第16話 ウィンドレイピア復活しました

 今日は姫様と久々のダンジョン接待だ。ジョコンダ様が来て以来、姫様は屋敷で過ごすことが退屈でなくなったらしく、しばらくはダンジョン行はお休みだったのだ。

「ウィンドショットですわよ!」

 姫様の風の斬撃がジャイアントバットを切り裂いた。そう、ウィンドレイピアが手元に戻ってきたので、今日はその試し切りを姫様がご希望されたため急遽設定されたダンジョン接待だ。

 ”古のダンジョン”7階層に居るメンバーは、僕、姫様、ジーナ、ルフィーナ、ルーチェ、そして護衛の騎士約20名。エッダさんが同行していないが、僕らの信用度が上がったわけではなく、昨日からエッダさんが隣街に出かけているのに急に姫様がダンジョン行を決めたためだそうだ。

 姫様に何かあればごめんですまないのは目に見えているので、僕はビクビクしている。毒のあるキラービーのでる8階層には絶対に行ってはいけない。ジャイアントバットになら一撃貰ってもルフィーナのヒールがあれば何とかなるはずだ。

「えーい、ファイヤーボールー……です。」

 ルーチェの魔法でジャイアントバットが炎に包まれ、そのまま消滅した。

「ファイヤーショット!」

 ジーナがナイフを振り、火の斬撃を飛ばす。ジャイアントバットの翼に火が付きバサバサと音を立てながら地上に落下し、そこで消滅し、魔石が残った。

 マジックショットナイフはジーナの武器となっている。数回使わせて貰い、いい武器だと思ったが、ジーナの有言無言の要求には勝てなかった。

「ルーチェの魔法の威力は聞いていた通りですが、ジーナのナイフも中々の業物ですわね。」

 いくら姫様でも渡しませんよ、と言わんばかりにジーナがナイフを抱きかかえる。

「あらまあ、人のものを取ったりしませんですわよ。」

 現在、各人のレベルは姫様40、ジーナ45、ルーチェ30、ルフィーナ7、僕30だ。この世界のレベル判定は攻撃力に由るところが大きいみたいで、ルーチェとルフィーナのレベル差が大きい。

 レベル45は騎士隊隊長クラス、40は精鋭、30はベテラン、7は見習い卒業一歩手前といった感じになる。

「クラウディア姫様はどうやってレベル40まで上げたのですか。僕はレベル30から全く変わらなくて。」

 ダンジョンの中だと言うのに雑談できるくらい弛緩した雰囲気だった。そのくらいこのメンバーだとこの階層は余裕だ。姫様の予定時間ギリギリまでここで粘っても誰も1レベルも上がらないだろう。

「ユーリ様はもう既にエッダの強さを超えていると思うのですわよ。きっとユーリ様のお強さは鑑定の理を超えているのですわよ。

 わたくしは、ウィンドレイピアを授かりましたから幼いころからジャイアントバット狩は幾度となく経験しましたですわよ。あとはエッダと共にレッサードラゴンを討伐しましたですわよ。」

「すごい。クラウディア姫様はドラゴンスレイヤーだったのですね!」

「ダンジョンのレッサードラゴンは飛びませんから騎士だけでも討伐可能ですが、山に籠ったレッサードラゴンは飛びますから、ウィンドレイピアを持つわたくしが呼ばれたのですわよ。」

「クラウディア姫様がいらっしゃればエウスターキオの山のドラゴンも退治できるというわけですね。」

「そのような思惑もあったのでしょうが、今ならユーリ様とルーチェさんで大丈夫ではないでしょうかですわよ。わたくしはジーナにもレベルで抜かれてしまいましたし、ユーリ様とご一緒してもっと下層に潜りたいと考えておりますですわよ。」

 ジーナに抜かれたことで、姫様もダンジョン接待では満足できなくなったようだ。これはエッダさんに要報告だ。姫様のレベル上げに適性な階層まで潜れる護衛は少数しかおらず安全が確保できない。……会話の話題を間違ったかもしれない。

「失礼ですがクラウディア姫様はレベルを上げてしたいことがおありですか?」

「ウィンドレイピアに使い手として選ばれて以来、王国の武の象徴として式典等で斬撃を見せることが第一の目標でしたですわ。そのあとは前線に出れるようにと鍛錬を積んで参りましたが、今日までその機会はありませんでしたわよ。今はレベルを上げて、ユーリ様ともっと一緒に居たいですわよ。」

 姫様は淡々と会話を続けるので反応に困る。

『場を和まそうという冗談だよね?』

「レベル上げがやり易いのは”ミスリルのダンジョン”ですね。浅い階層で済みますし、魔物が群れででることもないですから。でもウィンドレイピアでは相性が良くないですね。」

「”古のダンジョン”の31階層より下はいかがですわよ?古いダンジョンの下層には運河良ければ宝が眠っているといいますですわよ。100階層より下になればマジックショットナイフ級の宝物があるとも言われていますですわ。」

「100階層ともなれば準備が大変そうですね。騎士団総出で探索するのでしょうか?」

「騎士団が探索するのは、普通は30階層までですわよ。30階層までは、広間の両端に階段が御座いますですわよ。道に迷う心配もありませんし、騎士が隊列を組んで戦うことができますわよ。31階層より下は迷宮ですわよ。狭い道を迷いながら進まないと下の階層への階段を見つけることができませんわよ。31階層から下は騎士ではなく冒険者の領域となるのですわよ。」


「姫様、ユーリ。ルーチェの魔力が切れました。本日はこれまでにしましょう。」

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