第19話 古のダンジョン30階層に行きました
夜の街を走る。生憎と雨も降っている。真っ暗な中を濡れ鼠になりながらダンジョンへの道を急ぐ。
本当はこんなに急ぐ必要はないのだろう。ダンジョンに閉じ込められている人も数日は耐えられるだろうし、姫様も夜中に何の準備もしないで飛び出すような無茶はしないだろう。
この世界では街灯なんて無いので、街中と言えども所々の家に灯りがついているのが分かる程度だ。何故かこの暗い中躓きもしないし、この世界に来てから方向音痴も治った気がする。これも召喚特典?
ダンジョンの入口についたが、番をしているはずの者が見当たらない。ここまで来れば少なくとも姫様が来てるかどうかは分かると思ったのに当てが外れた。
『どうする?このままダンジョンに潜るか?姫様の館に行くか?ここで待つか?』
さっきまでそれ程気にならなかった雨の音がやたらと大きく聞こえる。
『ダンジョンに潜ろう。最初からそのつもりだったはずだ……』
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”古のダンジョン”の中は何時も通りだった。敢えて普通でないところを挙げれば、僕が1人であるということ。下層で一人になることはあっても、1階層で1人のことは初めてだ。
思えば召喚されて以来、王都からこの街への旅路以外はほとんど毎日ダンジョンに潜っている。この世界に呼ばれてほぼ半年が経とうとしているが、僕がこの世界でやったことはダンジョンに潜ることだけだ。
確か将軍になって魔族との戦争の先頭に立つ、という話だったはずだが、そのために何かしているかと言われれば何もしていない。レベルも上がらないし、魔法も使えないままだ。姫様始め可愛い綺麗な女の子に囲まれているが、何も進展していない。
『僕は何故この世界に呼ばれたんだろう…』
気付けば、それなりの時間立ち尽くしていたようで、スライムに囲まれポヨンポヨんとボディアタックをされていた。別にダメージは受けないのでじゃれつかれている感じでしかない。
『僕の心を癒してくれるのはスライム君だけか……』
しばらくスライムを眺めて癒された後、僕は下層へと足を向けた。
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「スコー、スコー」
「うるさい!」
「……」
20階層のボス?である黒い甲冑騎士?を1刀で切り伏せる。断末魔も上げず黒い甲冑騎士?は倒れた。10階層と同様に20階層にもベースキャンプは設置されていなかった。
『長期で潜るときには、ベースキャンプは必ず作ると聞いていたんだけど…』
ベースキャンプに来れば姫様の動向と30階層の様子が分かると思ったんだけどここでも当てが外れた。
『どうする?ここで待つか?』
黒い甲冑騎士は”硬い”らしく(僕が切ると一撃なのでよくわからない)、姫様と相性が良くない。姫様が負けるとは思わないが、こいつと戦うとウィンドレイピアが無事に済まないかもしれない。ウィンドレイピアにとって最初の鬼門だ。
『いや、多分リポップに数時間は猶予があるはずだから、30階層まで一度行ってみよう。』
…………
29階層でアイアンゴーレムを切り捨てる。
『特にゴーレムが溢れてるって感じでもないなー。』
20階層以降はかなり緊張して慎重に進んできたが、”いつものダンジョン”だった。最もこのダンジョンの20~30階層はまだ4回目なので、”いつも”と言えるほど常連ではないが、ちょっと拍子抜けだった。
30階層へと続く階段を降りると、そこでは10名くらいの男が集まって話をしているようだった。
『聞いていたより少ないな?』
辺りに姫様らしき人も騎士らしき人もいない。よかった、姫様よりは先に来られたようだ。
「誰だ?」
1人が僕に気付いて誰何してきた。
「僕の名はユーリ、カルバン商会に雇われて様子を見に来た。」
「1人なのか?他の奴らはやられてしまったのか?まだ子供じゃないか?」
「最初から1人だ。」
「嘘つけ!そんな軽装でここまで1人でやってこれるわけがっ」
「まあまあ、彼が外からここまで来たことは事実でしょうから、我々にとってはいい知らせです。
失礼しました。わたしはカルバン商会のリナルド。先ほどカルバン商会に雇われて来たと言っておられたようでしたが。」
『不味い、姫様のことしか考えてなかった!』
「ええ、リザンドロさんにあなた方の状況を確認してくるように依頼されました。」
「会頭が?会頭がそれだけのために?」
『不味い、リザンドロさんとちゃんと話しないで飛び出して来ちゃったから…』
「外では、冒険者ギルドに話が通じる人がいなくて……、そうだここにサブギルドマスターが居るかもって聞いてきたんですが!」
「サブマスなら、その辺りの寝袋がそうだぜ。怪我で動けねぇし、話も難しいな。」
別の男が答えてくれた。大きな斧、大戦斧?を背負っているので冒険者か誰かの護衛だろう。
「怪我人もいるのですね。じゃあ誰か冒険者ギルドを代表できるような人は?」
「そんな奴はいねえな。」
先程の男が答えてくれた。冒険者で間違いないようだ。
「会頭からサブギルドマスターに何か言伝でも?」
「リザンドロさんは、冒険者ギルドのプランをまず確認したいとのことです。」
『嘘言ってないよな。』
「プラン?」
「え~っと、このまま計画を進めるつもりなのか、今回は諦めて撤収するのか。ギルドで何とかできるのか、騎士団に助けを求めるのか。」
「騎士団!そういう話まであるのですか!?」
「リザンドロさんは皆さんのことを大切に思っているようです。既にある程度の話はされているようですが、騎士団としてはギルドからの要請という形でないと介入はできないだろうとのことでした。」
場の雰囲気が何故か一気に引き締まった感じがする。
「そうですか、会頭はそこまで我々のことを…、また我々は思っていたより深刻な状況に置かれているようですね。」
「???」
「会頭が騎士団に厄介事を持ち込んだとなれば、…いや今回の計画を主導した我が商会は最悪取りつぶし、良くてもこの街での商売は難しくなるでしょう。」
「「そんな!!」」
僕と冒険者の声がハモった。
「カルバン商会だけに責を負わせるわけにはいかぬ。もともとギルドの見込みが甘すぎたのが問題で、それを信じた我ら全員が悪い。ここは是非とも全員で代官様にご配慮をお願いすべきじゃ。」
また別の商人風の男がそういう。
『この世界の人ってやっぱり基本的にいい人なんだよなぁ。』
「皆様方、我が商会の会頭を庇っていただくのは有難いですが、まず我々が今何をすべきかを決めましょう。えっと、ユーリ殿?最新の29階層までの様子を教えて頂きたいのですが、頼めますか?」
「え~と、そうですね。特に変わらず普通でした。」
「普通?」
「ええ、いつもと同じですね。ああ、そういえば10階層にも20階層にも誰も居ませんでしたね。」
「魔物が減ったのか?それなら……
スパーノ殿、20階層、10階層に置いておけそうな冒険者は残っているか?」
「むう。」
冒険者はスパーノという名前で、ここに居る冒険者の中ではリーダー的な役割のようだ。
「あ…あの、10階層ならあたしたちが……」
寝袋が並んでいたほうから声がし、女の子3人組が現れた。まだ20才前で皆疲れた表情をしている。
「怪我してるじゃねえか、ちゃんと動けるのか?」
よく見ると、1人は足を引きずっている。
「大丈夫よ、それにあたしたちが30階層に居ても役に立たないから…」
「まあ、他にいねえし、しゃあねえか。」
『大丈夫かなぁ。』
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