第12話 魔法です ただし見ただけ
次の次の日、久しぶりの”古のダンジョン”1階層だ。
スライムを見ていると癒される。と思ったのだが僕の目の届くところにスライムはいない。
目の前には、魔法使いとヒーラーの女の子たち、そしてエッダさん。僕の横にはジーナといつもの騎士2名。僕たちを取り囲むように騎士30名。姫様はいないのに厳重警戒態勢である。
解説ポジションのエッダさんが話始める。
「まず、魔物は人にとって途轍もない脅威だ。この階層にいるスライムでも一般人なら10人程度でないと相手にならない。騎士はスライムを簡単に討伐しているように見えるだろうが、この街に派遣されている騎士は選りすぐりの強者であり、雑兵数十人なら蹴散らすことが可能だ。ルフィーナ殿、ルーチェ殿はスライムの攻撃を受けると一撃で死の危険性がある。」
『えっ、そうなの!?』
「ルフィーナはユーリさまが望むならどこへでも付いていきますですわ!」
「わたしも頑張ります…です。」
ルフィーナとルーチェは、フリフリの魔法少女ルックではなくシンプルなローブにミスリルの胸当て、革のブーツ、杖装備といった、僕のイメージの”冒険者の魔法使い”の恰好だ。ルーチェには黒のトンガリ帽子を被ってもらっている、これは僕の趣味が半分入っている。
「普通は魔法使いをダンジョンに連れてくるなんぞ、正気の沙汰ではないが、ユーリ殿たっての願いで、お二人にも危険を承知の上でご参加頂いている。」
『そんなに危険なら、今からでも……』
「ユーリ殿は魔法使いも魔物を倒すことで効率なレベルアップできるのではないかとお考えだ。」
『いや、単なる思い付きです……』
「それこそ、回復魔法使い殿に魔物と戦わせようというのは前代未聞であるが、これで効率的にレベルアップできれば、大発見である。」
『いや、回復魔法使いはまだしも、攻撃魔法使いは魔物と戦ったことあるでしょう?今まで試した人沢山いるよね?』
「では、本日のミッションを開始する。」
エッダさんの掛け声で、騎士のうち20名が横穴に散っていき……
ほどなく1組の騎士がスライム1匹を引き連れて戻ってきた。流石姫様の接待で慣れたもので、見事な誘導だ。
「ではユーリ殿、瀕死までお願いする。」
「わかりました!」
スライムが現れた!ユーリの手加減攻撃!スライムは倒れた!スライムは死んでしまった。
「ユーリ殿!何をやっているんですか!」
「すいません、手加減できませんでした。」
「魔物を前にして、”全力を出さない”ことは難しいですが、今日はお2人のレベリングであることを忘れない。」
「はい、次は慎重にやります!。」
また別の1組がスライムを誘導してきた。
「ではユーリ殿、瀕死までお願いする。」
僕は慎重に剣を構えて、できるだけゆっくりと剣を振り下ろした。
スライムが現れた!ユーリの寸止め攻撃!スライムは風圧で倒れた!スライムは死んでしまった。
「ユーリ殿!何をやっているんですか!」
「すいません、すいません、すいません。」
「もういいです。次からはジーナ、できるな!。」
削り役を馘になってしまった……。
また別の1組がスライムを誘導してきた。ジーナが剣でスライムを半殺しにした。
「えーい、ファイヤーボールー……です。」
ルーチェのちょっと気の抜けた掛け声と共に炎の玉が、スライムに向かって飛んでいき、スライムにぶつかるとスライムは炎に包まれた。
スライムは炎に包まれた!スライムは倒れた!
『おー、魔法だー、ファンタジーだー。』
ダンジョンに入る前に、試しに撃ってもらったときには、騎士の盾にかき消されてしまったので、ちょっと心配していたのだが、スライムには十分通用するようだ。ゴブリンの使うファイヤーボールより、ちょっといや大分遅いし、小さいけど、そんなことを考えてはダメだ。
僕がこの世界に来て興奮した第一位は今まで”初めてスライムを見た”だったが、今”初めて魔法でスライムがやっつけられるの見た”に更新された。遠くないうちに、”初めて魔法でスライムがやっつけた”になる予定(希望)だ。
「ユーリさま、やりました。頑張りました…です。」
「いやー、ルーチェ様凄いですよ、僕は感動しました!是非とも僕も魔法を使えるようになりたいです、教えてください、ルーチェ師匠!」
ダンジョン前での試し打ちで、ちょっとがっかりしていたのを棚に上げて、テンションMAXの僕は小柄なルーチェの腰を抱え上げて、クルクル回る。
「ユーリさま、降ろしてください。恥ずかしいです。」
気が付くと周りの女性陣からは冷たい目線が……
「ルーチェ様、すいませんはしゃぎ過ぎました。」
ルーチェを下に降ろすと、既に別の騎士達がスライムを引き付けて待機していた。
「むー、わたしもこれから頑張りますですわ…」
ジーナが半殺しにしたスライムをルフィーナが杖で殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、……
ルフィーナが杖で殴る!スライムはこちらを見ている!ルフィーナが杖で殴る!ルフィーナが杖で殴る!ルフィーナが杖で殴る!ルフィーナは疲れた!ルフィーナは動けない!
「ルフィーナ様、スライムはきっと打撃耐性があるのですよ。」
僕は腰のナイフを取り出し、ルフィーナに握らせると、手を添えて、スライムを刺した。
スライムは倒れた!
「ユーリさま、ありがとうございますですわ!ルフィーナ感激ですわ!初めての共同作業ですわ!」
さっきまで息絶え絶えで蹲っていたのに、ピョンピョンと辺りを飛び跳ねている。元気な娘だ。
「そうそうユーリさま、ルフィーナたちに”さま”は不要ですわ!」
「えーーと、でもルフィーナさまたちは子爵ご令嬢ですよね?」
「そんなのつい1ケ月前からですわ!それに自分のお妾さんに”さま”は可笑しいですわ!」
『???』
何故かジーナがすごい眼で睨んでくるけど、それは無視してエッダさんに”?”と目で問いかけた。
「ピッコローミニ子爵もランディーニ子爵もカブリーニ伯爵の寄子だ。姫様のお相手の相手として失礼がないようにとの配慮だろう。」
「なので、ルフィーナはルフィーナと呼んで欲しいのですわ!」
「わかりましたよ、ルフィーナ。ではルフィーナも普通に喋ってくれないかな?」
「この言葉遣いは、将来社交の場にでたときに困らないようにと、お嬢様からきつく言われているので、変えられないですわ!
ジーナさまも今から慣れておかないと大変ですわ!」
「えっ、えっ。」
急に話を振られて、今まで僕をじっと睨んでいたのにおろおろする様は可愛い。
「お嬢様とジーナさまは側室で、ルフィーナとルーチェはお妾さんだと、お嬢様は言ってましたですわ!」
「「えーーーーーー。」」
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