第5話 エウスターキオの街へ旅立ちます
その日の夕食、僕はクラウディア姫に招待されていた。メイドさんに着替えさせられ、宿の食堂に向かうと、そこには貴族の世界が広がっていた。
立食形式に30名程の貴族のお嬢様方。流石にダンスを踊るようなスペースは無いが、高級宿だけあって、楽器の生演奏付た。
椅子に座って挨拶を受けるクラウディア姫の隣に何故か僕は座らされている。
「クラウディア様、明日から南に行かれるとお聞きしましたわ。前線に行かれるなど危険ではございませんの。」
「わたくしはエウスターキオに滞在する予定ですわよ。わたくしがエウスターキオに在ることで、前線の皆様に勇気を与えることができれば光栄ですわよ。」
「姫様がすぐ近くにいらっしゃると思えば、兵たちもその身を惜しんで働くことでしょう。……ところで、そちらの方は?」
我慢できなくなった1人がとうとう僕のことを尋ねた。
「こちらは、ユーリ様。いずれわたくしの夫となるべきお方ですわよ。」
「「「???」」」
「失礼ですが、この王都では今までお見かけしたことが無かったようですが…」
「ユーリ様のことはお父様も御認めになっていますですわよ。」
「「「キャー」」」
「べルティーナやコンチェッタ、デルフィーナもユーリ様のことを狙ってますが、わたくし負けませんわ!わたくしたちは、今日既に2人でダンジョンコアを割ったのですわよ!」
「「「キャー」」」 「「「キャー」」」
今までは行儀よく数人ずつ、姫様のところにお話しに来ていたのに、今や全員が姫様の周りに集まって、姫様が何か一言言うたびにきゃーきゃー声を上げる、もう何を話しているのかも分からない。
『お腹すいた…』
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次の日、予定通りにエウスターキオに向けて出発した。馬車の中は僕とエッダさんの2人だ。
「エッダさん、傷は大丈夫ですか?」
「ああ、ユーリ殿心配痛み入る。もう問題はない。それよりダンジョンの件で忙しく、この世界の話ができておらず申し訳ない。またクリスタルゴーレムとの戦いも助かった。ありがとう。」
この世界にもポーションという不思議な薬はある。ただ出血は一瞬で止まるが、回復には時間がかかり、エッダさんもダンジョン20階層で1晩休み今朝でてきたばかりとのことだった。
「いえ、ボルゲーゼ公爵閣下と少しはお話できましたし、ゴーレムとの一戦はむしろクラウディア姫様の介入がなければ、もっと楽に済んでいたかもしれませんしね。
それより王都を出る際には凄い歓声でしたが、エッダさんが顔を見せなくてもよかったのでしょうか。エッダさんかなり有名人みたいでしたから。」
「現陛下にはご子息がいらっしゃらない。王女様は沢山いらっしゃるがね。だからここ10年は王族の親征はなかった。みんな期待しているのさ。表向きは単なる視察であっても、長期間王族が前線に赴くことで何か変わるんじゃないか、このじりじりと負けていく戦争の風向きが変わるんじゃないかと思い込みたいのさ。
だから、目立つのは姫様だけじゃないといけない。」
「むー、そういうものですか。でも何も変わらないと失望も大きいんじゃないでしょうか?」
「ああ、大きいね。でも可能性はゼロではない。少なくとも1年か2年別の手を考える時間が稼げるかもしれない。ひょっとしたら、その間に勇者様が状況をひっくり返してくれるかもしれないからね。」
「僕にそんな力はありませんよ。」
「陛下はまだあきらめてないからね。公爵から聞いていると思うが、召喚の儀は”英雄王”を呼び出す儀式だ。英雄王はその知略でもって召喚を行った国の危機を救ったとされている。陛下は英雄王が召喚されたら、即座に王位を譲るつもりだったらしい。」
「…僕は英雄王でなくて良かったです。」
「陛下はまだユーリ殿が英雄王である可能性に縋っておられる。まず手始めにこの遠征団とエウスターキオの街の全権をユーリ殿に託すとの仰っておられました。もちろん、表向きはクラウディア姫様がそのお役目ですが、姫様に政は向いておられません。」
「聞いてないし、聞きたくなかったです。」
『聞いてないよ~。』
「今、お伝えしました。そこで責任者のユーリ殿にご相談なのですが、
”金がありません”
」
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