第17話 古のダンジョンで事件の予感です

 今日は、冒険者ギルドにジーナとやってきている。”古のダンジョン”31階層に潜る相談をしに来たのかと思ったのだが、ジーナによると冒険者ギルドからの呼び出しだとのこと。

 エッダさんに、姫様がレベル上げをしたがっていること、ダンジョンの31階層より下に行きたい旨相談したが、自由にしていいとのことだ。何か僕の扱いが雑になってきている気がする。いやきっと気のせいだろう。

「待たせたな。」

 ギルドマスターのイメージにピッタリな筋肉粒々ハゲ頭の大男が、やってきて僕とジーナの向かいに座った。

「早速ですが、今日はどういった話ですか?」

 ジーナが淡々と切り出す。騎士隊と冒険者ギルドの中はあまり良好とは言えないようだ。

「いや~、近頃は姫様のお陰てこの街も景気が良くなって、冒険者もこの街に集まって来てて、いや~有難いことだぜ。」

 ジーナの態度と対照的にギルマスは上機嫌だ。

「いや~、一度この街を出て行った奴らもかなり戻って来てくれてな。」

「……」

「そいつらが、前はもうちょ~と稼げたなー、って言ってるんだなー。商人たちからも、そろそろどうですか、って言われてるんだよなー。」

 男らしい外見と裏腹に粘着質な喋り方をする奴だ。お友達にはなりたくないタイプだ。思えばこの世界に来てから会ったのはみんな”いい人”だった。まあこの人も悪い人ではないのかもしれないが、なんかイライラする。

「何が言いたいんでしょうか。」

 ジーナの態度は変わらない。

「古のダンジョンの管理権を返してくれ。」

 ギルマスの顔つきが真面目なものに変わった。最初からその感じで話せばいいのに、なぜ人の感情を逆なでするようなことをするのだろう。

「クラウディア姫殿下ご滞在中は、こちらに管理権を貸与するという契約でした。その契約を破棄するということですか。」

「そうだ、状況が変わった。そちらもミスリルとドラゴンで手一杯で古のダンジョンにはほとんど潜っていないそうじゃないか。」

「一方的な破棄の場合の取り扱いは契約に記されている通りになります。」

「う……、実際に潜っている日数が少ないのだから協議による破棄が妥当ではないか。」

「既に何回も、30階層まで到達しています。こちらに違反事項もありませんし契約破棄の意向もありません。」

「…わかった。」

「では、ギルド側の意向は隊長に伝えておきます。正式な書類は別途届けてください。では失礼します。」

 相手の返事も待たずにジーナは席を立ち、部屋を後にする。僕も後に続くが、取り残されたギルマスは妙に小さく見えた。


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「という訳です、隊長。」

 僕とジーナはギルドを出た足でエッダさんに事の顛末を報告に来ていた。

「どっちも困ったもんだねぇ。」

「あたしは困りません。」

「…まあ、いいさ。ユーリ殿は姫様のレベル上げには困らないのかい?」

「ミスリルのダンジョンで良ければ…」

「まあ、そちらはそれでいいさね。」

「で、ジーナ、ギルドはわたしらを追い出して上手くやれそうなのかい?」

「無理でしょう。」

「即答だねぇ。」

「ゴーレムを突破できる破壊力のある冒険者の数が足りません。以前居た目ぼしい者は対帝国戦線に出向いて戻ってきていないようです。」

「厳しいねぇ~。」

「偽りのないところです。31~39階層は何とかできるテクニックやスピードを持った冒険者もいないことはないんでしょうが、30階層にキャンプを設置して維持するには人手不足です。」

「わたしらはどうすればいいと思う?」

「それを考えるのはあたしの仕事じゃないです。」

「そんなこと言わないでさぁ~。わたしも駆け引きなんかやりたくないのに毎日毎日喋りたくないことを喋り、ムカつく相手にニコニコ愛想を振りまきしてるんだよ。」

「それが叔母さんの仕事でしょう。」

「そろそろジーナにお役目を譲ってもいいかと考えてるんだけどね。レベルもかなり上がったそうじゃないか。そろそろ正式に一隊を率いてもよい頃合いかねぇ。」

「なっ、なっ、何を言ってるんですか!身内贔屓も甚だしい!」

「いや、真面目な話人手が足りないのさ。ユーリ殿にもう護衛は必要無い気もするしジーナを遊ばせておくのは勿体ないと思っているのは本当さ。」

「遊んでなんかいないわよ!それにユーリには護衛は必要無くても見張りは必要でしょ!こんな世間知らずで向こう見ずな奴を一人でウロウロさせたら何が起きるか分からないでしょ!」

 ジーナは初対面の時には癒し系だと思ったのだが、最近は僕に対する評価が厳しい。デレはないのでツンツン系?

「まあ、近頃は姫さんだけじゃなく、嬢ちゃんたちが居てなかなかユーリ殿の周りも賑やかになってきちゃったからねぇ。」

「叔母さん、今はそんな話関係ないでしょ!じゃあ冒険者ギルドの件は確かに伝えたからね!」

「まあ、お待ちよ。ギルドマスターの物言いは気に入らないけど、失敗されるのも困るんだよ。わかるかい?」

「分かりません!」

「何時まで拗ねているんだい。いいかい。新街の建設で一時的に景気が良くなった。しかしそれも既に落ち着きつつある。折角人が戻りつつあるのに何かケチがつけば、また一気に人が居なくなりかねない。」

「……」

「今後この街を支えるのはミスリルだろう。”ミスリルのダンジョン”には騎士隊を投入していくことになると思う。ミスリル加工に必要な魔石は冒険者に期待しないといけないしね。」

「……」

「31階層以降は、姫様も嬢ちゃんたちも潜れないだろうから、ユーリ殿と2人っきりになれるかもね。ジーナにとっても悪い話じゃないだろう?」

「知りません!」

 真っ赤な顔をして怒ったジーナは部屋を後にし、僕もその後を急いで追ったのだった。

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