第14話 魔法使いのレベルを上げようと思いました

「キャー、キャー、キャー、…えーい、2人の共同作業ですわ~。」

 ルフィーナの声がダンジョンの中に木霊する。ここは”ミスリルのダンジョン”の9階層。

 1階層にはベビーミスリルゴーレム

 2階層にはプチミスリルゴーレム

 3階層にはミニミニミスリルゴーレム

 4階層にはミニミスリルゴーレム

 5階層にはリトルミスリルゴーレム

 6階層にはスモールミスリルゴーレム

 7階層にはミスリルゴーレム

 8階層にはビッグミスリルゴーレム

 9階層にはヒュージミスリルゴーレム

 10階層にはグレートミスリルゴーレム


 10階層までは見事にミスリルゴーレムしか出ない。もっと下層にはオリハルコンとか希少な鉱石があると思われるが、世の中にはミスリルを越える金属は知られていないらしい。

 僕は、ルフィーナを後ろから左手で抱きかかえて、ショートソードを持ったルフィーナの右手を右手で掴むようにしている。

 ルフィーナは軽いが、身長差は20cm程なので、ルフィーナの足を浮かせるように抱きかかえるとルフィーナの頭で視界がかなり遮られる。貴族っぽい盛った髪型も邪魔だ。

 それでもゴーレムの緩慢な動きに後れを取ることはない。ゴーレムが腕を振り上げたときに、一気に肉薄し、ゴーレムの腕が振り下ろされる前に、右手のショートソードをゴーレムの核に突き刺す……とゴーレムは黒い靄のエフェクトとともに消え、後には結構大きなミスリルのインゴットが残る。

 僕らはルフィーナのレベル上げにやってきていた。ルーチェとジーナおよび護衛の騎士達は1階層で待機している。

「ユーリさま、わたしたち息ぴったりですわ~。でもミスリルを捨てていくのはちょっと勿体ないですわ。隠して持って帰れませんかですわ!」

 そう、僕たちは6階層でレベル上げを行っているはずなのに、内緒で9階層まで降りてきてしまっているのである。階層に見合わない大きさのミスリルを持って帰れば、下層に行ったのがバレてしまう。隠して持って帰っても換金する術がないので、意味はない。レベルの上がり方から下層に潜っていることはエッダさんにはバレている気もするが、面と向かって追及されるまではしらを切りとおすつもりだ。

「ジーナが怒ると怖い…というか面倒なんだよね。ミスリルの値段も良く分からないしね。ミスリルの剣とかは凄い高いけど地金は、買ってくれるところも無いしね。」

「ジーナさまはユーリさまのことが心配でたまらないのですわ。口が悪いのは照れてるだけですわ。」

「そうなのかなぁ~。」

「ユーリさまはもっと女心を学ぶべきですわ。」

 ルフィーナはこんなに小さくて可愛いのになんと18才とこの世界では年上だった。2人並ぶと双子のようなのにルーチェは14才。ルーチェはこれから成長してしまうかもしれないが、ルフィーナは多分、小さくて可愛いままだ!

 ただ、ルフィーナの年齢を知ってからは、抱きかかえたときに胸が腕に当たったりするとドキドキして意識してしまうことがある。

「まあ、ジーナをあまり待たせても怒られるし、そろそろ戻ろうか。6階層で少しミスリルを集めないといけないし。」

「わかりましたですわ。」

 ルフィーナは僕の背中に負ぶさってくる。移動の時にはこの形だ。金属の胸当てをしているはずなのに、背中に柔らかいものが……

「じゃあ行くよ。」

 ルフィーナが僕の首にしがみついている腕に力を込めたのを確認して、走り始める。6階層ではルフィーナを背負ったまま、数体のゴーレムを切り倒しアリバイ用のミスリルを回収した。


 1階層まで戻ってくると、騎士が10人程で円陣を組んでおり、その中にルーチェとジーナがいた。

「えーい、ファイヤーボールー……です。」

 ルーチェのファイヤボールがベビーミスリルゴーレムに当たり、ゴーレムは消滅した。

 僕を見つけたジーナが駆け寄ってきて、僕の背中からルフィーナを引き剝がしながら、話始める。

「おつかれー。まあ無事なようね。心配はして無かったけど、早めに戻ってきてくれて良かったわ。そうそう、ルーチェは魔法一撃でベビーミスリルゴーレムを倒せるようになったのよ。」

「そんな、騎士の皆さんのほうが全然凄いです……です。」

 ルーチェは褒められて恥ずかしそうだ。

「いやーミスリルゴーレムは魔法耐性が高いからベビーでもミスリルゴーレムを魔法で倒せるなんて凄いことよ。」

「ルーチェは凄いなー。」

 僕はルーチェの腰のところを持って持ち上げてクルクル回る。2人はこのクルクルがお気に入りのようなので、褒めるときにはクルクル回るようにしている。立派な胸が目の前で揺れて僕も幸せだしね。

「むー、ルフィーナも頑張ってるですわ。」

「そうだね、じゃあジーナ、手を出して。」

 ジーナが自分で刺した手の甲は、適切に手当を受け大事にはならなかったものの傷跡が残ってしまっている。

 ルフィーナがジーナの手を取って、呪文を唱える。

「ヒール…ですわ。」

 暖かな光がジーナの手を包むと、…傷跡が綺麗に消えていた。

「そんな……昨日はダメだったのに。」

「よかった、綺麗な手に傷跡が残らなくて。」

「えっ、えっ、綺麗…。」

「いちゃいちゃしてないで、ルフィーナが頑張ったのですからクルクルして欲しいですわ!」

 僕は何も言わず、ルフィーナをクルクルする。

「キャー、キャー、キャー」

 見た目は幼女に近くても18才の乙女がクルクルで喜ぶのは間違ってる……。

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