第13話 退院祝いと約束

「晴…山岡くん?」


なんで冨田がここに…?


「よ、よぉ!冨田じゃねぇか!」


「どうしてここに?」


それ今、俺が思った事な。


「いや、蘭がよ、ここが俺の生まれ育った町だって言うから、ちょっと散策しにきたんだ。ほら、記憶が何か戻るかもしんねーだろ?」


「確かに。って事は蘭ちゃんと一緒に?」


「あぁ。さっきまで一緒だった」


そういえば、冨田は蘭と友達なんだっけ?病院で会話を盗み聞きした時以来、一緒にいるところは見ないから忘れてた。


「ひょっとして松葉公園、行った?」


「行ったけど…、なんでわかったんだ?」


「…え!?いや、その、なんとなく?っていうか…」


「はあ?なんだそれ!相変わらず不思議なやつだなー」


「バカにしてる?…あ、そうだ!ちょうどよかった。退院して学校行くようになったって聞いたから、退院祝いにこれ、買ってきたんだけど」


冨田は持っていた紙袋の中から綺麗に包装された四角い箱を取り出した。


「ん?なんだこれ」


「帰ってから開けて。じゃあ、今日はこれで。あんまり2人で一緒にいるところ、蘭ちゃんに見られたらまずいし」


と俺の横を通り過ぎようとした。


「待ってくれ」


気付いたら、俺は冨田の腕を掴んでいた。


「え?」


冨田は少し困惑しているようだ。ってか、引き止めた俺も、なんで引き止めたのか、いまいちわかってなかった。


ただなんとなく、記憶回収は冨田に手伝ってもらった方がいい気がした。


「あのさ、俺が記憶回収のためにこっちに来る時、協力してくんねぇかな?」


「なんで私?蘭ちゃんに協力してもらえばいいんじゃないの?」


「いや、なんとなく?…なんだけどよ」


「『はあ?なんだそれ?』って今言ってたくせに、同じ返答するんだね」


「う、うるせーよ!でも、蘭は自分と俺との綺麗な思い出しか見せてくれない気がすんだよ。冨田はなんか…そんな感じがしねーっつーか…なんか安心感があるというか…」


「なにそれ」


冨田の顔を見たら、真っ赤になってた。あれ?俺そんな嬉しい事言ったかな?


冨田は少し間を置いてから、いいよと呟いた。


「そのかわり!」


「…なんだよ」


「1回だけね!あんまり何回も2人で一緒にいると、蘭ちゃんに何言われるかわかんないんだから」


「前から思ってたけど、お前らそんなに仲良くねぇのか?見舞いも一緒に来る事も無かったし」


「んー…、友達は友達だけど、普段一緒にいるわけじゃないかな」


「なんだその微妙な関係。まぁそこまで仲良くしてないって事な。そりゃ気も使うかぁ」


「別に仲良くないって訳じゃ…」


「わかったわかった。じゃあその1回でいいよ、頼むわ。また日時は連絡取り合って決めようぜ。今日は帰るわ。じゃ」


俺は駅に向かって歩き出した。


「もう、勝手なんだから」


という冨田の声を背中越しに聞きながら。




———帰ってから、カバンから蘭のプレゼントを取り出す。


手のひらでギリギリ掴めるくらいのサイズ感。一体何が入ってるんだ?


乱雑に包装をちぎると、そこには確かに見覚えのあるものが入っていた。


なんであいつがこれを…?





———次の日。


うむ。俺はどうしてこうなっている?


学校について、俺は自分の机に座ってるのだが、何故か目の前に俺を睨みつける二宮が立っているんだ。


「…なんだよ」


じー…。二宮は何も言わない。ひたすら俺を睨み続ける。俺は大きくため息をついた。


「ったく、なんなんだよお前。なんでそんなに機嫌悪いんだ?」


「自分の胸に手を当てて考えてください」


めんどくせぇ…。でもマジで心当たりがねぇ。コイツ、昨日からなんでこんなに様子がおかしいんだ?マジでわからん。


黙り込んでいると、痺れを切らした二宮が口を開いた。


「なんで!昨日!放課後!陸上部に!顔を!出さなかったんですか!電話も出ないし!」


スマホを確認すると、確かに着信履歴が残っていた。俺は詰め寄ってくる二宮に圧倒される。が、俺も負けじと言い返す。


「なんでって…、そりゃお前こそ自分の胸に手を当てて考えてみやがれ!」


「こんな感じで?」


後ろから蘭が二宮の胸を鷲掴みにした。


なんて光景だ。


「な、何するんですか!やめてください!」


二宮は蘭の腕を振り解いた。


「それ、こっちのセリフ。2人ともこの辺にしといた方がいいよ。皆見てるから」


「あ…」


俺達は周りを見回した。確かに、皆迷惑そうにこっちを見てる。


ってか俺の学校生活、幸先悪すぎだろ。友達の1人もできる気がしねぇよ。


二宮も顔を真っ赤にして、無言で教室を走り去っていった。ざまぁみろってんだ。




———昼休み、また蘭と昼飯を食う。


「ねぇ、晴琉くん」


「なんだ?」


俺は弁当の卵焼きを頬張る。


「謝った方がいいんじゃない?」


「誰に?」


「二宮さんだよ」


「…」


「あの子、晴琉くんの事を待っててくれたんじゃないの?」


「…そうかもしれねぇけど、昨日の昼休みにアイツに会ったら、なんか知らねぇけど逃げられるし、話しかけないでって言われるしよ。それで陸上部に顔出せって、訳わかんねぇ。今の俺には、陸上部にアイツしか知り合いいないんだぞ?」


「そうかもしれないけどさ、ここは歳上の晴琉くんが先に謝った方がいいと思うんだ。電話に出なかったのは晴琉くんが悪いんだし。もしかしたら、昨日怒ってたのも何か理由があるかもしれないじゃん?」


「…」


「ね?」


「…わかったよ。謝りに行ってくる」


蘭にそう告げて、俺は今日もまたB棟に向かった。


なんだか、気が重いぜ。


二宮は昨日と同じ場所でまたスマホをいじっていた。


探しやすくて助かるが、お前も友達いねぇのか?


「二宮」


スマホに夢中だった二宮は、俺が目の前に現れるまで気付かなかったが、俺の顔を見るなり、また逃げ出そうとする。


勿論、今度は走り出す前に捕まえたよ。


「おい、待ってくれ」


あまり騒ぎにならないように、声のボリュームを抑える。


けど二宮は、そんな俺の気遣いを全部台無しにしやがった。


「変態!変態がいる!」


と叫び散らかす。


「おい、落ち着けって!さっきの事は悪かった!謝りに来たんだよ!」


「離して!変態!」


「だから俺の話を…!」


「山岡先輩?」


…あ?今、俺の背後からも二宮の声がしたぞ?


まさか、二宮って…







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記憶を失った俺と5人の彼女 2号 @yuruyuru2gou

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