第10話 学校
———ここは…、公園?
また記憶関係の夢か。この感じ、久しぶりだな。
なんだか周辺にある木や遊具が全て大きく感じる。いや、自分が縮んでるのか?
なるほど、これは俺が幼少期の記憶…。
この身長、おそらく小学5、6年といったところか。
何故か自分の手には花束。花屋で買ったものではなく、公園の花を摘んで作ったもののようだ。うまく作れているが、色にまとまりがない。
目の前に、今の俺と同い年くらいの女の子が立っていた。一体誰なんだ?
俺はその女の子に花束を渡す。女の子は花束を見るなり、目をキラキラ輝かせ
「すごく綺麗…」
と呟いた。
それから俺達は公園の芝生に座り、話をした。俺は盛り上げようと頑張ってるようだが、女の子はどことなく悲しそうだ。
「そろそろ、時間だね」
しばらく話した後、女の子が言い出した。
俺達は少し沈黙する。どうやら、ここで別れの挨拶の約束でもしていた様だな。
「じゃ、もう行くね!」
女の子は俺に背を向けて歩き出したが、少し歩いたところで振り返る。
「あ、晴琉くん!あとひとつだけ、言うの忘れてた!」
そう言うと、俺の方にまた駆け寄ってきた。
自分の顔がほころんでいるのがわかる。
女の子は俺の目の前で立ち止まった。距離が近いな。
「私の最初の友達になってくれてありがと!」
とお礼を告げた後、俺の耳元まで顔を近づけ、囁くような声でこう続ける。
「それと、私の初恋の人になってくれて、ありがと」
そう言うと俺の顔を見て、ニコッと笑った。
マジか。
そして最後に俺の両頬を手で抑え、少し強引にキスされる。思わず体が強張る。
「じゃーね!」
女の子は走って去っていった———
「晴琉〜!そろそろ起きなさい!」
「ん〜、んにゃ?」
目を開けると、そこにはいつもと違う天井があった。
そうか。俺、退院したんだ。
昨日、ちゃんと母さんが車で迎えに来てくれた。
病院からは車で30分くらい。結構立派な家だ。もしかしたら、俺の家族は割と金持ちなのかもしれない。
今回はかなり長めの夢だったな。
そう思いながらベッドから降りる。
あの女の子、誰だったんだ?
もしかしたら見舞いに来てくれた4人のうちの誰かか。だとすれば、今のところ可能性が高いのは蘭だけど…。
毎回毎回、情報が断片的すぎて、1人じゃ解決できないんだよな。
やっぱアイツらに聞いてみるのが早いか。いや、でも今回の内容を説明するのは少し恥ずかしい。
…やめとこう。
一階に降りてダイニングに入ると、凄く綺麗な盛り付けで朝ごはんが並んでいた。腹が減ってたので、即座に座って味噌汁をすする。
くぅー!
昨日の夕飯もそうだったけど、ずっと病院食だったから、上手い飯が食べられる喜びが溢れる。
ってか、母さんマジで料理が美味い。絶対そこら辺の母の味より上だろ、これ。
でも、なんか起きてからずっと違和感があるんだよな。俺の体が、このパターンの朝に馴染んでない。多分、事故前の朝はもっと違うルーティンだった気がする。
急に頭が痛くなる。キーンって効果音が頭に響き渡る。なんだこれ…何か思い出しそうだ…。
俺のいつもの朝…
誰かに叩き起こされて…
『そいつ』と一緒に家を出て…
あれ?誰だ、『そいつ』って?
頭痛は急に引いていった。思い出せるのはここまでか。
「なぁ母さん」
俺は皿洗いをしてる母さんを呼んだ。俺が頭痛に苦しんでいた事には気付いてないみたいだ。
「なぁに?」
「俺、毎朝こんなに優雅な朝、迎えてたっけ?」
母さんの皿洗いしてる手が止まる。
「そ、そうね。今日はいつもより少し張り切っちゃったかも」
何か少し取り乱してる様に見える。
もしかして、俺に何か隠してんのか?
「それに、父さんは?もう仕事に出ちまったのか?」
「父さんはね、配送トラックの仕事してるから朝早いのよ」
「へぇ」
そういえば、父さんはあまり見舞いにも来なかったし、家に帰ってからも夜に少ししか顔を合わせてないから、そこまで会話できてない。
だから記憶を失ってからの俺にとっては、まだ他人と大差ない関係だった。
準備を済ませたら、初日だからと母さんが車で駅まで送ってくれた。
徒歩で行ける距離だったから、明日からはちゃんと自分で通えそうだ。
電車の乗り方は、ちゃんと覚えていた。事故前から使っていた定期を改札に通す。
駅で待つこと10分。俺が乗る電車が来たので乗車した。
辺りを見回すと、同じ制服の奴らがゴロゴロいる。
でも見覚えのある奴は1人もいなかった。やっぱ俺、なんも覚えてないんだな。
取り戻した記憶といえば、生徒会室で篠原の胸を揉んだ事くらいだ。
駅には15分ほどで到着。
そこからの道のりは昨日調べたが、うろ覚えだった。なので同じ制服の奴らの波に乗って学校を目指す。
5分ほどで、すぐに学校が見えてきた。
へぇ、結構綺麗な学校だな。建物は今風の作りになっていて、校門の先には手入れされた綺麗な庭がある。
あれ?見覚えのある生徒がいる。
「篠原ぁ!」
初めて知り合いを見つけた俺は、なんだか救われた様な気分になった。
「おはようございます」
「何やってんだお前、こんなところでよ!早く学校入ろうぜ」
と篠原の手を引っ張ろうとしたら、振り解かれた。
「やめてください」
「なんでだよ」
「今は挨拶運動中なんです」
「挨拶運動?なんだそりゃ?」
「全校生徒と挨拶を交わすこと…、生徒会の仕事のひとつです。わかったら早く自分の教室へ入ってください。貴方は2年C組です。奥に見えるA棟の2階にあります」
篠原は目を合わせることなく、A棟を指差す。
ちぇっ。なんだか冷たくね?
けど俺は、周囲の生徒に少し白い目で見られているのを感じたので、これ以上は篠原に絡まない事にした。
えーっと、2年C組っと…
ようやく2年のフロアにたどり着いたので、C組を探す。
てかこの学校、やたらと広すぎんだろ。
余裕持って到着したはずなのに、遅刻しそうになっちまったぜ。
…C組、見つけた。
なんだか緊張してきたな。
1度立ち止まる。このクラスの連中は、俺を受け入れてくれるだろうか。なんだか転校生の気分味わってるみたいだ。
まぁいいや、ごちゃごちゃ考えてもしょうがねぇ。
…よし、行くぞ。
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