第13話 魔法使いは希少でした
その日はルーチェがスライム6匹倒したところで魔力切れを起こし、ルフィーナは3匹倒したところで、疲労困憊で動けなった。
「う~~ん、2人ともレベル1から変わってないね。」
レベル鑑定人のエッダさんの判定では2人ともレベルは上がらなかった。
「あまり無理しないほうがいい。今日はもう終わりにしよう。」
「はぁ、はぁ、わかりましたですわ。でもまだわたしの魔法をお見せしていませんですわ。」
ルフィーナの回復魔法は、小さな傷なら治せるらしいが、ダンジョンに入る前には誰も怪我をしていなかったため、誰か怪我をしたら見せてもらおうということになっていた。
「でも、誰も怪我してないからねぇ。」
エッダさんが、意味ありげな視線を僕のほうに寄こした。
「はい、はい、わかりました。」
僕は、ナイフを取り出し、自分の掌に当てる。ちょっと、いやかなり怖いので目を瞑って、ナイフに力を込めた。
「あれ?あれ?あれ?」
「なんだユーリは意気地がないな。ちょっと血がでればいいのに、そんなに自分の血を見るのがこわいのかい。」
ジーナが、僕のナイフが止まっているのを見て、横から手を出してナイフをぐいぐい押してきた。
「ほらほら、抵抗するんじゃないよ!観念しな!」
おかしい?抵抗してないつもりだがナイフが僕の手に刺さらない。
「ジーナ、ユーリがそんなに怖がってるんだから止めてあげな。」
ジーナは渋々手を離した。
「でも、誰か怪我をしないと、ルフィーナ嬢の魔法を見れないね。」
エッダさんが周りを見るが、お嬢様2人と僕とジーナ以外は全員フルプレートで肌が露出している人がいない。
エッダさんが無言でジーナにナイフを渡した。ジーナは僕の方を睨んでから、自分の手の甲にナイフを突き刺した。
「ジーナさま!やり過ぎです!!ヒール!ヒール!ヒール!」
ルフィーナが慌てて、回復魔法を唱えるが、血はなかなか止まらない。
「ヒール!ヒール!ヒール!ひ~~る~~。」
ルフィーナが魔力切れで気を失う頃に、やっと血が止まり、青い顔をしたジーナは騎士から応急手当を受けて先にダンジョンから退去した。
僕も気を失ったままのルフィーナを背負ってこの日はダンジョンを後にした。
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その夜、僕はジッダさんに呼ばれていた。残念ながら色っぽい話ではない。
「で、ルフィーナ嬢とルーチェ嬢はどうだ?」
「魔法はいいものです。どうして今まで魔法使いを紹介してくれなかったんですか?」
「魔法使いは数が少ない。信頼できる者が居なかったからだ。」
「……」
「あの2人についてはカブリーニ伯のお墨付きだ。現役の魔法使いはほぼ全て対帝国戦に従軍している今、2人を探しだしてきたカブリーニ伯は本気でユーリ殿に取り入りたいと考えているはずだ。」
「魔法使いはそんなに少ないんですか?」
「現役は王国で100人を大きくは越えないだろう。才能がある者も少ないし、才能があっても教育を受けない者も多い。」
「???」
「ユーリ殿は魔法に何やら夢を抱いているようだが、実際には魔法はあまり役に立たないのだ。もちろん照明の魔道具等生活で必須となるものもある。ただ戦場では活躍の場は少ない。ユーリ殿はこの街で魔法使いを見たことが無いだろう。」
「無いですね。だから魔法使いはいないのかと半ば諦めかけていました。」
「この街は対魔国の補給街だからな。魔国は魔法に優れている。人の魔法使いでは魔国の魔法使いに対抗できない。魔国との戦いは、魔法防御を高めた城壁に籠って敵の魔力切れまで耐え、騎士が突撃する方法しかない。敵の魔法に当たれば騎士といえども命を落とすし、近接戦闘まで持ち込めれば騎士の敵ではない。だから軽傷人もでないから回復魔法使いも出番がない。」
「……」
「対帝国戦を担う街に行けば、魔法使いはいないことはない。ただ瞬間的な火力は魔法使いが飛び抜けているが、飛び道具の総合力としてはクロスボウに負ける。回復魔法使いは功績評価が難しい。貴族は魔法の才能があっても騎士を目指すから、魔法使いは対帝国戦を担う貴族が囲い込んだ極少数しかいない、ということだ。」
「国には居ないんですか?」
「もちろん現役を引退したじいさんはいるさ。国王も魔法使いの有用性に気付いてはいるが、才能ある者の発見、教育のノウハウは各家秘伝で国王と云えど取り上げるわけにはいかないのさ。」
「だから、僕の思い付きでしかない”レベル上げ”に同意してくれたんですね。」
「そうさ。ただカブリーニ伯も魔法使いを育てている家柄ではないから、次は無いと思ったほうがいい。」
「もちろん、2人のことは大切にしますよ。」
「おやおや、では2人はユーリ殿のお気に入りということでいいのかな?」
「どういう意味ですか?」
「そうそう、そういえばさっきジーナがここに怒鳴り込んできていたけど、ジーナのこともよろしく頼むよ。口では”あたしの仕事は護衛です”なんて言っていたけど、満更じゃない様子だったね。まあユーリ殿の好みからしたら、ちょっと育ちすぎで胸はちょっと育ち足りないかもしれないかもしれないけどね。」
「一体僕の好みはどこ情報ですか!?」
「ユーリ殿は国にとって大事な人なんだから、目はどこにでもあるさ。まあ、ユーリ殿は分かり易いから、屋敷の女性誰に聞いても、同じ答えが返ってきたけどね。」
『おっぱいは正義だ、でも大きさではない!あと決してロリコンではない!』
最近は気が緩んで気にしてなかったが、常時監視の目があるということを改めて知らされる結果となった。
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