第7話 プリクラ
「プリクラ撮った?」
「へ?」
「プリクラ!知らないの?ラブラブのカップルがゲーセンに来たらプリクラ撮るんだよ?」
「だから俺達は…」
「案内してあげるね!」
女の子は俺と篠原の手を引っ張り、再びゲームセンターの中に連れ戻す。
引っ張る力が意外に強くて、松葉杖でついて行くのが大変だ。
ゲームセンターの1番奥には、プリクラ機の大群が待ち構えていた。
カーテンに印刷されたモデルの女が、撮れよと言わんばかりにキラキラした目で威圧してくる。
「これが1番人気のやつなんだって!」
「ぉおい!」
手を引かれるがまま、俺達は人気ナンバーワンのプリクラ機のカーテンの中に突入した。
つーか、プリクラってどうやって撮るんだ?他のゲーム機のいじり方は体が覚えてたけど、これだけはさっぱりわからん。おそらく、記憶を失う前も撮ったことないんだろう。
「これを押すとね…」
女の子が目の前のタッチパネルをタッチすると、プリクラ機が喋り出す。
「人数を選択してね!」
選択肢は『2人』『3人以上』の2つ。
「あ、あの!よかったら3人で撮りませんか?」
篠原が女の子に提案する。
「ダメだよ。ラブラブのカップルは2人で撮らなきゃいけないんだから」
女の子が『2人』を選ぶ。
「だから俺達はカップルじゃ…」
「2人の関係を選んでね!」
俺の言葉はプリクラ機に遮られた。
ってか、2人の関係だと?俺はタッチパネルを覗き込む。やはり『友達』『カップル』の2択…。
ここで『カップル』を選択しようもんなら、流石に篠原にも迷惑かけちまう。ここは女の子より先に『友達』を…
と手を伸ばしたが、次は篠原にその手を押さえられる。
「ここは女の子の言う通りにしてあげましょう」
篠原が俺に囁く。
「いいのか?『カップル』選んだら、それ相応のポーズをする事に…」
いや待て、所詮写真だ。ポーズは自分で決めればいいじゃねーか。ここを女の子の言う通りにしたとして、あとは2人でプリクラ撮るんだから、その先はいくらでも自分達でコントロールできる。
案の定、女の子は『カップル』を選ぶ。
「じゃ、あとは楽しんでね〜!」
女の子がカーテンから外に出た。よし、これであとは…
「あ、終わったら私にもプリクラちょうだい!素敵なカップルと出会ったって、皆に自慢するんだ〜!ちゃんとカップルっぽいの、撮ってよね!」
なにぃ!?
カーテンの中に戻ってきた女の子の最後の一言は、俺達にとっては何より重い一言だった。
女の子が再びカーテンの外に消えると、プリクラ機がまた喋り出す。
「準備ができたら、画面の『撮影する』ボタンを押してね!」
「どうする?」
俺は篠原の顔を見た。
「さ、最善を尽くしましょう」
篠原の顔は少し引き攣っている様に見えた。コイツ、無理してんじゃねぇのか?
まぁいい、俺は『撮影する』ボタンを押した。
「1枚目、仲良く頭をコツン」
こ、これくらいなら…。
俺はぎこちなく篠原の頭に自分の頭を近付けた。
「3、2、1…」
シャッター音が鳴り、タッチパネルに俺達の顔が映し出された。
俺も篠原も別人みたいな顔をしてる。
「2枚目いくよ〜!次は、お互いのホッペをツンツン!」
ツンツン、だと?
「早く、カウントダウン始まりますよ」
「わ、わかってるよ」
ツン。篠原の頬は俺よりしっとりしてて柔らかかった。きちんと化粧水やら乳液やらで手入れしてんだろうな。
これくらいのレベルの指示があと3回来た。恥じらいに耐え、なんとかこなす。
しかし、5枚目。
「じゃあ次は〜、後ろからハグ!」
「おい、これは流石に…」
すると篠原は俺の前に回り込み、俺の腕を掴んで自分の腰に回した。
シャンプーの匂いを感じる距離…。
って、いいのか篠原。
「じゃあ最後は、チューしちゃおう!」
チュ、チューだとぉ!!
俺は篠原を横目で見た。
え、篠原?
篠原が近付いてくる。
え、まさか…
「3…」
篠原はカメラに少し背を向け、顔を更に近付けてくる。
「2…」
唇が数センチ先に!
「1…」
もうダメだ、目を開けてられん!
パシャ!
あれ?
キス、されなかった。
そうか!死角を作って、あたかもキスした様に見せたのか!
なるほど、考えたな篠原。少し期待しちまったが。
プリクラのカーテンから外に出ると、さっきの女の子が待っていた。
落書きを適当に済ませて、2人分出てきたプリクラの片方をあげると、
「やっぱりラブラブカップルだ〜!ありがとう!」
と言って、親の元は帰って行った。
「ふぅ、とりあえずラブラブカップルっぽいの撮れて、女の子も喜んでくれてよかったな。…篠原?」
返事がないので後ろを振り向くと、篠原が真っ赤な顔をして俯いていた。
「なんだよ、やっぱ無理してたんじゃねーか」
「べ、別に無理なんか…」
「うお、いけね。そろそろ帰らねーとな」
気付けば予定より30分近くオーバーしてた。篠原もハッとする。
「そうですね、帰りましょう」
帰り道は俺より篠原の方が焦っていた。まぁそうか、病人を無断で連れ回した事になるんだもんな。
まぁ俺のわがままを無理矢理聞いてもらったし、看護婦さんにバレても、できる限り擁護するつもりだが…。
病院の敷地内に入ったところで、篠原はホッとした表情を見せた。
病院の出入り口がどんどん近付いてくる。あぁ、またあの室内の中に戻るのか。
これまでが、あまりに刺激的で楽しい時間だったから、余計憂鬱に感じる。
そんな気持ちを抱え、中に入ろうとした時だった。
「晴琉くん?」
誰かが俺を呼び止めた。
この声は…。
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