第6話 エッダさんとデルミーニオ卿の会談

 エウスターキオは対魔国戦線の一大補給拠点だ。このところ戦況の悪化に伴い街の雰囲気は暗いものが漂っていた、が、2週間ほど前から街は空前の建設バブルに沸いていた。

「大きいなぁ~。」

「大きいね~。」

「まだ出来てないですね~。」

「そうだね~。」

 僕とジーナは、建設真っ最中の”新しい街”を見ていた。

 エウスターキオの街の城壁のすぐ外に、もう1つ街が造られようとしていた。貴族屋敷街、騎士・従者宿舎、厩舎、騎士演習場、…。新しい街を取り囲む城壁も工事が始まっている。

 姫様たちは辛うじて完成しているように見える一番大きな建物へ、騎士・従者はこの場所で野営するようだ。


 僕はエッダさんに連れられて、旧街の代官所へとやってきた。

「ようこそエウスターキオの街へ、この街を預からせて頂いている、ジェラルド=デルミーニオと申します。」

 まだ30前の品の良い貴公子がこの街の代官らしい。

「ご丁寧な挨拶痛み入る。デルミーニオ卿。本来ならクラウディア姫様とご挨拶頂くべきだが、姫様は長旅でお疲れである。名代として親衛騎士隊隊長のエッダがご挨拶申し上げます。」

「ご丁寧に有難うございます。おかけください。」

 エッダさんとデルミーニオ卿が向かい合ってソファに座る。僕はソフォの後ろの従士の立ち位置だ。

「では堅苦しいのはこれまでにしようか。」

「助かる。状況は調べてきたが現場でしか確認できないことも多い。説明をお願いできるだろうか、デルミーニオ卿。」

「以前のように、デルミーニオ先輩と呼んでくれてもいいのだぞ。」

「からかわないでください、騎士学校を卒業して何年経ってると思うのですか。」

「はは、悪い。

 ではまず、”新街”の建設だが、流石に10日程ではあの通りだ。予算についても陛下より100億ベル頂いたが、特急料金含めると300億程かかる見込みだ。」

「かなり予算オーバーだな。」

 この国の通貨はベルで、日本の感覚で1ベル=1円ぐらいだ。

「これでも、姫様への期待値で職人はかなり安く受けてくれているし、新街の中に商業区を作って営業権を売ったりもしたから、これ以上安くはムリかな。」

「わかっている。この短期間でよく形になったと感心しているよ、流石先輩だ。」

「今更先輩呼びしても、安くならないものは安くならないな。」

「こちらも陛下に1年の活動費として50億ベル頂いてきたのだが、王都より連れてきた人件費で10億ほど施設の維持・運営に10億程かかる見込みだ。」

「それでは使えるのは30億ベルか…、建設費の借金を返すのに7年かかるな。」

「……言い難いんだが、出発前に王都でトラブルがあって、姫様の剣と鎧が壊れてしまったんだ…」

「何!クラウディア様の愛剣と言えば国宝、魔法剣ウィンドレイピアではないか!修理できるのか!?」

「修理は可能らしい。ただ、ぽっきりと逝ってしまったので、剣と鎧と合わせて修理に100億ベル程かかるとの見込みだ。」

「…まあ、王国の武の象徴の剣が無事であれば、マイナス200億ベルからの出発がマイナス300億からの出発になっただけと思えなくもないか、な?」

「すまない、国宝を安易に持ち出さないように陛下には進言していたのだが…」

「まあ、エッダのせいじゃないよね、娘に甘々な陛下だと仕方ないね。」

「ところで、こんな無茶なことを言いだした陛下のお考えを教えてもらえないかな?」

「正直に言うと、対帝国がマズい。一時的にでも対帝国に全力を投入できる体制を作る必要がある。無理なら教国に泣きつくしかない。」

「国家存亡の危機というわけだね。陛下はガンディーニを放棄して時間を稼ぐつもりかな?」

「なぜそう思う?」

「魔国の進行はゆっくりだが確実に進んでいる。いや確実だがゆっくりというべきかな。正直ガンディーニ要塞はもう何年も持ち堪えることはできないだろう。逆に今すぐガンディーニ要塞を放棄しても急速な進行はない可能性が高い。姫様がここに居れば、ガンディーニは放棄してもエウスターキオは放棄しないと国民に示すことができる。」

「それも考えたが、却下された。ガンディーニ要塞を放棄すれば王都まで地形的な要害は存在しない。帝国を一時的に退けたとしても、王都の防衛を放棄するような策は取れない。」

「なら、どうする?」

「ファディーニで攻勢にでる。」

「それはちょっと無謀じゃないのかい?」

「姫様の名でファディーニの砦に兵を集める、そしてエウスターキオの山を越えて敵の背後を突く。」

「越えると言ってもあの山にはドラゴンが…ああ、だから君が来たのか。でもかなり分の悪い博打だと思うけど。」

「それぐらい追い詰められているということだ。我々は少しでも成功の確率を上げるために、ここでレベル上げを行うつもりだ。」

「借金は返し終わる前に決着がつくから、幾らしても構わないと云うわけだね。」

 デルミーニオ卿は苦笑いだ。

「もちろん、王国は生き残るつもりだけどね。」

「わかったよ。私は君を信じよう。共犯者になるよ。」

「ありがとう、先輩。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る