第8話 姫様とダンジョンに入ってみました

「ジーナから話は聞いた。」

 エッダさんは機嫌が悪そうだ。

「”古のダンジョン”の30階層まで到達したそうだな。」

「はい。」

「しかも、ジーナも騎士達も置き去りにして。」

「いや、それは、気がついたらいなかったんですよ。」

 エッダさんは頭を抱えた。

「ユーリ殿は自分の立場を理解して貰わねば困る!自分のお立場を分かっておられるのだろうか!!」

「……」

 多少落ち着いたエッダさんが噛んで含めるように話始める。

「直近の最優先目的はユーリ殿のレベルを上げ、真の力に目覚めて頂くことだ。目的達成まで我らはユーリ殿を護る必要がある。目立たずユーリ殿の周りの護衛を厚くするため、目くらましとしてクラウディア姫にご出馬をお願いし、ここに新しい街まで作った。」

「???」

「我らが、これだけ手を尽くしてユーリ殿の護衛体制を作り上げたというのに、お前は1人でフラフラとーーーー!!」

『いかんエッダさんの堪忍袋の緒がマズいことに!しかーし、ここで下手な言い訳はもっとマズい!!』

「……」

「すまない、取り乱してしまった。以後は重々気を付けてくれ。」

「申し訳ありませんでした……」


「で、話は変わるがクラウディア姫がユーリ殿と共にダンジョンに潜りたいとご希望だ。」

「え~~。何か問題でしょうか。」

 クラウディア姫は僕より強いし、国宝級装備は修理中だから代わりの装備は破損してもそれほどダメージはないはず。

「わからないかい?」

「すいません。」

「あたしは一緒に行けない、野暮用が多すぎる。姫様とユーリ殿が暴走したら止めれる者がいない。王都のダンジョンで怪我人が多すぎたせいで、暴走についていける者もいない。」

「僕に暴走するなということですよね。」

「……」

「姫様が暴走したら僕に止めれると思いますか?」

「難しいだろうね。」

「……」

「先ほどの話は覚えているだろう。今一番重要なのはユーリ殿が生きてレベルを上げることだ。ハッキリ言ってそれは姫様の命より優先する。言葉を選ばずに言ってしまえば姫様は替えが効くけどユーリ殿に替えはないんだよ。」

「僕は自分の命が一番大切だと思っていますよ。」

『僕は誰かを庇って誰かに刺されたり、トラックに轢かれたりした記憶もない。』

「ユーリ殿は危機感がないように感じる。目の前で何かあると考えなしに飛び込んでいきそうな危うさがある。」

「憶えておきます。ところで姫様のご希望い沿わないわけにはいかないんですよね。」

「ユーリ殿が直接、自分のレベル上げの邪魔だ、と伝えれば姫様も分かってくださると思うぞ。」

「…勘弁してください。」

「何か案はあるか?」

「……姫様は聡い方です。目標が明確で合理的であればそこから外れる行動は取らないと思います。”ミスリルのダンジョン”に行ってミスリルを集め、騎士の装備の更新をすべきかと思います。」

「ユーリ殿のレベル上げはその分遅れると思うが?」

「エッダさんが姫様の護衛に付けるようになるまでです。それに僕の護衛に付く方もフルアーマーから軽鎧に変えて頂きたいです。」

「ほう、どうしてだ?」

「レベル上げを効率的に行うためには見合った強さの魔物の居る階層で戦う必要があります。となると、その階層に行くまでの時間をできるだけ短縮したいのです。」

「ダンジョンの中でキャンプすればいいだろう?」

「……レベルアップ修業期間はそれなりに長くかかると思うので、ずっとダンジョン暮しは厳しいです。」

「まあ、ユーリ殿の言うことも一理ある。姫様にはわたしから話をしておこう。」

「ありがとうございます!」

 ----------------------

 日が変わり

 僕たちは”ミスリルのダンジョン”にやってきていた。

「ユーリ様、わたくし楽しみにしておりましたですのよ。」

「クラウディア姫様、ご一緒できて光栄です。」

「ユーリ様、いやですわよ。夫婦となるのですからクラウなりお前とおよび下さいな。なんなら、”おい”でも、ちょっと気が早いですが”ママ”でもよろしいですわよ。

 あっ、でも2人だけの新婚生活も長く楽しみたいですわよね、でもでも、わたくしもうそれ程若くはありませんから、子供は早く生むべきでしょうか。」

 姫様が何か想定していたのと違う方向で暴走し始めた。後ろで見ているジーナの目が怖い。騎士の方々も兜で表情の見えない人もいるが、全体的にはざわざわとしている。

「ひっ、姫様?」

「わたくしクラウディア=クレスターニ、ユーリ様にゴーレムに助けて頂きましたときに”運命”を感じましたですわよ!わたくしの全てはユーリ様のためにあるのですわよ!もしユーリ様がもっと若いほうがいいとおっしゃるなら、わたくし側室でも構いませんですわよ。」

「ひっ、ひっ、姫様、そのような大事を軽々しく決めてはなりません。いずれゆっくりとお話致しましょう。」

『とっ、とりあえず問題先送り作戦だ!』

「わたくし、既にじっくり考えましたわ、お父様も喜んでくださっていますわよ。でもゆっくりお話しするのには賛成ですわよ。」

 後ろのジーナの視線が氷点下にまで下がっているように感じる。

「で、で、では今日のところは、ミスリル集めを始めましょう。」

 強引に話を終わらせた。

「で、どうしましょうかね?」

 ”ミスリルのダンジョン”1階層にはベビーミスリルゴーレムが出現する。…はずだがまだ1体も見かけていない。

 周り居るのは、ジーナ、僕の護衛騎士2名、姫様、姫様の護衛騎士50名以上。

「とりあえず、横道に入ってゴーレムを探しましょう。」

 ぞろぞろと移動が始まる……

 結局、その日は横道の中で渋滞が発生し、身動きできなくなる状況が発生し、小指の先ほどのミスリルを入手できただけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る