第12話 キス現場

B棟に入り、1年のエリアをウロウロしてたら、すぐに見覚えのある小柄な女の子が、廊下で1人スマホをいじっていた。


わかりやすくて助かった。


それにしても、まだ階段登るだけで息が荒れる。きちぃぜ。


「おーい、二宮!」


俺は二宮に歩み寄る。


けど二宮の奴、俺の姿を確認すると、血相変えて逃げ出しやがった。


くそっ、この時間のない時に。


「おい!待てよ二宮!」


俺も咄嗟に走り出そうとしたが、走る事にまだ慣れてないからか、その場に盛大に転けてしまった。


くそっ。まだ女子マネージャーにすら追いつけないのかよ。


すぐさま立ち上がり追いかける。


そしたら、今度は上手く走り出せた。一気に二宮に追いつく。やっぱ陸上部なだけはあるな。


逃げる二宮の腕を掴んで引き止めた。


「なんで逃げんだよ!」


二宮は何も言わない。俺はゼェゼェ言いながら続ける。


「そうだ、それより聞きたいことがあるんだ。陸上部の宇佐美とかいう奴の事なんだけど…」


「知らない!話しかけないで!」


えー…。


辺りから冷たい視線を感じる。この感じ、今日2回目だ。


どいつもこいつも、今日やたら俺に冷たくね?


俺は渋々教室に帰る事にした。





帰り道———


今日は陸上部の奴らに挨拶だけしようと思ってたけど、二宮もあんな感じだったから、結局部活の方に顔出すのはやめた。


(部に馴染めるようにサポートします。だから安心してください!)


とか言ってたのに、なんだよ。話しかけないでってよ。


「晴琉くん、なんか怒ってる?さっきから眉間にシワ寄せて、なんか怖いよ?」


蘭が心配そうに俺の顔を覗き込む。


「あぁいや、なんでもねぇよ。悪りぃ」


「ならいいけど」


そうだ、それよりコイツにも聞きたいことが…


「なぁ蘭。この間、病院で『小学生の時には

俺とキスしてた』って言ってたろ?あれって、もしかして公園の中だったりしたか?」


蘭の瞳孔が開いたのがわかった。


「思い出したんだね!そうだよ!私と晴琉くんの初キスの場所!松葉公園!」


「松葉公園…」


「そう!松葉公園!私が暫くフランスに行く事になって、お別れの挨拶をしに行ったら、晴琉くんが花束くれたの!」


興奮気味に話してる自分に気付いた蘭は、ヘヘッと笑ってから落ち着きを取り戻す。


「そして最後の別れ際…キスしたんだよね」


やっぱりそうだ。あの幼少時の夢の子の正体は蘭だ。間違いない。


「その松葉公園とやらにはどれくらい時間がかかるんだ?」


「え、今から行くの?遠いよ?私の家の近所だし」


「って事は今から1時間ちょいか。いいぜ、行こう」


俺はポケットからスマホを取り出した。母さんには、今日は少し遅くなるとメッセージでも入れとこう。





電車に揺られる事、1時間———


俺はいつの間にか寝てた。


「晴琉くん、次の駅だよ」


「んー、んにゃ?」


蘭に心臓の辺りをポンポンッと叩かれ、俺は目を覚ました。


あれ、なんか顔の右側が暖かい…それにシャンプーのいい匂いがする…


「わ、悪りぃ!」


どうやら俺は、知らぬ間に蘭の肩に寄りかかっていたらしい。


「いいじゃん、それくらい。私達付き合ってるんだし」


「そ、そうだったな」


いや、でも普通逆だよな?こういうのって、彼女が彼氏に寄りかかるもんじゃねーのか?


そうこう考えてる間に、蘭の最寄り駅に到着した。



…あれ、なんだろう。


駅に降り立った瞬間から、なんだか懐かしい感じがする。


事故後に意識を取り戻してから、初めての感覚だ。


俺の体が、少しこの光景を覚えてるのかな?


だとしたら、この駅周辺は今日に限らず今後も散策する価値はある。


もしかしたら、何か思い出すかもしれない。


「…晴琉くん。…晴琉くんってば!」


ボーッとしてたら、いつの間にか俺より先にいた蘭に急かされる。


「早く行くよ!晴琉くんの帰り、遅くなっちゃうよ!」


蘭は早くもエスカレーター乗り込んだ。


「あぁ、今行く!」




公園は駅から徒歩10分といったところか。すぐにたどり着いた。


ここが松葉公園…。


かなり大きい。暑さが日に日に増してきていたが、公園内は木々の影に包まれていて、とても涼しかった。


「松葉公園は、この辺の公園では1番大きな公園なんだ。私達がいつも喋っていたところはあそこの芝生の上。木の隙間から届く日差しが気持ちいいの」


蘭は歩きながら、奥に見える芝生の広場を指差す。芝生は綺麗に整備されていた。


俺は試しに芝生に座り込んでみる。


「へぇ、確かに気持ちいいな」


ぐるっと辺りを見回した。


確かに、今日の夢で見た公園だ。


「どう?何か思い出した?」


「いや、何も。ただ、駅を降りてからやたらと懐かしさを感じるんだ。気のせいかな?」


「気のせいじゃないよ」


「やっぱり?」


「うん。ここは晴琉くんが最近まで住んでた町だから」


「俺、引っ越したのか?」


「そう、ちょうど事故で記憶を失う少し前だったわ。私もビックリしたよ。いきなり遠くに行っちゃうんだもん。まぁ私は晴琉くんと同じ高校だったし、寂しくはなかったけど」


蘭の言う事が本当だとしたら尚更、まだまだこの辺を散策する必要がありそうだな。


俺は勢いよく芝生から立ち上がった。


「蘭、今日はありがとう。もう夕方だし、帰ろうぜ。家はここから近いんだったよな?」


「うん、すぐそこだけど」


「ついでだし、家まで送ってくよ」


蘭を家まで送ってからも、俺は付近をブラブラと散策した。


んー、何も思い出せないんだけど、なんか懐かしいんだよなー。


そう思いふけりながらフラフラと歩いてる時だ。


「晴…山岡くん?」


振り返ると、そこには冨田レイがいた。



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