ハシタダさんは、不思議な少女と出会う
「ハシタダさんっ! 大変だっ!」
私がいるから平和な町に、異変が起きた。
町の冒険者ギルドを纏めているおやっさんが、門番として今日も町を守る私に、焦ったように声をかけてくる。
焦って走ってきたのか、その髪の毛がないつるりとした頭が、今はぬるりとしていそうなほどに汗をかいている姿に、私も思わず頭を触ってしまう。
……よし、私の頭にはまだ毛はあるようだ。
「大樹が光っているっ!」
「な、なんだとっ!」
とりあえず驚いてみたが、正直、ついにこのおやっさんは頭がおかしくなったのかと思った。
大樹が光る?
何を言っているのか。
いくら迷いの森からこの町を守るように聳える不思議な樹だとしても、光るなんてそんなことが起きるわけがない。
驚く声とは反対に、はんっと鼻で笑いながら私は町の反対側からでも見える大樹のほうへと顔を向けた。
「……光っている」
大樹が、白く光っていた。
「いや、だからそう言ってるだろ!」
おやっさんに心のなかで「すまん」と謝罪しながら急ぎ走る。
こんなこと、私の代じゃなくても初めてだ。
父親の代でも、爺様の代でも、そのまた爺様のまたまた爺様の代でも……
……いや、知らんけど。
私は走る。
大樹へと向かう。
何が起こるか分からない。不測の事態に備え、手には先祖代々受け継がれてきた近衛の槍を持ち、私は走る。
走りながら私は思う。
この近衛の槍。
見た目は気持ち程度に先端に穂が付いている、どこぞの衛兵や門番が持っていそうな素槍なのだが。
なぜこんな物を先祖代々受け継いできているのだろうか、と。
もっと伝説に詠われるような格好いい槍を受け継いで欲しいと何度思ったことか。
門番を職業としている私からしてみるとしっくり来るが、やはりどこにでもありそうな素槍ではないものがほしかった、と。
「――おい、ハシタダさんっ! なんで急に止まった!? また現実逃避かっ!」
おやっさんの言葉に我にかえる。
気づけば、じっと近衛の槍を見て足を止めてしまっていた。
いやいや、おやっさん。
私の代で不可思議な現象起きて町が滅んだとかになったら嫌でしょうが。
だから町長なんてやりたくないんだよ。
町が滅びそうな事態であれば、すぐにおやっさんに町長の座を譲ろうと画策しながら私は走る。
町を横断し、反対側の門へ。
抜けた先から見える、不気味な気配の迷いの森。その手前に鎮座する大樹に、私は目を疑った。
「やはり、光っている」
「だからさっきから言ってるだろ!」
「いや、再確認だ」
おやっさんがうるさい。
光に反射するおやっさんの頭もまた眩しくてうざったい。
「とにかく、ハシタダさんは状況を確認してくれ。私は一度戻って――」
逃がさんぞ。
何かあったときに町長の座を明け渡すためにも、おやっさんは逃がさん。
町へと戻って冒険者を呼びにいこうとするおやっさんの肩を力強く握り、動きを静止した時だった。
「光が……消えていく……?」
大樹の光が少しずつ薄れていき、大樹の根本に丸い球体を作り出した。
このまま何も起きなければいいのだが。
等と思いながらも、起きなくても門番家業を続けたいので、目の前の球体を確認したらすぐに町長の座はおやっさんに譲ろうと考えつつ球体へと私は近づいていく。
球体はやがて人の形を作り、ゆっくりと消えていった。
「……少女……?」
そこにいたのは、見たこともない不思議な衣装に身を包んだ少女。
「ハシタダさん。こいつぁ……」
近づき抱え起こしてみるが、少女は意識を失いぐたっとしている。
馬の尻尾のような髪型をした美しい少女だ。
私にもし子供がいたなら、ちょうどこれくらいの年辺りだろうか。
「……まだ生きてはいるな。私の家に運ぼう」
私は少女を背中に担ぎ直して町へと歩き出した。
「その子、何者だ?」
おやっさんに聞かれても知らないものは知らない。
だが一つだけわかっていることはある。
町は、今日も、平和だ。
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