第18話 古のダンジョンで事件です

 冒険者ギルドに”古のダンジョン”の管理権が戻されて1ケ月ほど経った。”ミスリルのダンジョン”で姫様、ルフィーナ、ルーチェのレベルを上げつつミスリルを集め、更に”ドラゴンのダンジョン”に1人で潜り魔石を集める生活だ。休みなくダンジョンに潜っているし魔法の訓練も欠かしていないのに、僕はレベルが上がらないし、魔法を覚えることもできていない。

 現在、各人のレベルは姫様46、ジーナ46、ルーチェ40、ルフィーナ8、僕30だ。

 姫様もルフィーナやルーチェと同じように、”ミスリルのダンジョン”9階でレベル上げを行っている。ルフィーナ達のように後ろから抱えて二人羽織形式では、僕と背がほとんど変わらない姫様はムリなので、所謂お姫様抱っこしながら2人で槍を持ってヒュージミスリルゴーレムを倒している。護衛の騎士は上層階で待機する体制と、僕への信頼度が上がったのか、僕だけでなく姫様の重要度が低下しているのか判断に悩むところだ。

 今日は、いや今日も僕たちはカルヴィーノ伯の弟のリザンドロさんに用意された家で寛いでいた。やはり使用人の目から逃れて1人になれる空間があるこの家は居心地がいい。

「婿殿!この叔父を助けてくださらんか!」

 僕がジーナ、ルフィーナ、ルーチェとお茶していると、珍しくリザンドロさんがやってきて、開口一番訳の分からないことを言いだした。

 残念ながら突っ込み役のラウレッタ様は不在だ。

「リザンドロさん、落ち着いて、まずはお座りください、あっ、お茶要ります?」

「いや、それどころではないのです!」

「落ち着いて、順序だててお話頂けませんか?」

「…いや取り乱して申し訳ない。婿殿は冒険者ギルドが”古のダンジョン”の攻略を正式に再開しようとしていることはご存じですかな?」

「ええ、冒険者を集めて30階層にベースキャンプを設置する作業中ですよね。」

「我が商会も30階層に出店する予定で準備を進めておったところ、3日前に30階層が確保できたとの連絡があり、人を送ったのですな。」

「はあ?」

「ところが、今日になって28,29階層にゴーレムが溢れて30階層と連絡が取れなくなったのです!」

「急にですか?」

「聞きまわったところ、2日前に最初に降りたときから事前の討伐が十分でない感じはしておったらしく、昨日もかなり苦労して押しとおったとのことですな。今日は護衛の冒険者が早々に脱落してしまい、商会の護衛が30階層に何とか連絡しようと試みたのですが、怪我人続出で……」

「冒険者ギルドは何と言っているんですか?」

「それが話にならんのですな!聞けばギルドマスターは30階層制圧時に大怪我を負って入院中。サブギルドマスターは昨日30階層に向かったまま帰ってこない。腕に覚えのある冒険者はほとんど怪我で使い物にならず、何と商会の護衛を当てに本日サブギルドマスターと連絡を取ろうとしたが、やっぱり主力のいない冒険者ではゴーレムに太刀打ちできず……ということですな!」

「30階層には何人くらい居て、どのくらい時間の猶予がありそうなのですか?」

「商会3つと店の準備の人工が合わせて31名、ただ昨日30階層に向かった冒険者が20名程居たそうなので、もし彼らも合流していれば約50名ですな。店の建物の準備のためだったので、水や食料の持ち込み量は多くはなく1週間分、ただし冒険者の分もそこから消費していれば、最悪3日ほどしか持たないかも…」

「ジーナ、騎士団は」

「無理だな、ギルドから正式に要請されない限り、騎士団が出ていくわけにはいかない。叔母さんには言ってみるが、ギルド側に責任取れる人間がいないと話もできないだろう。」

「……ラウレッタが今クラウディア姫様に陳情申し上げに行っているのですが、やはり難しいでしょうかな…」

「???」

 何か非常にマズい状況な気がする。

「ダメだ!!ジーナ!”古のダンジョン”に行ってくる!」

「ユーリ!何言ってるの!今の話聞いてた!?」

「僕は騎士団員じゃないから、カルバン商会に雇われたことにすれば大丈夫だ!」

「ユーリさまが行かれるなら、ルフィーナも行きますですわ!」

「わ、わたしも一緒です」

「ユーリを1人にできるわけないじゃない!」

「ルフィーナ、ルーチェ有難う。でも2人はお留守番だ。魔物が群れで出てきたときに2人を護れる自信がない。」

「う~、分かりましたですわ。わたしたち足手纏いですわね。」

「ユーリ、あたしは」

「ジーナにはクラウディア姫様を止めてもらう。今の話を聞けばクラウディア姫様なら、1人ででもダンジョンに救出に向かうはずだ!そんなことになったら……」

「なら、ユーリが姫様のところに行けばいいんじゃない。」

「僕が行っても、いいところ”じゃあ一緒に行きましょう”となるだけで、僕にクラウディア姫様が止められるわけがない!」

「変なところで自信たっぷりに言わないでよ!

 分かったわ。ユーリがダンジョンに入れば、ユーリの護衛の騎士もダンジョンに入ることができるから無理しないで20階層で待ってなさい。いいわね!あたしたちが応援に行くまで待っているのよ!」

 ジーナは慌てて飛び出して行ってしまった。

「リザンドロさん、ラウレッタ様がクラウディア姫様のところに行ったのは何時です?」

「えっ、えっ、日暮れ時に別れて直ぐに伺うと言っておりましたが…」

 まずい、もう3時間程度経っている。下手したらもう姫様は出発しているかも!急いで行かないと!

 状況がよく把握できてないであろうリザンドロさんを放置することに決めて僕は急ぎ出発することにした。

「「行ってらっしゃいですわ~」」

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