の背中で大人しくしている。流石に自分より背の高い人をずっと抱っこして走ったり剣を振ったりするのは難しいので、負ぶさる形に変えてもらった。
「僕はユーリ、今はカルバン商会に雇われた身だ。」
「いや、それにしても強すぎだろう。今まで見た覚えもないし、普段からこの街にいるのか?」
「普段は、騎士隊と一緒にダンジョン探索をしている。」
「そうか、騎士なら…いや俺の知っている騎士が弱いのか?…まあ、あんたが強いのは良いことだ。スパーノの兄貴に、29階層に向かってくれと言われたときには正直もう終わりかと思ったが、希望がでてきたぜ。」
「騎士隊の方に比べれば、僕は普通ですよ。」
レベル30はベテラン騎士並、中の上だ。
「そうかー、冒険者上がりで騎士だ、って威張ってる奴と違って王都から来た騎士様は違うもんだな。おっ、そろそろ28階層か、次も頼むぜ。」
20階層まで、問題なく戻ってきた。黒い甲冑騎士?はリポップしていなかった。
「俺たちはここで待機だ。ユーリが居れば心配ないと思うが、気を付けてくれ。」
「ありがとう、2~3日かかるかもしれないが、よろしく頼む。補給は毎日送る。」
商人がそう話をしていた。何か作戦は託されてきているようだ。
10階層まで、問題なく戻ってきた。階層ボス?のキメラはリポップしていたが、サクッと倒した。
「はあ、はあ、はあ、……ありがとう、あたしたちはここで待機です。」
「どうする?怪我人はこのまま外に運ぶ?」
「いえ、ここのキャンプを守るのがあたしたちの役目ですから。動けなくはないのでここで役目を果します。」
ここで、自分たちだけで逃げよう、ってならないのが凄いよな~。
「あの、これ、ありがとうございました。」
別の女の子が、僕の貸したショートソードを差し出してきた。
「ダンジョンの外にでて自分の武器が用意できるまで、そのまま使っていて。どうせ僕は使わないし。」
「やっぱり、こんな良い物、ダメ…です。」
「3人の中で今の主戦力は君だろう。仲間を守るために使えるものは使ったほうがいい。
ああ、大事なことをお願いしたいんだけど、そのショートソードは依頼料ということにしておいてくれないかな。」
「なんでしょうか?」
「ここに、キラキラ虹色に光る甲冑の女の人が来たら、下に行かないように引き留めておいて欲しいんだ。難しいと思うんだけど努力して欲しい。ああ、もし振り切って下層に行かれたら、後を追う必要はないからね。」
「そんなことですか??」
「来ないことを願っているけど、もし来たらすごい大変なことになると思う。」
「??よく分からないけど、ユーリさんは命の恩人ですから、ご期待に沿えるよう頑張ります!」
「期待してるけど、無理しないでね~。」
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