第10話 エッダさんとデルミーニオ卿の会談
エウスターキオにやってきて1ケ月が経った。休みなしにダンジョンに潜っていたが、僕のレベルは上がっていない。
エウスターキオの街の新街は城壁はできていないが新しい建物が並び、賑わいを見せるようになった。
今日はダンジョン探索はお休みで、デルミーニオ卿とエッダさんの話に呼ばれた。前回と同じく、僕はエッダさんの後ろに控えて話を聞かされるだけで発言の機会はないはずだ。
『なんで、僕は呼ばれたんだろう?』
2人はお茶を飲みながら、穏やかに話をしている。悪い話ではないようだ。
「エッダ、ところで今日はいい話と面倒な話と些細な話があるんだが、どれから聞きたい?」
「もちろんいい話からだ。」
「いい話だね。実は新街建設のための借金が、もうすぐ返済し終わりそうだ。姫様御付きの侍女たちの落とすお金目当てで、商業地が拡大している。王都の有名職人の店も幾つかできているから、新街の利権の値段が爆上がりしたんだ。」
「それはいい話だ!資金に余裕があればできることが増える。」
「騎士達に期待した夜の街のほうはさっぱりだがら、もうちょっと騎士達の給与に回してくれると街としては有難いのだけどね。」
「む~、規定のものは払っているはずなのだが…検討してみよう。」
「来年度まで姫様が居てくれれば税収も期待できるから、幾らかは融通できるようになるかもしれない。」
「それは有難い。期待しているよ。」
「次は、面倒な話だが、急に人が増えすぎた。それに新街もできてこの街は景気がいい。…カルヴィーノ伯爵から警備隊を貸そうとの申し入れがあった。」
「む~、この街は王家直轄地だろう。」
「この街の警備隊だけでは手が回っていないのも事実だ。」
「む~、この街の中の問題だと言って断れないのか?」
「この街には伯爵の弟が商館を構えていて一族が何人か住んでいるし、今の建設ラッシュで伯爵領から沢山の出稼ぎが来ている。最悪、一族や領民を守るためと言って勝手に出兵してくる可能性もある。」
「む~、こちらが弱みを見せることはできないということか。」
「それで相談なのだが、騎士隊の一部に治安維持に協力して貰えないだろうか。騎士でなく従士でもいいし、もちろん、その分の給与は街から出す。」
「む~、金のことを言われると弱いな。しかし今でも姫様がダンジョンに行かれる日は騎士が足りていない。持ち帰って相談させてくれ。」
「わかったよ。いい返事を期待している。」
「じゃあ、残った些細な話は?」
「……カブリーニ伯爵ご令嬢がいらっしゃるそうだ。」
「ぶっー。」
エッダさんは飲もうとしたお茶を盛大に噴き出した。デルミーニオ卿の服にお茶がかかってしまったが、デルミーニオ卿は気にせず続けた。
「長女のジョコンダ嬢が、姫様の無聊を慰めるためしばらくこちらに滞在されるとの連絡があった。既に王都は出立している頃だ。」
「な、な、なにが些細だよ!大事件じゃないか!」
「中立派のカブリーニ伯が、クラウディア姫様への支持を表明しただけだ。ルクレツィア姫様の派閥が切り崩されたわけじゃない。大体エッダがここに居ることが伯爵の判断に大きな影響を与えているとは思わないかい。」
「む~、わたしは陛下に忠誠を捧げているというのに。」
「まあ、端から見たら、エッダはクラウディア姫様に付いたと考えるのが自然だからね。そうでなければこんな辺境の街にくる理由がない。まさか魔国に殴り込もうなんて博打を考えているなんて、誰も夢にも思わないさ。」
「む~、今となってはわたしもそう思うさ。『勇者が召喚された時に数時間で考えた作戦だよ!』」
「じゃあやはり、魔国に殴り込む計画は白紙で、ファディーニ・ガンディーニの防備を固めるという方針に変更するということで間違いないかな?」
「そうだよ。ミスリルの鎧が揃えられそうだし、ベビードラゴンの魔石がそれなりの数入手できれば、城壁の魔法防御の大幅な向上が見込める。そうすれば魔国戦線の兵の数を減らして、帝国に備えることが可能だ。」
「まあ、ミスリルも魔石も後ろの彼頼みだと聞いてはいるけどね。姫様の御気に入りみたいだけど、何者なんだい?」
「秘密だ。」
「エッダの愛人?」
「違う。」
「公爵閣下の子供だって噂もあるけど?」
「秘密だ。」
「教えてくれる気はないみたいだね。まあいいや。戦争の戦略は街の代官風情がどうこう言う立場じゃないしね。じゃ、騎士隊の件とジョコンダ嬢のお世話はよろしくね。」
「ちょっと待て。ジョコンダ嬢は自前の兵を引き連れてくるのか?」
「カブリーニ伯は配慮のできる方だ。護衛は王家から借りてくるとのことだ。まあ侍女団はもちろん自前だがな。」
「王都の護りが若干心配だな。まあでもジョコンダ嬢が騎士を連れて来てくれるなら騎士隊の件は何とかできるかもしれん。ジョコンダ嬢の相手は姫様に一任する。」
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