ハシタダさんは、今日も町を守る
この世界は、不思議だ。
人間と言う種族だけでなく、様々な人種が住む世界。
森に入れば魔物と呼ばれる、凶悪な存在もいる世界。
どこの町も村も、都市も、国も。
人は群れ、その群れの中で互いを助け合い、そして命を育んでいく。
この町も例に漏れない。
他と違うところといえば、比較的大きな町であり、比較的流通も滞ることもなく活性化しており、そのため冒険者ギルドを筆頭に多岐のギルド支部が設置されている王都ともそれほど変わらない賑わいのある町といった違いだろうか。
ああ、それと……。
近くに魔物の巣窟である、生きる洞窟・塔といった冒険者の成長と稼ぎ、そして話の種となっている『ダンジョン』が点々と存在していて、『迷いの森』に隣接して魔物を定期的に駆除するということも行っているから心優しい猛者どもに溢れた町というところも他の町とは違った趣があるとも言える。
……言葉にしてみると、なかなか激しい場所にこの町はあるものだ、と思う。
この大陸の人々を守るための砦であり休むための中継地点でもあると考えてみれば、そんなところに町があるのも頷けるのではないだろうか。
そんな人の住む場所としては過酷であった場所から、先祖が開拓し、助け合い、育み、町として機能し、今日も賑わうこの町だからこそ。
私は、門番として、この町を守っている。
そんな過酷な場所で門番なんてやっていれば、
「……え、ちょっと待ってハシタダさん」
ぶひぶひと鼻を鳴らして棍棒を振り下ろしてくるオークの喉元に一突きして倒していると、冒険者の一人が、驚いた様相で私に声をかけてくる。
「ん? 今戦闘中。手短に」
「いや、その戦闘に、町長が先陣きって戦ってるとかどうなのよ。ギルド長のおやっさんに俺達冒険者に任せろっていつも言われてるだろ」
「町長? なんだそれ、うまいのか?」
「おーい! みんなぁ! またハシタダさんが町長の仕事放棄して戦ってるぞー。おやっさん呼んでこーい!」
時には、冒険者ギルドから救援依頼を受け、
「あの数をあっさりと……」
私の槍が、最後まで抵抗していた
「私が門番をする町に、一歩たりとも踏み込ませるものか」
「ハシタダさん……ここ、結構町から離れてるからね? あんた門番じゃなくて町長だからね?」
門番だから、町を守るには近場の安全確保も必要なのだ。
私は、つい先ほど討伐した
君もいつかは門番として名を馳せることになったら、私の気持ちも分かるだろう。
後継者にならないかと誘ったら、あっさり断られた。
じーっと。
この豚肉は煮ても焼いても、味付けしなくても極上の味がするんだよなと、昔食べた記憶を思い出してはごくりと喉を鳴らして率直に「美味そうだ」と思った。
この豚肉の配下の豚肉もその辺りに落ちている。食料に困窮してないものの、臨時の食料確保が出来たということも町としては嬉しいことである。
「ハシタダさんさ、あんた町長としてもうちょっと――」
「今日は皆でオーク肉の香草焼きをつつこうじゃないか」
「おーい! ハシタダさんが町長らしくみんなに料理振舞うらしいぞー」
町がまた楽しく盛り上がっては、共に生きとし生ける仲間が今日も生きて笑いあう姿は、門番冥利に尽きるものだ。
「今日も町を守ったよ」
皆で協力し合って町を守った祝いに、今日は豚肉祭りとなった。
今日も私は町を守りきった報告をする。
今はもう私に笑いかけてくれない我が妻の眠るその墓標に。
彼女が生きて、そして死んだこの町。
この町を守るために、私は今日も門番として目を光らせる。
彼女はいなくなってしまった。
でも、この町は今もあり続ける。
その平和をかみしめ、今日も帰路へつく。
さあ、今日はもう終わり。
明日もまた頑張ろう。
そう自分に言い聞かせて――
朝。
鳥の鳴き声が聞こえる。
「……よし」
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